自分にとっての当たり前≠他人にとっての当たり前
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記事:前田悠太郎(ライティング・ゼミ平日コース)
「家を出て周りを見渡せば山が見える」これは僕が生まれ育った町では、当たり前の景色である。僕の生まれ育った町は、京都市の中心部から車で1時間程かかる山に囲まれた場所にある。かつては京の都に木材を供給する重要な拠点として栄え、林業が大変盛んだった。町の面積の90%以上を山と森林が占めていて、自然に恵まれ季節の変化を身近で感じられる、まさに田舎と言える場所だ。
そんな場所で育ち生活している僕にとっては、周り360度全てが山という環境が当たり前なことであった。
そんな環境で育ってある程度成長して地元以外の地域、たとえば大阪や東京などに行ったりすると、「何か違和感があるな」といつも感じていた。最初のころはその感覚の正体が分からなかったが、ある時ふと気づいた。山が見えないのである。周りをぐるっと見渡してみても山らしきものが全く見つからない。見えるのは高いビルや商業施設などといった人の手で作られたものばかり。見える自然や緑と言えば道沿いに植えられた街路樹であったり、建物の前などにある花壇ぐらいだった。
僕が普段生活している環境では、家から出ればどこにでも山があったのに大阪や東京といったいわゆる大都会では、その当たり前の風景が全く存在しないのである。
そのことに気づいてみるとそこからさらにある考えが出てきた。僕にとって山や緑に囲まれて生活するということは「当たり前のこと」であり特別なことでもなんでもなかった。しかしこの大都会の中で生まれ育った人たちからすれば、自分とは逆で周りを見渡すと山や緑はなかなか見ることはない。その代わり高いビルや建物が立ち並び、たくさんの交通網が張り巡らされ、数えきれない人々が朝から晩まで街を行きかう。そんな中で生活することが彼らにとっての「当たり前のこと」であるのだ。
話が長くなったが、何が言いたいかというと、僕にとっての当たり前は他人にとっての当たり前ではない、ということがたくさんあるということだ。僕にとっては山や緑に囲まれるのが当たり前、都会の人にとって山が全く見えず見えるのはビルなどの人工物ばかりというのが当たり前。育ったり生活している環境しだいで「当たり前のこと」は全然違うものになるのだ。
このそれぞれの「当たり前のこと」が異なると、価値観や満足度にも違いが出てくると思う。これから述べるのは、僕自身が過去に実感した価値観の違いについてのエピソードである。
僕は大学卒業後にとある専門学校に進学した。その専門学校は全寮制の学校で日本全国から学生が集まってきた。そこで生活をしていると、僕以外の人たちの多くが言うのである。
「この町はド田舎だ」
「何もなくて色々と不便だ」という風に。
それを聞いた当時の僕は、
「えっ? なんで皆はそんなことを言うのだろう?」
「十分にお店はあるし、過ごしやすく生活しやすい町だと思うんだけどな?」
「何故、皆そんな贅沢を言うのだろう?」
「他の皆はいったいどんな大都会に住んでいるのだろうか?」
などということを思ったのである。
その学校があるのは関東地方のある県の町の中なのだが、僕からすると都会すぎず田舎すぎない理想的な町なのである。自転車で行ける範囲内にスーパーやドラックストア、コンビニを始めとして、ファストフード店やクリニック、飲食店などがある。生活するうえで必要なお店や施設等はだいたいが揃っている。さらには車で30分程あれば新幹線が停まる駅に行けるのである。
「全然田舎じゃないではないか」
僕はその学校を卒業した今でもそう思っているのである。
僕が生まれ育った町には有名ファストフード店も大型ドラックストアもない。最寄りの新幹線が停まる駅まで行こうと思ったら、車で1時間以上かかるような場所なのである。夜遅くまで営業をしている飲食店もなく、都会にあるような施設もほとんどない。普段そんな町で生活している僕からすれば、その学校がある町は理想的な場所なのである。大都会のように騒がしく慌ただしい雰囲気ではなく、程よく街の中心部から離れて自然もある。かといって生活するのに不便な訳でもなく、必要なお店や施設も近い距離に揃っている。バランスのとれた町であり僕の価値観から言えば、大変満足度の高い町であった。
ちなみにここまで僕はその町のことを理想的な場所と言ったが、別に僕が生まれ育った町が嫌いなわけではない。自然に恵まれ自慢できるところもたくさんある町だと思っているし、この町で育つことができて良かったと思っている。
さて、それぞれの「当たり前のこと」が異なると、価値観や満足度に違いが出るということを言いたいがためにこのエピソードを述べてみた。僕は「家を出て周りを見渡せば山が見える」のが当たり前の町(都会のようにお店等が十分に無くてそれこそド田舎と言えるような環境)で生まれ育った。だから学校のあった町が田舎に思えず、生活するうえでバランスの良い理想的な場所だと思え満足していた。それに対して、ド田舎だと言っていた人たちは、普段生活している環境がもっと都会でお店や様々な施設が揃っていて自然も少なかったのではないだろうか。だから自分たちの普段の環境(自分にとっての「当たり前のこと」)と比べて不十分だと感じて満足できなかったのかもしれない。
一人ひとりと話をして理由や思いを聴いた訳ではないので、これは僕の予想でしかない。あの当時に感じたことを今になって改めて考えてみたら、このような内容になった。
「当たり前のこと」がそれぞれで違えば、価値観や常識が異なってくる。そうなれば、同じ環境や場所にいてもその人が持つ感想や意見、満足度が全然違うものになる。それは当然のことだが、普段生活しているとそのことを忘れて、お互いの考えや意見が合わずケンカをしたり、理解し合えないことがたくさんある。
「自分にとっての当たり前≠他人にとっての当たり前」ということを忘れずに、自分の価値観や思いを一方的に押し付けたりしない。相手の意見に耳を傾けて、相手の立場にも立ってみて考えてみる。そうすることができるようになれば今よりも少しでも満足のいくより良い人生を歩んでいけると信じたい。これが今回の文章を通して僕が一番言いたいことである。
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