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メディアグランプリ

飽き性の私が、2年半続けていること


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

廣川陽子(ライティング・ゼミ 日曜コース)
 
 
「うわああぁぁぁぁ……」
絶望に満ちた私の声が、しんとした教室に響く。
他の生徒さんの視線が私に集まる。頭を抱えて呻く私。
「どうして、こうなるんだ…なんで上手く書けないんだ…」
先生が、優しい笑顔で近づいてくる。
「大丈夫、デザイン書道に失敗はないですよ」
 
そういえば、先生はあの日も同じように言っていた。その言葉に感動し、心惹かれたことも思い出す。
あれは、2年半ほど前の夏のこと。
私は、書道教室の体験に出かけた。前から「デザイン書道」というものに興味があったのだ。
小学生の頃に学んだ「習字」は、“とめ”、“はね”、“はらい”などを大切に、お手本を見ながらその通りに書く。
一方「デザイン書道」というのは、その名の通り文字をデザインして書いていく。例えば「にじみ」や「かすれ」を意図的に使うこともある。文字のバランスをあえて崩したり、薄い色の墨と濃い色の墨を同じ作品の中で使ったりもする。個性を出しながら、創作するのがデザイン書道だ。
焼酎の瓶のラベルや市販されている年賀状の文字を思い出してみてほしい。そういったものも、デザイン書道で書かれているものは多い。
こんな字が自由に書けたらかっこいいな、という気持ちで体験レッスンに出向いたのだった。
体験レッスンでは “ありがとう” という言葉を練習をした。先生にコツなどを教えてもらいながら、自分なりの字を作っていく。
“あ” の一画目を大げさに長く書いてみたり、“う” の二画目を力強くかすれさてみたり、初心者なりに試行錯誤を繰り返し何度も何度も筆を動かした。
先生に添削してもらい、アドバイスを貰いながら練習するのが楽しかった。決して上手いとは言えないが、そこそこ自分で満足いくところまで書けるようになった。(今見たらめちゃくちゃ下手くそなのだが)最後に、今日ずっと練習してきた“ありがとう” をハガキサイズの和紙に清書する。
だが、練習通りにはいかなかった。私は、幼い頃から本番に弱いのだ。清書用の紙に向かった瞬間、心臓がバクバクして、筆先が小さく震えた。
なんとかかんとか書き終えた字は、理想のものとは全く違う出来上がりになってしまった。その作品を見つめしょんぼりと落ち込んでいると、先生が近づいてきてこう言ったのだった。
「あら、いいじゃないですか。この字のここ、好きですよ」
「……え? いや、でも、あの…練習通りにいかなくて…失敗しちゃいました……」
「デザイン書道には、失敗はありませんよ。これも一つの個性だし、味ですよ。これもちゃんとした作品です」
その一言に感動した。デザイン書道には失敗はない、正解は一つではない。個性の数だけ正解があるのだ。なんて今時な考え方だろうか。
大人になって褒められることがめっきり減った私は、その日先生にたくさん褒められ恐縮していた。なんだか照れくさくて「いえいえ……」とヘラヘラしながらも、内心では小躍りするくらいに嬉しかったし、ワクワクした。
 
そこから2年半以上教室に通っているが、未だに思い通りの字はなかなか書けない。いつまでたっても本番に弱く、上手く書かなくちゃというプレッシャーにもなかなか勝てない。
「うわああぁぁぁ……」と練習中に頭を抱えることも、しょっちゅうだ。
それでも、ごくごくたまに自分で納得できる作品が書けることがある。まぐれなのだろうが、心の満たされ具合は凄まじい。思わずにやけてしまう。
そしてその作品をそうっと大事に持ち帰り、家の冷蔵庫に貼ったり、玄関に貼ったりしてみる。そこでまた、なんとも言えない達成感に浸るのである。
家の中を歩き、たまにその作品を眺め、次のレッスンまでに良いイメージトレーニングをする。
 
しかし、また次も満足のいく字が書けるわけではない。そんな簡単ではないのだ。
それでも、やっぱり先生は「いいでね、失敗はないですよ」と言ってくれる。
なぜこんなに褒めてくれるのだろう?教室を辞められたら困るから?とりあえず褒めておこうという作戦なのか?
いや、違う。先生は、本当に書道が好きなのだ。
思い通りにいかない難しさ、毎回まったく同じには書けない面白さを誰よりも知っている。筆の使い方、力の入れ方、墨のすり方、ふくませ方…色々なものが絶妙に組み合わさって作品ができる。そこには無限大の可能性がある。だから失敗と思っていたものすらも、その可能性の一つであり、私たち生徒にもそれを面白がって欲しいのではないか。デザイン書道の奥深さ、魅力を感じてほしいのではないか。
 
なんだか、人生みたいだ。
失敗を失敗で終わらせるか、面白がることができるかで、人生の充実度や満足度、さらには自分の成長度も変わってくるように思う。
 
先生はこうも言う。「書道は続けることが大事です」
ぎくり。私は、飽き性だ。何かをコツコツと続けるのが、大の苦手だ。
これまでも様々なものに手を出してきた。
ウクレレが弾きたい!と急に思い立って、手頃な値段のウクレレを買ったこともある。しかし3曲くらい弾けるようになったところで満足してしまった。その後、ウクレレは部屋のインテリアと化した。
何にでも興味があって好奇心だけはあるのだが、その一方で、早い段階で飽きてしまうのだ。熱しやすく冷めやすいとは、まさに私のことだ。お恥ずかしい。
だから、何かを長く続けている人、毎日休まず練習をする人、そういう人を私は本当に尊敬している。こんな私が、これからも書道を続けていけるだろうか。心配だ。飽きてしまわないだろうか。不安だ。
「絶対に一生続けます!」と、できないかもしれない約束をすることはできないが、でもこれだけは言える。
デザイン書道は、面白い。書くことで、自分の性格を改めて知ることができる。
人生を考えることができる。
まだまだその奥深さを知りたい。もっともっと満足いく字が書きたい。
 
さあ、明日はレッスンの日だ。イメージトレーニングをして寝ることにしよう。
 
 
 
 
***
 
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2021-02-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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