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父はウォーターサーバーのように


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記事:垣尾成利(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
息子は高校2年生、反抗期真っ盛りでコミュニケーションを取るのが難しい年頃だ。
 
ずっとスマホばかり触っているし、ゴロゴロと手伝いもせず好きなように過ごしている。
ひとりっ子だから余計にそうなのかもしれないのだが、わがままに育ってしまったなぁと感じ、このままで世の中で通用するのかな? と不安に感じることもある。
 
それでも妻は、これが母性なのかと思うくらいに、えらそうな態度をされても気にせずに息子のためにとあれこれ世話を焼き、いちいちうるさい! と言われるくらいに関わりを持とうとし続けている。
 
私はというと、妻のようには振る舞えず、息子とは距離を取るようになってしまった。
 
挨拶は交わすけれど、何気ない日常会話にも苦手意識を感じてしまい、同じ空間に2人で居ることを極力避けるようになってしまった。
 
どんな話をしても拒絶されそうな気がして、些細なことを話題にするのも控えるようになったら、気軽に何かを話すこと自体がハードルの高いものになってしまった。
 
休日、妻が仕事でいない日は特に困る。
2人でリビングにいる時間のしんどさに耐えきれず、私は外へ出てしまう。
父と息子の会話なんてなかなか成り立たない。
 
そんな時間を何年も過ごしていると、今更どうすればいいのか? わからなくなってしまった。
 
何を話せばいい?
どう言えば受け止めてくれる?
どんな話題なら答えてくれる?
何に興味があるのだろう?
 
などと、遠くからドキドキしながら見ていた大好きな女の子に話し掛けるような緊張を感じてしまうのだ。
 
話し掛けても無視されたら嫌だな、フラれたら悲しいな、そう思うとなかなか声もかけられない。
 
会話の難しさ、コミュニケーションの難しさ、年頃の息子を持つ父親なら同じように思う人も多いのではないだろうか?
 
息子の態度にイライラしてしまったり、感情的になってしまうこともあるが、これには理由がある。
 
息子にイラついてしまう一番の理由、それは寂しさだ。
 
そう、父は寂しいのだ。
 
息子に構ってもらえなくて寂しいのだ。
 
我が子のことなので、基本的には大好きなのだ。
どんなに素っ気なくされても、大好きなのだ。
産まれたときからずっと成長を見守ってきた父は、もっと構ってほしいのだ。
 
息子にとっての父親って、最初は一番の友達で、一番の理解者だったはずなのに、それが成長と共にどんどん鬱陶しい存在に変わっていく。
 
近付こうとすると離れるし、遠くから見ていても近寄ってきてもくれない。
 
息子が壁を立てて距離を取ろうとする、その姿を成長の証しと手放しでは喜べず、とてつもなく強い寂しさを感じてしまうのだ。
 
ただ、こればかりはどうしようもない。
 
父は寂しい、もっと相手をしてほしいと思っている、などと言ったところで気持ち悪がられておしまいだろう。
 
寂しさをグッと我慢して遠くから見守るしかないのだ。
 
父親として息子の成長を見守る、言葉にすれば簡単だけれど、なかなか難しいものだ。
 
我が子との距離感に悩み、迷っている一人の父親として見つけた答えは「ウォーターサーバー」でいることだ。
 
冷水と熱湯をいつでも好きなときに注ぐことができるウォーターサーバー。
 
飲食店や事務所などに設置されているのを見たことある人も多いと思うが、レバーを倒せば冷水、熱湯が即座に出てくるやつだ。
 
見た目はサーバーの機械の上にタンクが載っていて、水がタンクから直接出てくるように見えるが、そうではなく、サーバーの中で冷やされ、温められた状態で待機しているから、冷たいのも熱いのもすぐに出てくる仕組みだ。
 
使ってみると、とても便利だ。
冷水はしっかり冷えているし、お湯もカップラーメンが作れるくらいに充分に熱いお湯が出てくる。
ウォーターサーバーは欲しいと思ったときに、いつでも使えるように、黙ってスタンバイしていてくれて、期待通りの水を提供してくれるのだ。
 
なにも主張しないけれど、そこにあっていつでも使えるウォーターサーバー。
 
思春期の子供にとっての父親って、こんな感じで良いのかもしれないなと思うのだ。
 
欲しいと思ってレバーを倒せば、即座に冷水やお湯が出るように、父の助言や援助が必要だと求めてきた時には即座に応えてやれるように準備万端でスタンバイしている。
けれど、こちらからは特に何も言わずに見えるところに立っている。
 
今はそれで良いのだと思う。
 
思春期の子育ての一番の戸惑いは、親が思う以上の早さで子供が成長し大人になっていくことだ。
成長の早さに付いていけなくて戸惑うのだ。
 
その成長の早さに、無理に合わせようとするのではなく、必要だと言われたときに備えて、じっとしていれば良いのだと思う。
 
レバーを倒せば、いつでもいっぱいの愛情を注げるように、準備万端でスタンバイ。
 
父親はそれで良いのだと思う。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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