マスカラで印象、変わりますから。
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:棚橋 愛(ライティング・ゼミ日曜コース)
買い物に出かける前には、買うものを手帳に控えることにしている。
それは買い忘れや無駄買いを防ぐために、欠かさず行っている私の習慣だ。
今日は用事があって心斎橋へ出かけるので、その帰りにデパートの化粧品売り場へ立ち寄ることにした。
だから、手帳にこう書いた。
「マスカラ(何色かはその場で決める)」と。
マスカラというのは主に女性がまつ毛を濃く長く見せるために使う化粧品である。
まつ毛は黒いので、マスカラの色は基本的に黒色、もしくは茶色が一般的だが、ここ数年でカラフルな色のマスカラが店頭に並ぶようになった。
ブルー、ピンク、オレンジ、グリーン、パープルなどなど、サインペンのようにカラフルな色展開である。
とはいえ、それは10代や20代の若い人が使うものだと認識していたので、成熟しきった大人である私は完全にスルーしていた。
ところが、そんな私に黒でも茶色でもない色のマスカラを買い求める日が来たのだ。
そのきっかけは、メイクのレッスンを受けたことだった。
10代の後半から化粧をするようになり、これまで雑誌やWeb、そして店頭などからその方法や商品知識は得ていたつもりだった。
しかし、年を重ねて顔にも少し変化が出てきた中、一度プロから直接レクチャーを受けて、改めてメイクの仕方を学んでみようと思い立った。
そして、その勢いですぐにメイク講師のマンツーマンレッスンを申し込んだ。
レッスン当日。
講師の女性へは「オフィスに向く、清潔感のあるメイクを教えてほしい」とだけリクエストし、使用するアイテムの選別はすべてお任せすることにした。
彼女は数え切れないほどのコスメが詰め込まれたトランクを物色し、そこからいくつかのアイテムをピックアップしたのち、メイクが始まった。
レッスンを受けたのが3月だったこともあり、提案されたのは春らしいオレンジ系のアイシャドウを使ったメイクだった。
仕事のシーンでは、これまでブラウンやベージュといった馴染みの良い色を選びがちだった。だからオレンジ色というのは意外なチョイスだったので若干躊躇したが、実際につけてみるとこれまた意外としっくりきた。
ベッタリと「塗る」のではなく、ほんのりと色を「乗せる」イメージでつけると、違和感なく馴染んで目元が明るくなった。
新しい世界が開けて気分が高揚する中、講師はマスカラを2本取り出した。ひとつめは黒よりも軽さが出せる茶色。そしてもうひとつはオレンジ色のマスカラだった。
マスカラもオレンジ?
それはちょっと派手では?
さすがにこれはオフィスメイクという範疇からは外れるのではないか?
不安に苛まれた私は、おそるおそる講師へその思いを伝えた。
彼女は私が不安がることも最初から予想していたようで、大丈夫だから見てなさい、と言いたそうな顔で微笑みかけた。
そしてこう続けた。
「いまのトレンドは“抜け感”を出したメイクなんです。オレンジのマスカラを下まつ毛にちょっと使うと抜け感が出て、今時の顔になるんですよ」と。
ここで出てきた抜け感というのは、程よくリラックスした感じを指し、ファッション用語としてもよく使われるようになっている。
今回はこのオレンジのマスカラが、リラックスした雰囲気づくりに一役買うのだと言う。
それでもまだ不安はぬぐえなかったが、ここではひとまずプロのアドバイスを信じることにした。
上のまつ毛に茶色のマスカラを付け、さらに下まつ毛にちょんちょんと少量のマスカラを付けてもらった。その顔を鏡で見て、すぐに私は納得した。
頑張ってメイクしました! と言わんばかりの気合いが入ったメイクではなく、肩の力が抜けて、これまでよりも親しみやすさが増しているような気がしたのだ。
派手になって悪目立ちするのでは? という不安も杞憂だった。
確かに上下のまつ毛にたっぷりつけると、確かにオフィス向けとは言えない不自然な仕上がりになるが、下まつ毛にだけ少量つけると違和感なく馴染む。
だから、これまで決して手に取ることのなかったオレンジ色のマスカラが、この瞬間から私にとっての必需品になった。
オレンジのマスカラは日々使い続けた結果、とうとう残りが少なくなり新しいものに買い替える必要が出てきた。
次も同じオレンジ色のマスカラを買い求めようか。それともまた違った色がいいか。ピンクや紫も面白いかも……。
そんなことを考えているうちに、百貨店の売り場に着いた。
さて、どんな色のマスカラが出迎えてくれるのだろうか。
***
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