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20年越しにもらった合格通知


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:藤井明子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「緊急事態宣言中ではありますが、大学入試共通試験は行われるようです」
 
ニュースから流れるアナウンサーの声である。
また、嫌な季節がやってきた。私は入学試験の季節が苦手である。
私自身、入学試験に合格したためしがない。正確には、第1志望に合格したことがない。
入学試験の合格通知を喜んで手にすることはなかった。
 
だから、入学試験の季節は、胸の奥がチクッといたくなるような、胃の中が重たくなるような気分になることがある。
 
私の受験生活のスタートはこうだった。
 
「偏差値って知っているか」
まだ小学校3年生の私を目の前に、お父さんが聞いてきた。
「50以下ということは、平均点がとれていないということだ」
人以上に努力しないと、半分以上にはなれないのだから、もっと努力しろという話をされた気がする。その横で、お母さんは泣いているように見えた。
私の成績が悪いせいで、お父さんを怒らせてしまって、お母さんを悲しませてしまったのだと思った。
 
自分のための勉強というより、お父さんを怒らせないように、お母さんを悲しませないように、できれば二人に喜んでもらいたいと思って勉強していた。
中学受験する子なんかほとんどいない公立小学校だったけれど、口答えすることなく塾に通い、時には家庭教師にも勉強を教わっていた。
頑張っても、頑張っても、空回りをする感覚で、緊張ばかりしていた。
テストの点数が悪ければ、クラスも落ちるし、怒られると思っていたからだ。
 
そんな状態で、中学受験をしたから、結果は滑り止めに受かる程度だった。
 
人と直接接して、役に立つ仕事に就きたいと思い、私を心配している親を見返したい思いもあった。医学部に行きたいと思うようになった。
 
医学部を目指した時にも、誰もまさかほんとに行きたいと思っているなんて、信じてくれなかった。学校の先生も、両親も、薬学部を勧めてきた。成績は数学を除けば、散々な結果ばかりだったからだ。現役時代は医学部全滅のありさまだった。一年の浪人生活をし、センター試験を受けたが、結果は散々だった。国立大学医学部を受けられるところはわずかで、もちろん不合格だった。なんとか合格した私立の大学に入学することになった。
 
その後、無事に医学部を卒業し、国家試験を合格し、専門医試験もいくつか合格してきた。
 
苦労の末に夢をつかんだと見られ、もう充分ではないか、と言われることもあった。そう思う自分も少しはいた。しかし、私は勉強ができなくて、親から認められたという感覚がなく、頑張らなければならない、頑張らないと認められないと思ってしまうことから抜け出せなかった。
 
頑張ることを標準装備としてきたのだが、子どもを3人育てるようになって、頑張りがきかなくなってきた。日常生活はいつも通りに過ごせているものの、「もうこれ以上一人で頑張ることはできない」と頑張りの標準装備が壊れ始めていた。
 
心理学の本を読み、カウンセリングや、セルフカウンセリング講座などを受けるようになっていた。
その学びを通して、私の幼少期の古傷があるために、今現在の心の癖があることを知った。一方で、古傷のせいにすることで、これ以上頑張れない自分をつくっているという事もわかった。結局、過去はどうであれ、その事実をどうとらえるかは自分次第なのだ、ということも知った。
 
頭ではわかり始めていたが、心がうずくような感覚になることがまだあった。
 
古傷のかさぶたはもう少しで治りそうなのに、ちょっとしたきっかけがあれば、かさぶたがはがれてしまって、痛みを覚えることもあった。それでも、心の癖に気がとめて、少しずつ整えていくということを繰り返した。繰り返していくうちに、自分責めの人生から、そんなに責めなくても良いのかも、と思えるようになってきていた。
 
そんな時に、また入学試験の季節がやってきた。
でも、ちょっと待て、今までの私とは違う。
だって、入学試験に失敗だらけだったからといって、決してダメだった人生ではなかったし、今は幸せに暮らしているではないか。
 
たとえ、親から認められる言葉が聞けなくても、もういい。
怖い気持ちもあったが、親から卒業するために、メッセージを送る事にした。
 
父へ次のようにメッセージを送った。
 
「今日はセンター試験だね。
私は試験では失敗ばかりだったよね。
お父さんの期待通りには生きていないかもしれない。
心配ばかりかけたかもしれない。
でも、今幸せだよ。
そんなことを伝えたくなったので、
ラインしてみました」
 
既読マークがつき、すぐに返信がきた。
 
「遥かに期待以上ですよ。
ありがとう」
 
一人、部屋で泣き崩れてしまった。
あの日の私の努力は無駄ではなかったし、ダメでもなかった。
入学試験では手にすることはなかった合格通知を、20年越しでようやくもらった。
私の人生を自分で選んで進むことのできる合格通知だった。
 
受験シーズンまっただなか、合否判定で揺れる季節だ。
努力の日々は決して無駄ではない。
どうなっても、いつかきっと実は結ぶから大丈夫。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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