中学受験は、「狂気」との闘いである
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記事:田岡一宏(ライティング・ゼミ日曜コース)
「もう、中学受験なんてやめてしまえ!」
妻に向かって怒鳴っていた。
娘の勉強を見ていた妻が、娘の理解の遅さに切れた挙句、吐き捨てるような口調で
「何回同じところを間違えば気が済むのよ! 本当に頭悪いんだから!」と言ったことにカッとなったのだ。
妻は仕事で疲れて帰ってきているのに、娘の勉強のプランニング、勉強の付き添いを頑張ってくれている。娘のためを思って一生懸命やっているのも十分理解している。でも、この「頭悪い」という暴言は許せなかった。普段、穏やかで優しい妻がこんな発言をするのも、その時はまったく理解できなかった。
「妻が怒る→娘が委縮、やる気を失い、さらに理解が遅くなる→妻の怒りが増幅し、暴言を吐いてしまう→私が妻に怒鳴る→妻の怒りが娘に向かう」というエンドレスの悪循環が続いていた。
娘が中学受験を目指して塾に行き始めた昨年の2月から、家の中が険悪な雰囲気に包まれていた。4月にはコロナ禍による緊急事態宣言で、家族全員が狭い家に閉じ込められ、事態の悪化に拍車がかかっていた。
もう、無理! 限界! 中学受験なんか止めよう!
我慢の限界が近づいていた。だが、本当にやめて良いのか? という思いも心の片隅に引っ掛かっていて、すぐには判断できなかった。
数日後、どうして中学受験をしようと思ったのか? 冷静に振り返ってみた。
・私立中学は、学校ごとに教育方針・カラーがハッキリしているので我が家の教育方針と合う学校を選べる
・今後来る大学受験の大変革に対し、柔軟で迅速な対応力がある
・中高一貫校のため高校受験を回避できる
・継続性のある6年間の学びで、じっくり自分の個性を磨いてほしい
そんな思いで中学受験を選択したのではなかったのか!
もう少しだけ、中学受験を継続できる道を探ってみよう。それでも無理なら止めよう。そう思い中学受験に関する先輩父母のブログや専門家の本を読み漁った。その中でも「中学受験 女の子を伸ばす親の習慣」(安浪京子著)は非常に参考になった。
これらの情報から、次のことを改めて強く認識した。
・子供の成熟度が低くて受験のタイミングではない子供もいるので、親はよく見極めること
・中学受験は、高校や大学受験と違って、子供と親が一緒に頑張るもの
・第一志望の中学に行けなかったとしても、最終的にご縁のあった学校できっちりと充実した6年を送れるように前を向かせること。子供は切り替えられるが、親の方が切り替えられないことが多いこと
・第一志望に合格できる子供は、三割しかいないこと
自分の頭の中が整理できたところで、妻と話し合った。
まず、我が家の子育て方針について確認した。
いい大学、いい会社に入るのがゴールではない。せっかくいい会社に入ったのに挫折して、仕事を辞めてしまう若者もいる。どんな困難に合っても、粘り強く働いて生きていける社会人になることがゴールじゃないか。
次に、受験について思いをぶつけた。
第一希望の学校に受かろうが受かるまいが、中学受験が終わった時、家族全員がこの経験を前向きにとらえられるような、そんな受験にしたい。間違っても「中学受験なんかしなきゃよかった」ということにはしたくない。親離れする前の娘と一緒にトライできる最後のイベントになるので、できるだけ愉しんでやりたい。
妻は、娘に良い教育を受けさせたいのでレベル高い学校に入れたい。だから、偏差値をあげるために一生懸命頑張っていたけど、それで娘が必要以上に苦しむのは嫌だし、家の雰囲気も良くしたいし、と理解してくれた。
もう一つ手を打った。
妻が娘の勉強を見るのは、内容的にも精神的にも難しくなってきていることは、お互い分かっていた。そこで専門家(個別指導)の力を借りることにした。お金はかかるが、妻の精神状態を良く保つことが最優先だ。
幸い娘と個別指導の相性もよく、妻も肩の力が適度に抜けたためか落ち着きを取り戻し、穏やかで優しい元の状態に戻った。それと共に家の雰囲気も良くなってきた。娘の偏差値に変化はないが、少しずつ自分から勉強に取り組むようになった。親が傍にいて強制的に勉強させていた時は嫌々勉強していたのだが、不思議なものだ。
中学受験の山場は、東京・神奈川の入試がある2月1~3日だ。娘は5年生なので、まだ先のことだと思っていたが、あと1年後には結果が出ているのだと思うと身が引き締まる思いがした。
中学受験を徹底的に取材して生み出された漫画「2月の勝者」(高瀬志帆著)では、特に6年生の1年間は受験する子供より親の方が、受験にまつわる「狂気」に振り回されて自分を見失い「親子関係が崩壊する」ケースが多く描かれていた。
第一志望としてレベルの高い学校に向かってチャレンジはするが、もしダメだったとしても合格した学校が娘にとってベストの学校だということを肝に銘じて、本番に向けて「狂気」と闘いながら娘と妻と最後まで一緒に伴走してゆきたい。
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