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「年間目標を立てると、自分のことを好きになれる」


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:珠弥(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
2020年12月 港区、某神社横の喫茶店にて。
 
私が店内に入ると、既に友人のM子はカウンター席にいた。
“着付け教室の帰りに向かう”という、事前予告の通り、落ち着いた紫と淡い黄色の雲模様が大降りに描かれた着物で身を包んでいた。こちらに気が付いて軽く手を振る彼女の所作は、とてもゆったりとしていて、素敵だった。
 
高校時代からM子は、不思議で面白く、とても美人な女子高生だった。
私はM子に憧れていた。ぶっ飛んだ思考回路も、穏やかなのに凄味がある部分も、価値観や考え方一つにしたって、自分には持ち合わせていないものを持つ彼女を尊敬していた。
 
そんな彼女の隣に座ることを……私は、躊躇わなかった。
1年前の自信のない私だったら、今日選んだ服装に後悔をしていたかもしれない。否、そもそもこの服を選ばなかっただろう。きっと私なりの精一杯のお洒落をしていたかもしれない。いつも綺麗でミステリアスな彼女の横だと、無意識のうちに背伸びをしちゃっていたのだ。
 
「着物、すっかり着られるようになったんだね。試験は順調?」
 
腰掛けながら、M子の姿をまじまじと見ていると、明るい声が返ってくる。
 
「順調。1級に合格すると、講師になったりイベントのお手伝いで着付けしたりできるんだって。それまで続けるよ」
 
今度は私がM子に見つめられ、少し照れ臭くなる。思わず何だと突っ込むと、M子はけらけらと笑い、頷き始める。
 
「なんか、服装とか全然変わらないのに、雰囲気少し堂々としてる気がして」
 
私は、しっかりと大切な友人を見つめ返しながら、大きく頷いた。
 
「うん、M子と一緒に目標頑張れたおかげ。1年前より、自分のこと好きになった」
 
M子と地元で飲んだ時だった。酔っぱらいの思い付きで始めたのは、年間目標と毎月達成度を報告しあうこと。よくある漠然とした将来への不安を打ち明け合ったのと、年末の雰囲気が重なった時期だったからだと思う。その日は二人で唸りながら、二人だけのツイッターアカウントを作成して、年間目標を呟いた。
 
『着物を自由に着られるようになりたい』
『愛犬をカメラで撮って写真集にしたい』
 
箇条書きにした“なりたい未来の自分”に、一番手が届きそうな部分から、着手することにした。
M子は、まず着付け教室を探し始めると宣言し、私は随分と触っていなかったカメラを掃除することを宣言した。受験期の勉強会のように、また何かを一緒に友人とできることが嬉しかった。
 
順調に目標設定と報告会を実施していた私達だったが、予期せぬ事態は度々、色濃く現れた。
 
2月のことだ。
私の愛犬が突然容態を崩し、そのまま3月に息を引き取ってしまった。平均寿命を考えて、1年あれば充分だと勝手に決め込んでいた自分に嫌気が差した。
喪失感と、早々から目標を叶えられなくなってしまったことに呆然とした。
 
「目標、達成できなくなっちゃった」
 
苦しさを誤魔化すように、おどけてM子に報告すると、M子はそっと私の肩をさすってくれた。
 
「思春期の頃から一緒にいたよね? 親友や姉妹のような存在だったでしょ?」
 
M子はずっと犬が怖いと言っていたから、かけられた言葉は意外に感じられた。
同時に恥ずかしくなった。M子は友人である私にとって、愛犬がどんな存在であるかをきちんと理解していて、配慮してくれていたのだ。私は、友人ですら“たかがペット”という心情を持ち合わせているかもしれないことに怯え、彼女自身をきちんと見つめていなかった。そんな友人があるものか。私はM子の前で、赤べこのように頭を上下に振りながら、泣いた。
 
ペットロス期間中でも、目標の存在は大きかった。何より、何かに没頭している時間の方が気が楽なこともあって、私は筋トレをしてみたり、自炊をしてみたりと、小さな日課の中での達成を積み重ねていた。
 
10月になって、私はウィッシュリストを作成してみた。
ドラムを叩いてみたいだとか、愛犬の写真集はやっぱり作りたいだとか、色んな事を書き連ね、体験していった。一度体験して、難しさや興味が薄れるものもあれば、のめり込んで習い始めたものや、完成させたものもある。実は、天狼院のこの講座も、その一つだったりする。
 
これはいい方法だと実感した私は、嬉々としてM子に電話した。ところが、M子の返事はとても気怠そうで、驚いた。
 
「目標達成、どうでもいい気分でさ」
 
声色だけでも、察知できた。ぞんざいな口ぶりは、学生時代から知っているM子の様子では到底なかった。その日の私は何も言えず、結局何日もM子の様子が頭から離れなくなった。
 
“M子に憧れている私のままでいいの? M子は友人じゃないの?”
 
自問自答した結果、私は居ても立っても居られなくなり、深夜に電話をした。そして、憧れていたM子に、初めて友人として怒りをぶつけた。
 
「あと2ヶ月、一緒に頑張りたいって思っていたけど、本当にどうでもよくなっちゃったの?」
 
M子は速攻で謝ってきた。それから、彼氏と別れて自棄になっていたこと、寂しくて誰かに叱って欲しくてわざと言ったことを早口に告白してきた。私達は仲直りし、今後も、遠慮なく本音をぶつけ合うことにした。
 
一年を経て、この喫茶店にいるM子の着物姿は、いわば2020年の結果ともいえる姿だ。
そんな彼女から、“堂々として見える”と言ってもらえたことも素直に嬉しく受け止められる。私自身も、新たな目標を定めるために模索した日々を積み重ねてきた成果だと思う。
愛犬の写真を撮ることは叶わなかったが、過去に撮り貯めていた写真達を使って、家族向けに一冊の写真集を贈ることはできた。
 
私達は、相対的に良い一年だったと言い切ることが出来た。当初とは予想外のことだらけ。世の中も、自分たちにも、苦しいことや悲しいことは起きてしまった。けれど、漠然と叶えてみたかった未来も、予期せぬ過程も、地続きで愛すべき過去になっていたようだ。
 
『公私問わず、本当にやりたいことを見つけていく』
 
今年の目標を綴ったノートを見せると、M子が一瞬固まる。何か苦言でも飛んでくるのかと身構えると、そのままゆっくりとカップに手を伸ばしながら、微笑んだ。
 
「私もね、自分を見つめる年にしようと思ってたの」
 
全く違う人生を歩んできて、全く違う生活をして、全く違うことを考えて生きてきている人間が、似たことで悩み、新年の目標の核として設定していた。
その事実がなんだか面白くて、嬉しくて、思わず声を上げて笑い出してしまった。
 
2021年が終わる頃、私たちはどんな経験をして、どんな風に感じ方や考え方が変わっていっているのだろうか? 過ぎていく時と、ままならない現実に四苦八苦するのかもしれない。それでも、生きてきた証として読み返せる目標設定というものは、より良く生きていく指針となってくれるのかもしれない。
 
年が明けて1か月。まだまだ間に合います。もしも、先行きに少しでも不安を感じている人がいたら、一緒に年間目標を立ててみませんか?
 
 
 
 
***
 
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2021-01-30 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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