【ハワイ滞在記】先生は5歳じゃない
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記事：小北采佳（ライティング・ゼミ日曜コース）
「ワタシ ハ ゴサイ デス！」
男性は、カタコトの日本語で得意げにそう言い放った。
5歳？ どういうこと？
私は一瞬戸惑った。いま私の目の前にいるその人は、どう見ても……30代くらいに見えた。
その日はハワイ大学で開講されているウクレレの授業に出ていた。私は英語の勉強のためにハワイに滞在していたのだが、せっかくだからハワイの文化も知りたい！ と思い、この授業に参加することにしたのである。ハワイ大学では、ウクレレの授業でもちゃんと単位をもらえるのだ。
その日は第1回目の授業だったので、1人ずつ先生に自己紹介をしたのだが。
私が日本から来たと知った先生が嬉々として口にしたのが「ワタシ ハ ゴサイ デス！」だった。
先生は黒い髪、黒い目、長身細身のイケメンで、キラキラした目でこちらを見てくるのだが、果たして5歳とは何のことだろうか。
よくよく話を聞いたところ、先生のおじいさんのおじいさんが日本出身で、ハワイに移住してきたのだという。
つまり、先生は5歳ではなく、5世。
日系アメリカ人の5世であったのだ。
日系アメリカ人とは、アメリカ市民だが日本にルーツを持つ人々のことをいう。そしてここハワイには、明治時代から多くの日本人が出稼ぎにやって来てそのまま定住した歴史があるため、多くの日系人が暮らしているのだ。
先生は、日本人をはじめヨーロッパ系の血など5種類くらいの血が入っているらしい。でもミドルネームはヒロシだと言っていたので、日本人の血が濃いのだろうと思われる。
確かに先生は堀が深い顔立ちだが、もし彼が東京を歩いていれば、日本で育った日本人だと思われるような外見であった。
ちなみに日本だけでなく世界中から移民を受け入れてきたハワイでは異民族間での結婚がすすんだ。その結果、若い世代になるほど自分の中に5〜6種類（またはそれ以上！）の血が流れていることが普通なのである。これは私にとって、とても衝撃的なことだった。日本では両親のどちらかが外国出身という人でさえまだまだ少数派なのに。
そのため、外見はいわゆる「日本人」に見えなくても、日本風の苗字を持っている人もたくさんいる。ハワイ滞在中に私と仲良くしてくれた現地出身の女の子は、顔立ちや体つきだけをパッと見ると日本にルーツがあるかどうかは分からない。でも、苗字はマチダであった。
「町田って東京にある町の名前じゃん」と言ったら「そう！ 私の苗字は町の名前なのよ！」ととても嬉しそうにし話してくれたのが印象に残っている。
私がハワイに滞在して実感したのは、日本人を祖先に持つ人々が本当にたくさんいるのだということ。日本人の血が、日本から遠く離れたハワイで何世代にもわたって脈々と受け継がれてきたことに、私はなんだかとても感動を覚えた。
ハワイの日系アメリカ人に興味を持った私は、「ハワイ日本文化センター（Japanese Culture Center of Hawaii）」という施設に時々行くようになった。これはハワイ大学のそばにある、こぢんまりした施設だ。日本人がハワイに移住してきた当初から今日に至るまでの歴史を紹介していたり、資料を展示したりしている。また、ひな祭りやこどもの日など日本の行事がある時期には日本文化を紹介するイベントを開催したりしていた。
「ハワイ日本文化センター」では、週に1度、ギフトショップの店番などちょっとしたボランティアをさせていただいていた。でも日本人観光客でセンターを訪れる人を見かけることは、少なかった。
多くの日本人が毎年ハワイにやってくるが、ほとんどの人は、ただきれいなビーチでリラックスしたり、買い物を楽しんだりするだけだ。ハワイにはどんな人が住んでいるのかとか、どれだけ日本と深いつながりがある場所なのかを考えてみようという人はまだまだ少ない。私はそれが残念に思えてならなかった。
ハワイの日系人について全く知らずにハワイに行くことは、神社のことを全く知らないのにただ御朱印をもらいに行くのと似ていると思う。
つまり、その場所の歴史や面白さに対して無関心であるということだ。これはとてももったいない。それに訪問される側としても、訪問先への関心や敬意をほんの少しでいいから持ってほしいなと思うのではないだろうか。
ハワイにせよ神社にせよ、その場所を訪れるのであれば、ちょっと興味を持って下調べをしてみてほしい。その方が、何も知らずにそこを訪れるよりもたくさんの発見があるだろう。
皆さんは、「ハワイ」と聞いて何をイメージするだろうか？
芸能人がよく行くリゾート？ ビーチ？ サンシャイン？
もしそんなイメージが強いなら、ぜひ一度「ハワイ日本文化センター」にも足を運んでみてほしい。
ハワイと日本とのつながりや、ハワイで生活している日系人についてもっと知ることで、単なるリゾート地としてのハワイとは一味も二味も違ったハワイを感じることができるはずだ。
≪終わり≫
＊＊＊
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