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イジメで受けた傷を決して癒えない傷にしないで


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記事:かりん(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
ここから飛び降りたら死ねるかな
 
当時住んでいたイギリスの家の窓から外を眺めながら、そんなことを考えていた。学生時代にイジメというイジメを受けなかった私が、なんと仕事で赴いたイギリスの職場でひどいイジメにあった。
 
話はその1年ほど前に遡る。
 
日本の大手企業で設計の仕事をしていた私は、転勤で渡英した先輩から「イギリス人の部下が思うように働いてくれないから助けて欲しい」と声がかかった。
 
海外、しかもイギリスで働けるなら是非行ってみたい!
 
私はほぼ迷いなく渡英することを決めた。
当時の職場は同僚も先輩も上司もみんな仲が良く、大好きな職場だった。付き合っていた人もいた。イギリスとの時差は9時間。Skypeで話すとしても週末しか無理だ。長距離恋愛どころの距離ではない。しかし彼は別れ話を一切することなく送り出してくれた。今でも本当に感謝している。
 
たくさんの方に応援してもらい数ヶ月で渡英した。
社長は日本の会社から派遣されている日本人。副社長は日本人とイギリス人の二人。各部署の上司も主要部署は全て日本人とイギリス人の二人体制。私を呼んだ先輩は設計部門の課長という肩書きだった。設計部門にはイギリス人の課長も居た。その先輩は日本で働いていた時は主任だったのでわからなかったが、とにかく人望がなかった。英語も苦手だったので、部下との意思疎通もまともに出来ない。従って、かなりの量の仕事が私に回ってきた。深夜1時まで働いて、翌朝8時には出社する生活が当たり前だった。
 
残業代で月収は増えた。それでも贅沢できるほどではない。
そんなある時、社長に呼び出された。
 
「かりんの月収が多すぎて問題になっている」
「それなら仕事量を減らしてもらえますか?」
 
社長は何も言えなかった。
程なくして、あまりにも設計部が回っていないということになり、異例の人事が発表された。日本からもう一人派遣されることになったのだ。前代未聞のことだった。
その人は以前もイギリスに赴任した経験があった。肩書きは部長。もちろんイギリス人からの信頼も厚い。この人事により、ますます課長である先輩は肩身が狭い思いをすることになった。
 
その先輩の不満が全て私に向けられたのだ……
 
大人の男性のイジメ。そんなものが世の中に存在するなんて思ってもいなかった。
 
ここから飛び降りたら死ねるかな
 
そう思ったのはこの頃だ。
しかし、仕事は溢れるほどあったのでとにかく仕事は怠らなかった。そのうちに私が不当ないじめにあっていることに気付き、私を支えてくれる人が次々と現れた。後から来た設計部の部長、日本人の副社長、そしてなんとイギリス人の副社長でさえも私を気にかけ、週末いろんなところに連れて行ってくれた。
しかし、彼らも職場では私を庇えない。よって職場のいじめが完全になくなることはなかった。
そんな中、会社自体の経営状況が悪くなり、悩んだ末に帰国を決めた。
 
帰国後もトラウマのように私をいじめた先輩のことを思い出した。ふと気が緩んだ時にどうしても思い出してしまう。1年近くそんな日は続いた。しかし、私は当時のことを無理に忘れようとはしなかったし、自分にも悪いところはあったのではないだろうか、もっと出来ることがあったのではないか。とにかくとことん考えた。そうしているうちに、その辛い思いを思い出すことが少なくなっていった。
 
最近、我が子がいじめられたと言う親の手記を読んだ。
その母親は「娘は何も悪くない。傷ついた心は元に戻せません」と書いていた。
 
本当にそうなのだろうか?
 
もちろん絶対いじめは良くない。世の中から無くなってほしいと心底思う。しかし、世の中からいじめがなくなるのは、きっと相当難しいだろう。
 
同時期にさかなクンの絵本を読んだ。狭い水槽の中でメジナを飼うと、いじめを始めると書いてあった。いじめられている子を救出しても、今度は他の子がいじめられる。広い海であればストレスが溜まることはないのかもしれないが、狭い水槽ではストレスが溜まり、そう言うことが起きてしまうのであろう、と書いてあった。
 
人間も同じではないだろうか。家庭や学校や職場がストレスフルな環境だと、他人をいじめるという形で攻撃してしまう人間が出てくる。それで自分を取り巻く環境が良くなるわけではないのに、そう言う人は攻撃することで発散出来ているつもりになっているのだろう。自分を苦しめている本質に向き合えていないだけなのだが、それには気付いていない。いじめっ子を改善するには、その子の環境を変えてあげられればいいのだろうが、環境を改善するのはそう簡単ではないと思う。環境を変えられないなら、本質に向き合えるように、その子の思考を変えてあげられないだろうか。
 
私は一つずつ向き合った。だから今では全く傷が残っていない。むしろ貴重な経験をしたとすら思っている。もし娘や大切な友人がいじめられた時、その気持ちをより理解でき、アドバイスも出来るだろう。
 
世の中のいじめられてる子に伝えたい。
今あなたが居る場所は世界のほんの一角に過ぎない。そこに永遠に居続けることはない。環境は変えられるし、たとえ自ら変えなくても変わっていくものなのだ。
誰も悪くないと言うことはない。他人だけが悪いわけでも自分だけが悪いわけでもない。
いつかちゃんと向き合えれば、傷ついた心は元に戻せる。本質を見失わないでちゃんと向き合ってほしい。そうすれば、どんな経験も必ず自分の力になる。その経験は癒えない傷ではなく、必ずより良い未来を生きる力になる。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-14 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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