息子と二人で焼肉を食った日のこと
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記事:垣尾成利(ライティング・ゼミ日曜コース)
年頃の息子と二人で飯を食ったことはありますか?
先日、妻がパートで不在だった土曜、高校2年生の息子と二人で昼ごはんに焼肉を食べに行きました。
朝から部活に行っている息子に、「昼飯、焼肉行かへん?」とLINE。
「母さんからは昼は用意してあるって聞いているけど、なんで昼に焼肉なん?」と息子からの返信。
二人で行くのは嫌だと断られるかと思いましたが、用意してある昼ごはんは明日食べればいいやん、と伝えたら誘いに応じてくれました。
息子と二人で外食なんて、いつ以来だろう?
親離れしてから行ったことあったかな?
誘ってみたものの、すごく緊張しました。
息子の親離れは小学5年生から始まりました。
それまではどこに行くのにも喜んでくっついて来ましたが、この年を境に嫌がるようになりました。
夏休み、幼い頃から土日で通い続けた市民プール。
「今度の土曜日プール開きやで♪ 一番乗りで行こう!」
「なんで? 別に行きたくないわ。独りで行けばいいやん」
おいおいおい? 何を言うんだ、我が子よ……
結局、以降一度もプールに行くことはありませんでした。
日曜の夕方は決まって近くのスーパー銭湯へ。
これも断固拒否。
「長い時間風呂入りたくないねん。家の風呂でええねん。行きたくない」
回数券が無くなるまでは無理矢理連れていったけれど、それっきり。
反抗期、親離れの始まりでした。
「親離れ」かぁ……
いつかはそういう時が来るのだろうな、とは思っていたけれど、それは余りにも突然でした。
それまで、いつも一緒だった息子が突然遠い存在になり、楽しみだった、息子と過ごす週末はこの年終わりました。
中学生になった日、息子にこう伝えました。
「これからは子供扱いせずに、一人の人として向き合っていくよ」
これは、今思えば私の子離れ宣言だったのかも知れません。
日に日に距離を置こうとする息子に、未練がましく付きまとわないために。
大人になっていく息子を遠くから見守るために。
父は、君が離れていっても平気だよ、なんなら、こっちから距離を取ってやる、近寄ってきても相手してやらないんだから、って強がって言ったような言葉でした。
親の気持ちなんて知らずに、中学、高校と育っていくにつれて会話が減り、一緒に居る時間も少なくなっていき、私と過ごした時間は、次々に友達との時間に塗り替えられていきました。
高校進学時にスマホを持たせたら、ちょっとした用事はLINEで送ってくるくらい接点が無くなりました。
夕飯の時も会話もなく、食べ終わるとさっさと自室に戻る息子を、寂しく遠くから見ているだけの父になってしまいました。
私が息子の年頃の時はどうだっただろう?
私が小学四年生の頃、母が生きるか死ぬかの大きな病気をしてしまい、長く寝たきりでした。
不安な毎日、反抗なんてできませんでした。
中学生になっても、強く自己主張することができず、健全な反抗期を経験することなく思春期に突入、その結果、親との距離感を掴めずに苦しみました。
嫌だ、が言えなくて我慢することが多かったし、父は父で感情的になることが多い人だったから話を聞いてもらえず、安心して心を開いて気持ちを伝えることができないまま、言いたい気持ちを抑えては自室に逃げ込んでばかりいました。
だから、息子の態度に私の過去の経験を重ねることができず、これが普通なのかどうかもわからなくて、困惑するのです。
焼肉を食べている間も、息子は特に何も話しません。
私は、学校のこと、進路のこと、部活のこと、悩みごとはないか、困っていないか、父と二人でいる今をどう感じているのか、聞きたいことがありすぎたけれど、結局は何も聞けずに、ただただ黙って肉を食うばかり。
でも、それはそれでなんだかとても嬉しく、幸せな時間でした。
生意気な態度の息子を見ていると、腹立たしく感じることもありますし、向き合っていろんなことを話してくれないことを残念に思いますが、親に対して反抗的な態度を取る息子に対し、羨ましいなと思う気持ちと、これも成長の証しだ、と喜ばしく思う気持ちの両方を感じるのです。
気兼ねなく自己主張できるというのは、親への信頼があるからです。
反抗的な態度を見せても、両親は絶対に受け止めてくれるという安心があるからこそ、息子は自分の主張や感情を表に出せているのだなと、見ていてそう感じます。
反抗的な態度は、親を練習台にして感情表現の練習をしているのだと考えたら、真っ直ぐに感情をぶつけてくる姿は腹立たしいけれど愛おしい、こんなふうに自分の感情を持つようになったんだなと喜ばしく思えました。
「息子が反抗的で会話もないから一緒に居るとしんどいんだよね」
そんなふうに愚痴った時、友人は言いました。
「本当に必要な時には、話してくるよ。誘って、くっついて来ただけ可愛いじゃないか」
ああ、確かにそうだよな。
嫌なら断るはずだよな。
焼肉だったから来たのかもしれないけれど、来てくれてありがとう。
息子と、ひとつ屋根の下で一緒に暮らす時間が終わる頃には、この焼肉でさえ、忘れられない時間になるのだろうな、と思いながら息子を見ていました。
そうこうしているうちに、大人になり、息子は息子の人生を本格的に歩み始めます。
それまでに、それからも。
時々、息子を誘ってふたりで飯を食う、そんな時間があればいいなぁ。
次はもう少し、君の未来の話を聞かせてください。
***
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