「おもてなし」の正体とは何か?
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記事:鈴木謙二(ライティング・ゼミ日曜コース)
「O・MO・TE・NA・SHI」
2013年、国際オリンピック委員会(IOC)総会の最終プレゼンで、某女性フリーアナウンサーが使ったこの言葉は今でも記憶に新しい。それくらいインパクトのあるプレゼンだった。
以後、このフレーズが様々なトークやお笑いのネタにまで使われて、やや食傷気味になったことも覚えている。
一方で、とても気になったことがある。
「おもてなしの心=日本固有の文化」のように用いられているが、はたして今の日本人がその心を持っているのか? 外国人にはそれが無いのか? を自分ごととして考えてみたくなった。
まずは、広辞苑で言葉の意味を調べてみる。「おもてなし」の語源は、とりなし、つくろい、たしなみ、ふるまい、とある。平安、室町時代に発祥した茶の湯から始まったと言われ、客や大切な人へ気遣いや心配りをするという意味らしい。
しかも、「もてなし」に「お」をつけるあたりが、日本人らしい。
「おもてなし」といえば、2019年ラグビーワールドカップ日本大会が思い出される。この時は、全国各地で、外国人選手への「おもてなしブーム」のようなものが巻き起こった。彼らの反応はおしなべて好評で、何もしていない私ですら鼻が高くなったくらいである。
また、ある年、ヨーロッパへ旅行した時にもこんなことがあった。出発便に乗ろうとゲート前で並んでいると、目の前のフランス人が「日本はすごく良かったわ! 日本人がものすごく親切だったし……」と興奮気味にまくし立てていた。
この時も、自分は関係無いのに、それを聞いた自分が誇らしく思えたものである。
もちろん、海外でも親切にしてもらった経験はたくさんある。
・ニューヨークでお勧めの床屋を教えてくれて、地図まで書いてくれたホテルマン。
・イタリアのカフェで、紙に書いてまでイタリア語を教えてくれたウェイター。
・中国のお寺で、隅々まで案内してくれたボランティアと称したガイド。
等々。
でも、ちょっと待てよ……。
その全てにおいて、対価が発生してしまっている。
ふと、元ホテルマンのインタビューを思い出した。その中で、彼は、次のように語っていた。
「サービスというのは、『いつでも、どこでも、誰にでも』平等に提供するもの。一方で、『この時、この場所で、あなたにだけ』という特定の個人を対象にするのが『おもてなし』なのではないでしょうか」
確かに、快適に過ごせるホテルも、美味しく食事ができる飲食店も、それは対価を支払っているからこそ受けられるもの(サービス)である。
一方、「見返りを求めない」奉仕となれば、格別な思い出になるのは間違いない。
そう言えば、自分にもいくつか思い当たる出来事があったような……。
静岡出張で名古屋駅から出発しようとしていたある日のこと。改札をどうやって通過したらいいか分からず、あたふたしている中国人観光客の家族がいた。「逆の立場だったら、誰かに助けてほしいに違いない」と思ったら、私には見て見ぬふりはできない。
声を掛けてホームまで案内する途中、彼らがこれから神戸に行くと聞き、「ぜひ、楽しんで!」と言って別れたのだった。
その後、反対側のホームから手を振ってくれた時の笑顔は忘れられない。
また、新幹線で品川に向かっていた冬の日のこと。窓側の私の隣のB席、C席、そして通路を挟んだD席が中国人家族だった。その横で、(隣席のお爺さんの肘がぶつかるのを気にしながら)私はPCを開いて黙々と仕事をしていた。
ふと顔を上げた時だった。反対側の車窓に、雪を被った富士山がくっきりと見えた。私自身も滅多に見られない光景だったこともあり、無意識で、隣で眠りかけていたお爺さんを起こし、指をさしながら「富士山(フーシーシャン)!」と教えていた。
それを見た途端、車内が大騒ぎとなった。C席のお婆さん、D席の娘さんまで拍手してくれて、こっぱずかしくなったくらいである。
まだある。それは、静岡出張からの帰りの出来事だ。
その日は、打ち合わせが長引いたせいで昼食抜きだった。そのため、帰りの新幹線で駅弁を一気にかき込んでいた。(おそらく、その様子を見てビビったと思うが)横に座った中国人女性も、おそるおそる駅弁を広げ始めた。気になって横目で見ていたら、フライにかけるソースなどを取り出している。(ここまでは順調。だが、ちょっと心配……)
すると、わさび漬けのミニカップを手に取ってキョトンとしている。(これは嫌な予感がするぞ……)
散々迷った挙句、彼女がフタを開けてごはんにかけようとしたところで、さすがに「待った」をかけたのだった。どのように説明したらいいかが分からず、咄嗟に出た言葉が「ヘン ラー(とっても辛いよ)」だった。それがきっかけとなって仲良くなったが、彼女にとって日本が悪いイメージになっていなければ光栄である。
たった3つの経験談だが、私ですら、このように外国人観光客を相手にすると身体が勝手に反応してしまう。皆さんにも、似たような経験はあると思う。
そう考えると、全ての日本人の遺伝子の中に「おもてなし」の精神が宿っているのではないか。あとは、どう実践するかだ。
無理にもてなそうとしなくてもいいと思う。意識した瞬間に「おもてなし」が「サービス」に置き換わってしまう気がするから。
形にこだわらず、あくまでも自然体で、他人とコミュニケーションを取りながら生きていくこと。
これが、私の行き着いた「おもてなし」の正体である。
***
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