「自分は何者か」を問い直せ (※ネタバレ有り)
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:嶋田拓海(リーディング・ライティング講座)
この本は俺に向けて書かれている!
他の誰でもなく俺が叱られている!
本気でそう思った。
それぐらい、本の内容が一直線に心に刺さった。
弾丸に撃ち抜かれたように。
しかし、解説を読んでさらに驚いた。
「主人公の立場で感情移入し、安全な場所で傍観していた読者が、いきなり当事者になり変わる」
まさにこれだ!
自分が抱いた感想は特別ではない!
読んだ人誰しもがそう思う作りになっている!
三浦大輔氏の解説は、自分が抱いた感想をそのままに言語化していた。
なんということだ!
小説にこんなことができるのか!
これは小説を使った手品か? マジックか? 魔法か?
去年の夏、自分は書店の文庫本コーナーで読んだことのないジャンルを探していた。
そこで出会ったのが、朝井リョウ氏の「何者」である。
大学生5人の就職活動を描いた物語は見かけないテーマだ。
大学3回生の自分なら何か吸収できるかもと思って読んでみた。
「ラスト30ページ、物語が襲いかかる」
帯に書かれたメッセージの真意など知る由もなかった。
5人の大学生は就職活動をしている中で本音を語り始める。
読者である自分が密かに思っていたことを暴露されるように。
自分に特に深く刺さったセリフを紹介したい。
まず、隆良の就活をしている人に対する本音。
「俺は流されたくないんだよね、就職活動っていう、なんていうの? 見えない社会の流れみたいなものに」
わかる。自分もそう思っていた。
成功者とよばれるような実業家、社長、有名人がYouTubeなどで生き方を語っている。
自分も変に影響されて就活を、スーツや制服姿で働く人を、見下していた。
自分だけじゃないんだな、同じこと考えてるのは。
隆良の考えを主人公の拓人が否定する。
「確かにそれは個々の意志のない大きな流れに見えるかもしれない。だけどそれは『就職活動をする』と決断した人たちひとりひとりの集まりなのだ」
企業で働くことに興味がないことは人としての優位性を示さない。
著者に「君も他人事じゃないよな?」と言われた気分だ。
就活に対する舐めた態度を見破られたが、ここまでは、隆良を反面教師にすれば済む。
次、会社の方針に従って自分を殺しながら毎日働くことは無意味だ、という隆良の発言に対し、今度は瑞月が反論する。
「自分に会社勤めは合ってない、なんて、自分をなんだと思ってるの? 会社勤めをしている世の中の人々全員よりも、自分のほうが感覚が鋭くて、繊細で、感受性が豊かで、こんな現代では生き辛いなんて、どうせそんなふうに思ってるんでしょ?」
全くもってその通りだった。
「『繊細さん』の本」を読み、「繊細さん 適職」でググっていた。
自分は特別生きづらい人間と思っていた。
誰も共感してくれないと思っていた。
自分以外で繊細な人間なんか視野に入らなかった。
この本が、自分だけのために書かれていると思った瞬間だった。
三浦氏の解説にあったとおりの感覚だ。
冷静に考えれば、みんな生きづらさを抱えてる。
生きづらい人間が世間に大勢いるのは誰でも気づける。
それでも、その一人一人が自分「だけ」生きづらいと思っていることに
どうして気づけたのか。
魔法をみせられた気分だ。
そして、帯に書かれていたラスト30ページ。
就活2年目で内定ゼロでもプライドに固執する主人公を
理香が追い詰めた。
「自分は自分にしかなれない。痛くてカッコ悪い今の自分を理想の自分に近づけることしかできない。みんなそれをわかってるから、痛くてカッコ悪くたってがんばるんだよ。カッコ悪い姿のままあがくんだよ」
読者である自分も追い詰められた。
留学や、司法試験に向けた勉強をしていたとき、
結果が報われないことを恐れて試験を受けなかった。
痛くてカッコ悪い自分を受け入れたくなかった。
こんな理由で逃げているのは自分だけだと思っていた。
そんなことはない。
みんな現実の自分を受け入れられずに苦しんでいる。
自分だけではないのだ。
理香が自分の耳を掴んで話しかけてるようだ。
決して逃れることはできない。
「十点でも二十点でもいいから、自分の中から出しなよ。自分の中から出さないと、点数さえつかないんだから」
自分は今、こうして記事を書いている。
納得しきれる出来ではない。
それでも期限までに形にして提出する。
もっとこう書けば良かった、自分より上手い人がたくさんいる……。
ネガティブな気持ちはいくらでも湧いてくる。
それでもやるしかない。
「いつか自分は何かのきっかけで変われると思っている」
努力することから逃げていると、ついつい希望を見出したくなる。
だが、変わらない。その日、その時の自分のベストを尽すしかない。
著者のメッセージを忘れないよう、ページに折り目をつけた。
この本とは一生付き合っていくことになりそうだ。
***
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