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ありがとうの一冊 「山登りはじめました」


*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

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記事:優利(リーディング・ライティング講座)
 
 
何か新しい事を始めたいという時、まずは本から学ぶという人も多いのではないかと思う。
 
音楽を始める、絵を始める、スポーツを始める等など、何か新しい事を始めるきっかけになった一冊の本を持っている人もいるだろう。
 
私にとってその一冊は、「山登りはじめました」だ。
 
この本との出会いは、ちょうど10年くらい前、山ガールという言葉が流行りだした頃。
きっかけは、健康診断の結果、お医者さんから定期的に運動した方がよいですよと言われたことだった。
その頃の私は、仕事も忙しく、週末も出かける事なく、家にいることがほとんどだった。
何か新しい事をしようとか、スポーツをしようなど考える余裕もなかった。
 
もともと体を動かすのは苦手、でも何か健康的に体を動かせる事がないかと思っていた時、たまたまテレビで山登りをしている山ガールの映像が映っていた。
 
単純な私は、これなら体も動かせるし、そんなに大変そうに見えないし、なんとなくこれならいけるかも? という軽い気持ちで、山登りを始めようと思った。
 
とはいうものの、どのように始めていいかもわからず、とりあえず山登りの本を探しに近くの書店へ向かった。
 
書店の山登りのコーナーに行くと、難しそうな地図や、大人の山登りなど、専門的なものばかり。
そんななか、一冊のカラフルなイラストが描かれている本が目に留まった。
 
それが「山登りはじめました」だ。
 
最初のページをめくり、「はじめに」を読むとこう書かれていた。
 
小学生時代、体育はいつも「2」 中学生時代、1km走っては腹痛、現在 仕事も毎日インドア
山登り!? 私にはムリだよ。 そんな私が富士山に登っている。
どうして山を好きになったのか…… 山との出会いをきっかけに、私が体験してきた山登りの世界をどーんとご紹介いたします。
 
この数ページを読み、運動オンチ、体力ナシって私と同じだ! と強く共感。
私と同じような人が書いている、これなら大丈夫と思い、即購入し読み始めた。
 
「山登りはじめました」は、イラストレーターの著者 鈴木ともこさんが、友人に誘われて山登りを始め、だんだん山にはまっていく姿を、自筆のイラストと写真で紹介している山登りのガイドブックのような本だ。
 
初心者が登れる高尾山や鎌倉アルプスから、登山上級者の富士山、屋久島に至るまで、鈴木さんが登った魅力的な山々の登山体験記が書かれている。
 
出発準備から登山の道中の様子、山周辺のプチ情報、そして失敗談まで、盛りだくさんの内容がおもしろおかしくイラスト・写真と共に紹介されている。
 
例えば、彼女が最初に登った高尾山。
新宿から電車で47分。登山者が世界一多く年間250万人が訪れる山。
実は天狗が住む山と言われている山だとか。 ぶさかわいい天狗のイラストと共に山を紹介。
高尾山を登るのに「どうか遭難しませんように」と真剣に祈る著者鈴木さんを横目に、サンダル履きとヒール姿で頂上に向かうカップル。 気合いを入れて山に向かったのに、実はケーブルカーで登れる、という低山登山にありそうな話が書かれていて、思わず笑みがこぼれる。
 
また、上級者向けの富士山登山では、登頂大作戦と題した攻略法の紹介や山で起こりそうな突然の雨との遭遇が書かれている。 雨の中カラフルなカッパに身を包む姿をレイン戦隊イエローレンジャーと名付けて、登山を続ける姿が愛らしい。 大変な道のりも、鈴木さんがユーモアも交えて紹介してくれ、飽きる事がない。
 
そして、なんといっても、心に刺さるのは、山頂の様子だ。
山頂に立った時のすがすがしい気持ち、山頂からの風景、時には涙した時の姿がリアルに描写されている。
 
初めて3000メートル級の山を登った時、雲の上を歩き、頂上に立ち、「登山者と山の神様だけが知っていた壮大な景色」と涙している姿は、読んでいる自分も心打たれた。
 
苦しい山道を登った後の達成感は、こんな感じなのかな……
一度も山に登ったことのなかった私は、この本を読んでいくうちに、だんだんと山に魅かれ、まるで一緒に登っている気持ちになっていった。
 
また、この本の魅力は、山登りの体験談にとどまらない。
山登りをする時の服装や、山に持っていくと便利でオシャレなグッズが解説付きで紹介されている。
この本を読みながら、どんな格好で山に登り、どのようなものを準備して登山に臨めばいいのか、自分の中でどんどんイメージトレーニングができるのもこの本の魅力だ。
運動不足解消のために軽い気持ちで購入した本だったが、この本を読み終える頃には、山に登りたい、山ガールになるぞ! という熱い思いが私の中で沸き上がっていた。 そして、山登りの服装まで完璧にイメージトレーニングができていた。
 
その後、私はこの本をきっかけに、初心者向けの山登りから始め、気が付いたら数か月に1度のペースで山に出かけるようになっていた。
最初は著者の鈴木さんみたいに、「遭難しませんように」と思いながら、ドキドキして、高尾山から山登りを始めたのだが……
 
登山には体力も必要で、苦しい時もあるが、それを乗り越えた後の山頂は、この本で書かれていた通り、素晴らしい景色が待っていてくれる。 達成感もひとしおだ。
本に載っていた景色を、自分の目と体で実感し、本当にすがすがしい気持ちになった。
 
そして私は、あっという間に山登りにはまり、本の内容を追体験する日々を過ごすようになった。
 
また、今まで足を踏み入れた事のなかったアウトドアや山登りの専門店に行き、グッズを選んだり、山用の服を購入したりして、新しい発見・新しい世界に出会うこともできた。
ちなみに、今では、山に出かけない休日も山ルックで過ごしています。
 
そして、この本と出会ってから、約2年後、私は屋久島登山に行くまでに成長していた。
リュックを背負い、山の中でテント泊をし、片道5時間半かけて屋久杉に会いに行った。
この本の最初に書かれていた鈴木さんと同じように、運動オンチで体力もなかった私が、テント泊までして往復10時間以上かかる山に登れるようになっていた。
 
運動した方がいいですよ、とお医者さんから言われた運動オンチの私が、山登りをきっかけに、その後は日常生活でも、階段を使い、毎日1万歩を目標に歩くようにもなった。
 
今では、山登り・ハイキングが趣味だと言っている。
そして何より、本当に山が好きになった!
 
本との出会いは面白いなと思う。
10年前、この本に出会っていなければ、今もインドアで、運動不足女子だったかもしれない。
でも何気なく手にとった一冊の本が、私に新しい世界を見せてくれて、日々の生活まで変えてくれた。
 
この本のおかげで、趣味ができ、体を動かすようになり、山を好きになった。
そして、今は山の事を考えるだけで毎日が楽しくなっている。
この本に出会えて本当によかった、と心から思う。
 
今は、なかなか外出ができないが、また山に登れるようになったら、この本と出会った頃を思い出しながら、頂上を目指して山に向かいたい。
 
そして、山の頂上で素晴らしい景色を見ながら、10年前の自分に、ありがとうと言いたい。
 
 
 
 
***

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2021-02-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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