メディアグランプリ

Our story of DEATH


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:服部花保里(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
色とりどりの本の背表紙の中に「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」というタイトルを見つけて、思わず手に取った。
 
まもなく3歳になる娘は、最近絵本を楽しめる年頃になってきた。そして、そんな中でもお気に入りなのが、シンプルだけど奥深い挿絵が魅力のディック・ブルーナの「うさこちゃんシリーズ」だ。「お誕生日」やら「おばけごっこ」やら、日常の一コマを小さな子どもでも共感するようなストーリーとリズミカルなテンポで綴る手腕に、思わず読み聞かせる大人の方も熱がはいる。
 
シリーズの基本の何冊かを読むと、「うさこちゃん」の他に、お母さん、お父さん、アーハとウィルメンという友達、ふわこおばさん、おばあちゃん、という登場人物たちとうさこちゃんとの関係図も頭にはいってきて、次はどんなテーマの本を選ぼうかと大人はつい誘導的になる。そんなわけで、冒頭のタイトル同様、おばあちゃんが大好きな娘が気にいるのではないかと思い、こちらの本に心惹かれたのだ。
 
しかし、その表紙をみて私は、思わず「やっぱりまだ早いかな」と半ば独り言のようにつぶやき、思わず本を元に戻してしまった。というのも、そこには大きくお墓と思しきイラストが描かれていたからだった。それを見た私は瞬時に、大好きなおばあちゃんがこのストーリーの中で亡くなってしまうことを予測し、躊躇してしまったのだった。
 
そこには、人の死から思わず目をそらしたくなるような何か根深い感覚のようなものがあった。「忌」という表現にもあるように、人が亡くなることに対して、いみ、嫌う風習がなぜか日本にはある。その根底には、言葉にするとそれが現実となる「言霊」という力を信じる民族性もあるという。それも相まって、「死」について語ることが憚られるような空気を、今までの人生の中でも幾度か体験してきた。
 
一方で、ところ変わればではないが、このうさこちゃんシリーズの作者の出身地であるオランダでは、「死」についてもとてもオープンに語られる土壌があるようだ。これに限ったことでもないが、人として生きる上で、避けては通れないことに関して、たとえ幼い子どもに対しても、問題意識として触れられるような工夫が社会の随所にちりばめられている。
 
例えば、「TOT Zover(葬式博物館)」はその良い例かもしれない。葬儀業界やさまざまな葬儀儀式を興味深く、敬意を持って探求する展示があったり、訪れた子供達が自分にとっての「死」に対する考え方をメッセージとして残せたりする。この博物館ができたのは、2007年だそうだが、それ以前から教育の現場でも死は当たり前のこととして、ひとつの教育テーマとして語られてきた。
 
身近なところに「死」を感じない現代において、この異国の取り組みや価値観からは多くの気づきがありそうだ。「なぜ人を殺してはいけないの」という趣旨の質問が教育現場で聞かれるようになったときは、大きな衝撃を受けたものだが、「死」というものに現実感がないがゆえの発言のように思えてならなかった。かつては、少なくとも身近な人の死によって、そのリアリティやどうにもならない感情と向き合わねばならないといった機会が誰にでも少なからずあった。そういったことが、どんどん失われているのもこういったことの背景にはありそうだ。
 
考えてみれば、私が冒頭躊躇した理由は、子どもに対しての配慮的なものばかりではなかった。おばあちゃん、つまりは私にとっては母の死が受け入れがたいものだったからだ。それが、たとえ絵本を通じてだとしても。いかにも日本的な価値観に染まった瞬間的な反応ではあるが、「死」に向き合うことに、私こそが馴染みがないことが露わになったような気がした。そして、言葉に出さないことと、現実から目を背けることはまったく異なることなのだということも身を持って感じた。
 
自分だけではなく、多くの人が「死」については未知であるがゆえの恐怖を感じているのではないだろうか。それを、幼い頃から、人類共通の意識であると認識しているだけで、幾分その恐ろしさから逃れられるような気がする。その入り口が「絵本」であったり、「博物館」であったり、「お葬式」であったり様々かと思うが、生の裏返しでもある「死」についても、日常の中でもっと触れ合える機会があってもいいのではないかと思う。
 
自分の大切な人が、そして自分自身が、その時を迎える時にいきなり対面するものではなく、ごく当たり前のこととして、それはいつでも側にあるものだと思うから。そして、タブー視するのではなく、幼い子であるからこそ、対話をすることからはじめてみたいと思う。そんなわけで、改めて「うさこちゃんのだいすきなおばあちゃん」を手にとった。この絵本の中で、大好きな人の「死」はどのように描かれているのだろう。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-02-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事