クラフトビール? それもいいけど、私たちは金沢で碾茶をつくります
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記事:住田薫(ライティング・ゼミ平日コース)
「番茶って何?」と聞かれたら、どんなものを思い浮かべるだろうか。
私は、「ほうじ茶」のことだと思っていた。
茶色の液体で、枯れ枝のようなものに湯を注ぐと、どこか香ばしい香りがする。
「番茶」の言葉の定義は曖昧だ。
新芽ではない、成長した古い葉でつくったもの。
茶をつくる製造過程で、規格外としてはじかれたもの。
ざっくりと安いもの……
かなり色々なものをひっくるめて呼んでいるようだ。
「番」とは「日常の」「実用の」などの意味がある。
「おばんざい」の「ばん」と同じ意味だ。
「番茶」とは、実際には「日常のお茶」「いつも飲んでいるお茶」をさしているのだ。
桑原次郎右衛門さんの昭和3年の調査によると、全国には40種類以上の「番茶」の製法があったという。この時点でも、ずいぶん減った数字ということらしく、一村一製法と言われるくらい、多種多様なものだったらしい。
お茶は、むかしは店で買うものではなく、自分たちでつくるものだった。
畑の畦や庭に茶の木を植え、家族で摘み、お茶をつくる。
その土地の環境などに合わせ、それぞれ独自に発展していて、製造方法も、味も、見た目も、飲み方まで、異なった。
たとえば個性的で有名なものだと、徳島県の阿波番茶(あわばんちゃ)というものがある。茶葉を桶に漬け、乳酸菌で発酵させるというものだ。
わたしは阿波番茶は飲んだことがないが、同じような「後発酵茶」に分類される「碁石茶」を飲んだことがある。好みは分かれるとのことだったが、私は「酸っぱくて美味しいな」と思った。梅干しやレモンが入っているわけではない。お茶自体が、発酵しているから酸っぱいのだ。不思議な味だった。
茶の生産地として有名な静岡では、「番茶」は緑茶なのだという。
私が地元(北陸の金沢)で飲んでいたものは、「棒茶」などとも呼ばれる、茎だけのほうじ茶だった。
「番茶」とは、地域色あふれるものなのだ。
お酒の世界では、近年では“クラフトビール”と呼ばれる、小さい蔵造所で丹精込めてじっくりつくられた多種多様なビールが楽しまれるようになってきた。
日本の大手メーカーがつくっているビールは3~4種類ほどだけど、ほんとうはビールの種類はもっと多様で、100種類以上もあるのだとか。
クラフトビールは、小さいロットで、多様な挑戦をし、様々なテイストのビールをつくりあげている。
お茶だって同じではないだろうか。
現在のお茶づくりは多くが、量産を前提にした品種、規格化された畑、機械管理されたお茶だ。産地では、静岡が全国の茶の生産量の40%近くを占め、ついで鹿児島が35%と続く。品種では“やぶきた”種が、栽培茶樹の75%にも及ぶという。とても画一的につくられている。
だけど、本当はもっといろんなことが出来るはずだ。
伝統的な各地の「番茶」は、かなり数が減っているようで、それらを守ることも、もちろん大切だと思う。
だけどそれだけではなくて、失われたお茶の復活や、新しい挑戦からできるお茶が、いまのお茶の世界に加わるとどうだろうか。クラフトビールならぬ“クラフトティー”ができてもいい。
個性豊かでユニークなお茶が、日本各地でつくられはじめたら、きっと楽しい。
いま私たちは金沢の内川という場所で仲間を募り、茶園を復興し、手加工で碾茶(てんちゃ)をつくろうとしている。
碾茶(てんちゃ)とは、抹茶になる前の状態のお茶だ。
葉っぱの葉脈などを取り除いたもので、青のりのような形状をしている。そのままでも飲めるし、これを石臼でひいたら抹茶になる。
茶葉を粉状にしてから飲む方法は、中国の唐の時代にも記録があり、古いお茶のあり方の一つのようだ。
現在では、碾茶は100%工場の機械でつくられている。手づくりのものはない。
「ない」と言われれば、天の邪鬼だから、やってみたくなる。どんなものか見てみたい。
大正期に機械が導入されるまでは、碾茶はすべて人の手でつくられていた。
千利休や秀吉の時代だって手加工だった。
温度の微妙な調整だとか、人より機械の方が得意なことは、もちろんある。
手作業だと、美味しくつくるのが難しいのかもしれない。
もしかしたら、無謀な挑戦なのかもしれない。
だけど、湧きおこる問題をどう解決するか、工夫と試行錯誤する中で、独自の発展をした碾茶が生まれるかもしれない。
むかし「番茶」が、それぞれの地域で気候風土や文化に合わせて、独自の進化をしたのと同じように。
手作業で行われていた江戸時代の、碾茶づくりの記録はある。
北陸でも、むかしは茶がつくられていたから、茶の木もある。
まずは茶の木を整えるところから始める。
一度敷かれた道は失われ、先行きの読めないこの道。
わからないことも、解決すべき問題も、たくさんある。
でも、お茶の起源や根源に触れているような、ドキドキがある。
お茶は自由だ。
そんな気がしてくる。
興味のある方、一緒に「碾茶」づくりしませんか。
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