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あなたを支えてくれる人はそばにいる


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岩槻まなみ(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「大丈夫か! 怪我してないか!」
 
夫が叫んでいる声が遠くでぼんやり聞こえた。
 
一瞬、何が起こったのか分らなかった。
 
苦しい……。私が寝ていた掛け布団の上にタンスが倒れているのだと、やっと理解することができた。重くて苦しいが不思議と痛みはない。
 
ハッ! 泣き声が聞こえない。娘は大丈夫か?
 
「エリ! エリ!!」
 
暗闇の中、私は必死で1才になったばかりの娘の名前を呼びながら手探りで探した。
 
いた! 私のお腹あたりで泣きもせずにじっとしていた。奇跡的なことに私の身体が支えとなり、娘にはタンスの重みはかかっていない。ああ、良かった。
 
1995年1月17日午前5時46分、阪神淡路大震災。すさまじい衝撃音と揺れを体験した。
 
当時、私は神戸市東灘区のマンションに夫と1才の娘と3人で暮らしていた。
 
娘の夜泣きがひどかったため、私と娘は夫とは別の部屋で寝ていたのだ。
 
「大丈夫か!」叫びながら夫がタンスを動かそうとしている。
 
「うん。エリも大丈夫。タンス、動かせそう?」
 
冷静な自分の声にビックリした。
 
「部屋中ガラスの破片だらけだから、靴はけよ」
 
なんとかタンスの下から這い出した私と娘。
 
目をこらしてみると、部屋のなかは錯乱状態。夫が玄関から運動靴をもってきてくれた。
 
食器棚が倒れて皿やコップの破片が飛び散っていた。冷蔵庫は横転して扉が開いたままになり、昨夜の鍋に入ったシチューが床に飛び散っていた。テレビが窓ガラスを突きやぶりベランダに転がり、電子レンジが廊下でひっくり返っている。
 
カーテンを開けて外の景色を見たとき、一瞬目を疑った。そこには、何カ所からも火の手があがっていた。道路のアスファルトは張り裂け、あるところは盛り上がり、電柱は傾いていた。
 
困った。倒れたタンスの扉が開かない。夫婦の服も娘の服も何一つ取り出すことができない。
 
仕方なく転がっていたコートだけをパジャマの上に羽織って、避難所へ行くため玄関のドアを開けた。
 
外に一歩踏み出すと、そこにはベランダから見たときよりもリアルな地獄絵図が広がった。
 
マンションの1階は潰れ、車はひっくり返り、木造の家は軒並み倒れていた。
 
いたるところから、切羽詰まった声が聞こえる。
 
「男の方、力を貸してください!」
 
確かにここは2階建てだったはずなのに目の前に瓦屋根がある。瓦屋根の下にまだ人がいるらしい。夫は手伝いに走り、私は娘と毛布を抱えて避難所に向かった。
 
近所にある中学校の体育館に多くの人が集まっていた。同じマンションの人や公園でいつも娘と遊んでくれているご家族、みんなで声をかけあった。
 
お隣に住む小学3年生のお姉ちゃんが走り寄って来てくれた。
 
「えりちゃん、ソックスはいてないの?」と言うと、自分のリュックから靴下を取り出し、
 
「寒いから、これ私のだけど」と娘の足の倍くらい大きなソックスをはかせてくれた。有り難くて涙がこぼれた。
 
「戦争の時よりヒドいわ」
 
一人のおばあちゃんが、ポツンとつぶやいた言葉が体育館中に響く。
 
大きな余震が頻繁におこり体育館は何度も揺れる。揺れる度に誰かの「おお!」という声が聞こえる。
 
「転がったポットの中にお湯が残ってたわ、使って!」
 
「離乳食がわりにバナナがあるわよ」
 
「あそこの水道管が壊れて水が出てるわ。飲めるか見てくるわね」
 
それぞれが自宅から持ってきた食べ物や飲み物を出し合い、皆で声をかけあって食べ物を口に押し込んだ。
 
震災で6400人もの尊い命が奪われた。特に東灘区は被害が甚大だった。
 
阪神高速道路が600メートル以上にもわたって倒壊した画像は記憶に残っている人も多いと思う。
 
多くの人が亡くなり、自宅はいつ崩壊してしもおかしくない状態。道路のアスファルトは陥没していて車も出せない。飲み物も食べ物もない。夕方になると真っ暗になり、とてつもなく寒い。
 
そんな中、私は避難所にいて不思議な感覚にいた。
 
「何して遊ぶ?」「みんなでお歌を歌おう」「大きな子はちっちゃい子を見てあげて」と、いつもと同じように子どもたちに話しかける。
 
普通に考えれば最悪な状況なのに、我が子を含めて7人の子どもたちが居てくれることで、大人たちは不安に押しつぶされず感情を保つことができた。子どもたちに心の傷を負わせてはいけない、大人たちは気丈に振る舞うことができた。
 
小さな子どもであってもお年寄りであっても、誰もが誰かを気遣い助け合う。
 
「人は人の中で生きる」という言葉は本当なのだと理解できた瞬間だった。
 
今年も1月17日がやってきた。
 
あの日から26年が経ち、1才だった娘は社会人として人の為に働いている。
 
あれほど多くの人命が失われた中で、怪我もせず心の傷もなく生きてこられたのは、本当に奇跡的なこと。ありがとう。ありがとう。とてつもなく深くて大きな感情が自分の中で沸き起こり胸が一杯になる。1月17日は、そばにいてくれた全ての人に感謝が溢れ涙が止まらなくなる日だ。
 
意識してもしなくても、あなたは誰かを支えているし、誰かに支えられている。どんなに苦しい時もあなたを支えてくれる人はそばにいるのだ。
 
さあ、明日も生きていこう。感謝の気持ちを抱えながら。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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