夫婦茶碗と隠れたカリキュラム
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記事:小北采佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
こわい。
買ったばかりの2つの茶碗を目の前にして、私は怖くなった。
そのお茶碗は、片方は青、もう一方は赤をベースにした色違いのデザイン。
青が赤よりちょっと大きめの夫婦茶碗であった。
それは、私が彼氏と2人で暮らし始めたばかりの頃だった。
我が家には食器が何もなかったので、タッパーにごはんをよそって食べていた。
2週間くらいタッパー生活を続けて、我々は決めた。そろそろ最低限の食器を揃えていこうと。毎日お米を食べる我々がまずほしいのは、やはりお茶碗だ。
私は常々「お茶碗は彼とお揃いのデザインがいい!」と思っていた。
彼とペアのお茶碗を使うことへの憧れがあったからだ。それに、デザインが揃っていた方が食卓に統一感が出て見栄えもいい。
我々は台東区にある食器専門店に足を運んだ。
食器店に入ると、夫婦茶碗がこれでもかと陳列されていた。
多くの夫婦茶碗には、共通点がある。
モチーフや柄など、デザインが同じであること。
片方は青・緑などの寒色系、もう一方は赤・オレンジなどの暖色系の色味であること。
寒色系のほうが暖色系より大きめのデザインであること。
そして、大きめの青は夫用、小さめの赤は妻用、ということが想定されたデザインになっているということだ。
私は嬉々として茶碗を選んだ。そして、よくある「大きめ・青」と「小さめ・赤」がペアになっている茶碗を購入したのであった。
お茶碗を手に取り、私は自然と思った。「大きめ・青」は彼用、「小さめ・赤」は自分用だろうな、と。
その時私の中に若干の違和感があるのを感じたのだが、やっと茶碗を手に入れられたことの方が嬉しくて、その正体が何なのか、その時は深く考えなかった。
しかしながら。
帰宅して、本日の戦利品の茶碗をゆっくり眺めているうちに、私の中にふつふつと疑問が浮かんできたのである。
そもそもなぜ夫婦茶碗は「大きめ・青系」と「小さめ・赤系」の組み合わせなのか。
そして、なぜ「大きめ・青」は夫用、「小さめ・赤」は妻用、という想定なのか。
ここには明らかに、色と性別、大きさと性別を紐づけるような考え方が存在している。
かつて赤いランドセルは女子、黒いランドセルは男子、が定番だったのと似ているではないか。
そして何より、私はなぜ、2つの茶碗を見て「小さめ・赤」は女性用、つまり自分用だ、と思ったのだろう? そもそも「大きめ・青」は夫用、「小さめ・赤」は妻用、というものの見方は、いつどうやって形成されたのだろうか?
この時、私の頭に浮かんできたのが「隠れたカリキュラム」という言葉であった。
これは大学の授業で出会った言葉で、教育の分野でよく使われる。
隠れたカリキュラムとは、学校教育の正式なカリキュラムには含まれていないが、ある考え方やふるまい、コミュニケーションの仕方などが、意図しないままに教師や他の生徒から教えられていくことである。
例えば、学級での役割を決めるときに、学級委員長は男子生徒、副委員長は女子生徒が担当することを教師が暗に勧めてしまったらどうだろう? たとえ教師が無意識に行ったことであっても、生徒は性別によって求められる役割に違いがあるということを感じてしまう。中にはそれに違和感を持つ生徒もいるだろうが、無意識のうちに教師の価値観に従うようになってしまう生徒もいるのだ。
私がペア茶碗を選んだ時、無意識に「大きめ・青」は男性用、「小さめ・赤」は女性用と思ってしまったのは、この隠れたカリキュラムが私の中にあったためであったのだ。
気づかない間に、自分の中に、色・大きさと性別を紐づけてしまう考え方ができていたということである。どこにもそんな指定なんてないのに。
そして、もし「大きめ・青」を彼、「小さめ・赤」を私が使い続けたとしたら、将来私たちの子供がその様子を毎日見ているうちに、「男は青、女は赤」といった考えを無意識的に刷り込まれていくかもしれない。そうしてこの夫婦茶碗は隠れたカリキュラムをどんどん再生産していってしまうのではなかろうか。
最近、ジェンダーフリーがあちこちで叫ばれている。自分は性別による偏見なんて持ってないよ、と思っていた。しかし、実はそうでもないかもしれない。
何しろ今回、私は一瞬「小さめ・赤」は女性用というのが当然だと思ったのである。しかも無意識のうちに。
もしかしたら自分の知らない間に、隠れたカリキュラムによって教え込まれた考え方をあちこちで作動させているのかもしれない。そう考えると怖かった。
自分が無意識に選んでしまっていること、受け入れてしまっていることはまだまだありそうだが、少なくとも、これからの生活では自覚的になっていけたらいいと思う。
これからこの夫婦茶碗を使っていてよいのだろうか? という思いもないわけではないが、自分への戒めも込めて、私は今日も「小さめ・赤」の茶碗を使っている。
みなさんも自分の茶碗を改めて見てみてはどうだろうか?
***
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