薬剤師になりたい! 未来のアンサングシンデレラの願い
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:黒木里美(ライティング・ゼミ日曜日コース)
「アンサングシンデレラって、知ってる?」
小学5年生の女の子、ちえちゃんがこう言った。
これは困った。
確か、薬剤師のドラマだったような。
「このドラマ面白かったから、研究発表会でドラマのことを紹介したい! 」
と言ってきたら面倒だな。
私は北千住の個別指導教室に勤めている。ただ、みなさんが想像する学習塾とはちょっと違う。生徒は年長さんから高校3年生まで勢ぞろい。教室の壁には真っ白な本棚。大きなソファーに、たくさんのぬいぐるみ。窓辺には、鉢植えの苺が赤く色づいている。
何を学ぶ教室か。
勤めている私でもうまく答えることができないのだが、一言でいえば「言語技術」で、
もう少しラフに言えば「言葉を使って考えることを学ぶ」だろう。もう一声と言われれば、「作文かな」と答えるが、残念ながらそれでは少し的を外してしまう。なぜなら、作文を書かずに講師と話をして、本を読んで帰る、そんな子もたくさんいるからだ。
さて、教室では年度末の研究発表会に向けて12月から準備を始めた。研究のテーマは、好きなものでよい。でも、漫画や映画、ドラマなど作品を紹介するのはダメ。作品を紹介するのは、それを作った作者の仕事。
「なぜ、私がその作品を紹介したいのか。説明できなければゴーサインは出さないよ」
これは小学生にはなかなか難しい。
だいたい、研究テーマを作品紹介にしたいと言う子は、自分というものがまだ希薄な子が多い。研究に取り組み期間は約3か月。これは子どもにとってかなり長い時間だ。そして、5分間のプレゼンを完成させるには、相当の熱量がいる。友達がやっているから、流行っているからなんて「自分不在」の理由ではとても課題を完成させることはできない。
一応、こんな逃げ道も用意はしている。
「もし、作品を紹介したければ、自分で物語を作ったり、漫画を描いてごらん。製作過程と作品を合わせて、研究発表にしよう」
通常の研究よりも簡単そうと言う子もいるが、想像する以上に、ハードな課題だ。
それ相応の覚悟がいる。
さて、ちえちゃんに以上のことを伝えなければならない。
毎年繰り返している話ではあるが、やはり子どものアイデアを却下するのは辛い。
「アンサングシンデレラって、薬剤師のドラマだよね。知っているけれど、ちえちゃんは研究で何がしたいのかな」
その先の答えも用意してある意地悪な質問に、ちえちゃんは衝撃的な答えをくれた。
「ちえの友達に心臓の病気の子がいてね、その子を助けるために、薬と薬剤師の研究をしたいの」
ちえちゃんの友達、レナちゃんは、先天性の心臓病だという。
同じ学年の子どもたちは、レナちゃんの体のことを知っている。
生活に制限があり、体育は見学、コロナ禍では学校への送り迎えが必要だという。
それでも、毎日学校に登校し、外で遊べなくても友達と仲良く過ごすことができた。
「ちえね、この前、学校のあと、少しだけレナと二人で遊んだの。でね、その時はなしてくれたことが忘れられないの」
ちえちゃんのほほが赤い。
「二分の一成人式とかで、みんなが将来のことを話している時。その時は平気でいるけれど、本当は辛い。私は、心臓の病気があるから大人になれないかもしれない。私の心臓の病気は、人よりも早く動く病気だから、みんなよりも早く死んでしまうかもしれない。それが怖くて、一人のとき泣いちゃう」
そうレナちゃんから打ち明けられたという。
ちえちゃんの話は続く。
「ちえのママも心臓に病気があるの。小学校の一年生の時の検査で引っかかって、大きな病院で調べて病気が分かったんだって。ちえ、それを聞いて、今のちえよりも小さいころに病気のことを知って、死ぬかもしれないって思いながら、それを受け止めて毎日生活してきたって想像したら、本当にすごいなって思ったの。でも、レナから気持ちを打ち明けられてやっぱり不安なんだって思って。それで、ママに話してみたら、今はお薬があるし、ママはいつも薬をくれる薬剤師さんがいるから安心だよって教えてくれたの。だから、私もレナのために薬のこと勉強したいし、将来は、レナみないな子の不安を和らげることのできる薬剤師さんになりたいなって思ったの」
私には顔の思い浮かぶ薬剤師さんはいない。
「お薬手帳」だって持参したり、しなかったりだ。
しかも薬剤師は、AIが発達した社会ではなくなる職業だと言われているのを思い出した。
ちえちゃんは、さらにこう続けてくれた。
「薬は小さなものだけれど、人を安心させてくれるのは、やっぱり薬剤師さんがいるからだと思う」
これまで、薬のことを考えてことがあっただろうか。幸い持病もなく、薬を飲む機会は風邪をひいた時ぐらいだ。もちろん、薬に助けてもらったことはたくさんある。しかし、飲んだら治るのが当然。そんな便利な「道具」扱いだった。
今ちえちゃんは、研究の真っ最中だ。
先日は、元々薬は動植物の毒から作られたことを知って驚いていた。
新型コロナウイルスのワクチンの状況についても、「科学雑誌ニュートン」をお母さんと少しづつ読み進めながら学んでいる。
そして、薬剤師へのアプローチだ。
コロナ禍で忙しい薬剤師に直接話を聞きに行くわけにはいかないと困っていた。すると、子どもたちの仕事に関する疑問に答えてくれる「13歳のハローワーク」というサイトを見つけてきてくれ、さっそく質問を投稿した。
「病気の人を安心させる工夫を教えてください」
きっといい返事が返ってくると期待している。
私もドラマの原作となった漫画『アンサングシンデレラ』を読んでみた。
「アンサング(Unsung)」は、「称賛されない、知られざる」という意味だそうだ。
そして、漫画のタイトル「アンサングシンデレラ」とは、知られざる医療界の立役者を指しているという。
物語も「もしかして、薬剤師っていらなくない」という主人公の新米薬剤師、葵みどりの心の声から始まる。図星だと思わざる終えないスタートだったが、もちろん、そんなことはないと読み終わった今ならいえる。薬剤師が、便利な「道具」と化してしまった薬に「安心」という命を吹き込んでくれ存在だと知ったからだ。
10年後、今ある職業の70パーセントはなくなるといわれている。
医師の診断と薬の効能データを照合できればいい。これが、薬剤師がなくなる理由だ。
AIに「できる」「できない」の話であれば、確かにそうなのだろう。
しかし、人間である医師に誤診はないのか。
ネット上にあふれる副作用に関する情報に触れ不安になった心の行く先は。
便利な世の中になっても、私たちの不安がつきることはない。
薬剤師はAI時代だからこそ必要とされる職業になるのではないだろうか。
人と人との間に「安心」を生み出す仕事、アンサングシンデレラになりたいと願う子がいる。
その子の夢が叶う未来を創っていきたい。
***
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