人間、そんな急には変われない
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:りお(ライティング・ゼミ日曜コース)
「このうどん、一つお願いします」
久し振りに発した日本語に、自分が日本人であることを思い出す。周りを見渡せば外国人だらけで、飛び交う言葉は中国語や韓国語、英語ばかり。目の前に広がる風景は見慣れた「日本」なのに、まるで異国の地にきてしまったような気がしていた。
大学2年生の秋、私は一人旅しに京都へきていた。
ちょうど遡ること一カ月前、当時お付き合いしていた彼にあっさりフラれる。大学生の夏を二人でエンジョイした先に、まさかこんな別れが待っているとは予想もしていなかった。
「りおは、彼女というよりペットみたいな感じ」
残酷な一言であった。一週間後に控えていた京都旅行はもちろんキャンセル。自由席の新幹線チケットだけは、いつか役に立つかもしれないと思い、手元に残しておいた。
その次の日からが地獄だった。一方的に別れを切り出されたものの、私は中々吹っ切ることができない。同じ大学、同じ授業を受けているからか、忘れたくても毎日顔を合わせてしまう。早く彼を忘れたい。もう次に進みたい。
色々な感情がぐるぐるしていた時、ふと新幹線のチケットを思い出した。
一人旅したら、何かが変わるかもしれない。
よく、雑誌やテレビのインタビューで、一人旅が自分の世界を広げる! 旅が人生を変えた! といったフレーズを目にしていた。宝くじの感覚と似たようなものだったのだろう。その一回、その一枚の新幹線のチケットに自分の人生を賭けてみたくなった。日帰りなので近場がいいと思いつつ、旅行先は京都を選ぶ。
初めての一人旅は、旅行後の自分の変化が楽しみである気持ちが大きかった。普段の被らないようなベレー帽を被り、伊達メガネをかけてみる。自分ではない誰かに変装している気分だった。
嵐山に向かうと周りは外国人観光客でいっぱい。交わされる言葉も知らない単語ばかりで、自分は今どこにいるのか時々見失ってしまいそうになった。
目の前に広がる竹林に感動していると、後ろの観光客が「So beautiful!!!」と声をあげる。私もあなたと同じ気持ちだよ、と話しかけたかったが、どう表現したらよいかわからず、黙々と歩いた。
そろそろお昼ご飯を食べたくなり、お店を探す。事前にリサーチをしていなかったせいで、京都ならではのお店を見つけられない。見つけられても混んでいて入る気になれなかった。結局、屋台のようなお店で650円のうどんを頼むことにする。
「このうどん、一つお願いします」
すぐに出てくるうどんをすすりながら、急に切ない気持ちになった。この一人旅でもっと劇的な変化を願っていた自分があほらしく感じた。
「一人旅」に頼って自分の性格が変わる、気持ちや思考の整理がつくかもしれないと思ったけれど、全くそうではなかった。外国人とコミュニケーションをとるのは躊躇するし、おいしいお店も一人じゃ見つけられない。本来の目的であった彼のことを、全然忘れられていない。
そんなもんか~。
宝くじに願いこめて、夢を見る人たちの気持ちが自分の状況に重なった。
私の夢は一枚のチケットでは叶わなかったみたい。たった一日の京都旅で人生が変わるなんて甘いものじゃないよね。
そう思ったら、少し肩の力が抜けてきた。よし、行きたかった清水寺に行こう。
相変わらず異国の地にきた感覚は抜けなかったが、ひとりで旅をしているわくわく感を味わい始めた。ちょっとこの小道に行ってみよう。わらび餅買っちゃおうかな。自分で自分と会話しながら過ごしていたら、自然とご機嫌になっていった。
たった一日しかいなかった京都。帰りの新幹線では、ぐったり疲れて寝てしまった。
次の日から、正直なにも変わっていなかった。やっぱり彼のことは忘れられない。
けれど、急に忘れるなんて難しいよね、と自分で自分を励ますことができるようになっていた。いつか時間が解決してくれるよ、新しい出逢いがあるかもしれない! と前向きなりおが心の中で会話をしてくれる。
大学2年生の自分へ。
あの時、前向きな私の声を聞いてくれてありがとう。その後ね、かなり時間がかかったけれど、自然に彼を忘れることができたよ。そう、時間が解決してくれたんだ。それと同時に、新しい人にも出会えた。その人は、私をペットみたいなんて言わない人だよ。だから、大丈夫。
京都旅行は私にとって大切な時間だったんだよ。あの頃から自分をご機嫌にするための行動をとれるようになったよね。だから、一人旅で何も変わらなかったわけじゃない。きっと、あの時望んでいた劇的な変化よりも、もっと幸せに近づける何かを自分で手に入れたんじゃないかな。
思い通りにならなかった過去の思い出も、振り返ると全て今の自分に繋がっていて、時々自分を助けてくれているのかもしれない。あなたには、そんな出来事がありますか?
***
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