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人生や多様性を考えるきっかけになったこと


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:鈴木 道(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「鈴木さんの結婚生活の秘訣は何ですか?」
急にそう問われて言葉に窮した。それまで楽しそうに、旦那さんがどんなに優しいか、こんなおちゃめなことをした、どうした、と今がどんなに幸せか屈託なく、楽しそうに話してくれていた彼女が急に私に投げかけた質問だ。彼女は若い同僚で私の娘と同じ年齢、結婚したばかりだった。幼い頃からおばあちゃんっ子で、苦労も多かった様子を聞いていたので、私は彼女の結婚を娘の事のようにうれしく思い、幸せそうなのろけ話を聞くのが楽しかった。それが、急にそんなことを聞かれても、なかなか言うべき言葉が思いつかない。同時に結婚したばかりの彼女とこんなことを話せる機会は今しかないだろう。自分なりに思っていることを伝えたいと思った。
 
「草鞋(わらじ)って知ってる?」
「いえ、知りません。何ですか?」
私は、わらじの説明から話し始めていた。
「わらじって昔の人が履いていた藁でつくった靴のこと。前に聞いたことがあることわざで、正確には覚えてないけど『他人のわらじは履いてみないと分からない』みたいな言葉があって、私はそれが妙に心に残っているんだよね。相手の履いている靴で歩いてみなければ、その人がどんな苦労をしているかは分からない、っていう意味だと私は理解してるんだけどね。楽々歩いているように見えても、実際履いてみたらボロボロですごく大変、とか、窮屈でつらい思いをしてた、とか自分には分からない事情があるかもしれない、って思って相手を見るっていう意味だと思ってる。そう思って相手のことを考えたいなと思ってるよ。」
「それからもう一つは、『ないものねだりをしない』ってことかな。自分にも、相手にも、あれがない、これが足りないって思ってても仕方ないからね。」こんなことを話したところで、私たちを乗せた車は職場に着いて、そのまま話は流れた。
 
自分の娘たちや息子たちともこんな話をしたことがなかったが、彼女が聞いてくれたおかげで、私は自分の心の片隅にあった思いを言葉にしていた。秘訣といえるようなものではなかったし、幸せいっぱいの彼女の参考になりそうにはなかったが。
 
その後もたびたびおのろけ話を聞かせてもらったが、やはり、こんな話をすることはもうなかった。だが、私は時々この場面を思い出す。そして自分が考えていたことについて思い巡らす。夫婦の関係性も年月とともに変化していくものだろう。十人十色、百人百様、百組百様、それぞれの関係性があり、大切なものがあるに違いない。外からそれは分からないが、いろいろあるからこそ良いのだと思う。
 
また別の同僚たちが、自分はいつも朝は〇〇ニュースを見ていたのに、連れ合いは別のニュースをつける。朝何チャンネルを見るかから話し合わないといけない。大変だー、とそれぞれの家庭のことを話していた。生活習慣も好みも違う二人が一緒に暮らしていくにはいろいろなことを相談して決めていくことになるのだろう。共働きを続けていくためには、白色の食器はここにこう入れる、お風呂の後は洗濯物をこうして……としっかり共有して、家事をシステマティックに決めておかなくてはいけないことも多いのだろう。自分が結婚した時のことを思い返すと、こんなにしっかり考えていなかった。
 
若者たちのフランクで平等な関係作りに感心し、ほほえましく思う。大変だな、と思うことも創意工夫で乗り越えていこうという前向きさにエールを送りたくなる。彼らのジェンダーの平等の感覚、人権の意識は一昔前と比べたら格段に進歩していると思う。みんなと同じなら良いのではなく、自分たちはどうやって行くかを話し合っている。そんな様子を見聞きするたびに、価値観は変わり、文化は進歩するのだなあと思う。
 
もちろん、結婚することもしないことも同じに尊重されるべき選択だ。結婚が異性間のものとするのも今は実情にそぐわなくなっている。生き方の自由が増えた分、それぞれの先にあるものを見据え、よくよく考えて決めていく重みも増す。みんなと同じ、が良いわけでなくなればそれだけ、個々の選択の責任も重くなっていくのだろう。そのような重みを引き受けながら、自分はどう生きたいか、を考えていく自由さと強さを、そして、他の人のどう生きたいかも尊重しようとする若い人たちに柔軟性を感じ、これからの世の中を変えていってほしいと期待する。
 
古めかしい話ではあったが、あの時彼女に伝えた私の思いは、それなりに私の感覚を言い得ていたと思う。私は漠然とした感じ方をしていたが、連れ合いに対して別の関係性の作り方をする人々の話がとても興味深かった。そして、そうこうしながら年月を重ね、私たち夫婦もそろそろ人生の秋を過ごしている。話していても「あれ、あれ」「えーっと」が増えて、想像力で補わないと会話が続かない。話し手なのか聞き手の問題なのか、相手の言うことを聞き返すことも増えた。自分が年を取っていくことも、相手が年を取っていくことも当たり前のことなのに、受け入れていくのは難しそうだ。
 
仕事柄もあり、周りにいるいろんな人々の個別性を大切にしたいと思ってきた。ここから先、私自身はどう生きていくのか。できることなら、終わりよければすべてよし。いい人生を送れたね、ありがとう、と言って終わりの日を迎えたいものだ、と考えるのは飛躍しすぎだろうか。
 
 
 
 
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2021-02-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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