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メディアグランプリ

広くて深く、シャイな国「ロシア」の魅力


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木謙二(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「ボリショイ? ボリショイ?」
 
モスクワ市中心部にある公園のベンチで、妻が劇場らしき建物を指さしながら、(隣のベンチに座っていた)警察官3名に尋ねる。それを聞いた彼らは、後ずさるようにして離れたベンチへ移動する。なぜ?
 
夢の途中ならこの辺りで目が覚めてもいい頃だが、これは夢ではない。
2014年の夏がよみがえる。
 
念願だったロシア旅行が実現し、モスクワに移動してきたのが昨日のこと。
先に訪れたサンクトペテルブルクで、歴史ある街の美しさや料理の美味しさに、すでに私たち夫婦は完全に魅了されてしまっていた。それだけに、「モスクワもさぞかし素敵な街に違いない!」と半ば決めつけてきたフシもある。
 
モスクワに到着した後は、地下鉄に乗り換えてそのままホテルに向かう。途中、至る所で金属探知機のゲートをくぐることになるが、それ以外は日本と何ら変わりはない。また、階段などの段差が異様に多いこと除けば、スムーズに前に進む。まぁ悪くない。
 
そんな感想を抱きながらホームに下りる途中、日本との決定的な違いに驚くことになる。
エスカレーターがとにかく長い。長すぎるのだ。
 
見下ろした視線の先は真っ暗闇で、まるで地底に下りていくかような錯覚に陥る。そして気づいたら何分も経過していることに気づき、真夏でも薄ら寒く感じたのをはっきりと覚えている。
 
なんでも、ロシアの地下鉄は(核シェルターを想定して)世界一深いところを通っているとのこと。日本の約2倍の深さだと聞けば、その奇妙な体験も納得できると思いたい。
 
他にも日本と違う点はある。車内で喋っている人が1人もいないのだ。「みんなシャイなの?」と思うほどで、温和な表情の人すら見当たらない。あまりの静けさに、外国人である私たちも、それに倣って口をつぐまざるを得なかった。
 
そうして長い地下鉄のトンネルを通り、やっとの思いで地上に出て午後の白い陽光を浴びる。さすがに外の人通りは多く、太陽の眩しさが楽しい旅を予感させる。
 
ところが、その直後に、ここがどこなのかが分からないことに気づき慌て始める。
思えば、「頭の中が真っ白になる」とはこの状態を指すのだろう。
目印を探そうにもキリル文字が読めない。親切な人たちが声をかけてくれたが、誰も英語が通じない。地図の縮尺がおかしいのか、距離感も掴めない。
 
その結果、重いスーツケースを引きずりながら、あっちにこっちにへと膝が震えるほど歩かされた。この時ばかりは、ホテルを手配した旅行会社を恨んだのだった。
ちなみ、この日の就寝時間が早かったのは言うまでもない。
 
翌日、気を取り直して市内観光を楽しもうと出発。昨日とは別の地下鉄駅を探すところからスタートだ。道を間違えれば大変な目に遭うことを昨日嫌というほど痛感したので、慎重に歩を進める。こうして、数々の苦難(試練)? を乗り越えてモスクワ中心部に移動し、冒頭の公園にやってきたのである。
 
結局、今日も地下鉄を出たところで迷子になってしまった。もはや右も左も分からない。そんな八方塞がりの状態に現れた救世主が、この警察官3人だったという訳である。
 
妻は、ボリショイ劇場の位置を確認しようとして、その時たまたま近くにいた彼らに「ボリショイ?」を連呼したのだ。
 
すると、警察官の一人がおもむろにスマホを取り出す。
「あー、良かった。きっと画面で地図を表示してくれるんだ」と待っていたが、何やら手こずっている様子。微妙な空気が漂ってくる。
 
数分後に彼が見せてくれた画面に地図は無く、こう書かれていたのだ。
「I don‘t understand」
そして、すごすごと少し離れたベンチへ移動。
 
彼はロシア語の「わかりません」を英訳変換していたのである。それも一生懸命に。
「おいおい!」とツッコミを入れたいところだが、シャイな彼らにこれ以上のお願いをするのも申し訳なく、諦めることにした。
 
帰国後に知ったことだが、ロシア語「ボリショイ」は「大きい」という意味の形容詞である。これを妻が尋ねた「ボリショイ? ボリショイ?」に当てはめると、「(あれは)ボリショイ劇場? ボリショイ劇場?」ではなく「(あれは)大きい? 大きい?」となるので、彼らにとっては不可解な質問に聞こえた(恐ろしいアジア人に見えた)のかもしれない。
 
そんな「広くて深くてシャイな人たちの国ロシア」に来たのは、今回が初めてではない。20年前に卒業旅行で一度訪れている。当たり前だが、その時の印象はずいぶん違う。夏と冬の季節の違いもあるが、とにかく「20年前は、人も、街の雰囲気も暗かった」という記憶しかない。
 
今回、ちょうど20年後に妻と旅行することになったのは何かの縁なのかもしれない。
以後、ソチ五輪やサッカーワールドカップでロシアが注目される度に、あの公園での出来事を思い出して二人で笑いあっている。間違いなく「最高の思い出」だ。
 
これから初めてロシアへ旅行するという人が多いと思う。そんな人たちに伝えておきたいことがある。
・大きなスーツケースにしないこと
・「とりあえず」という軽い気持ちで歩き始めないこと
・不必要にニコニコしないこと
 
広すぎて、深すぎて、コミュニケーションが取りづらい国。それでも私はロシアへの旅をお薦めしたい。なぜなら、それを打ち消すほどの素晴らしい風景、食べ物、人に巡り合えるからだ。
 
私も、次の20年後と言わず、数年後に再びロシアの大地を彷徨える(道に迷える)ことを切に願っている。
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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