メディアグランプリ

さぁ、弱さを共有しよう


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記事:梅とら (ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
私には憧れの先輩がいた。
 
彼女はものすごく仕事ができた。自分に厳しく、休まず、愚痴も言わず、どんな仕事でもサクサクとこなした。上司も、チームの絶対エースとして信頼を置かれる存在であった。
 
魅力を持つ人、それは生まれ持った才能でもある。実際、彼女は背も高く、整った顔立ちで目を惹く存在だった。短い前髪からのぞく凛々しい眉、力強い眼差し、すっと上を向く顎。彼女がいるだけでその場の空気が変わる、そんなオーラのある女性であった。
 
彼女の周りには自然と人が集まった。美しく、仕事ができる彼女のことをみんな放っとけないのだ。しかし、彼女はエースになることはできても、リーダーになることはできなかった。誰よりも仕事ができるのに。何故なのだろうか。
 
彼女が、皆と違うところ。それは愚痴を言わないところだった。無茶振りをしてくる上司にも、勝手なお客様に当たっても愚痴や文句を言わない。女子の多い会社では非常にに珍しい存在であった。
 
しかし、愚痴を言わないことは本当に良いことなのだろうか。
 
人はどんな時に愚痴を言うのだろうか。辛い時、悔しい時、腑に落ちない時。自分の中だけで抑えられない時に愚痴を言う。それは自分の感情や弱い部分を人にさらけ出すことでもあるが、周りと自分の体験を共有し、共感や慰めを請うことで心の平穏を保つためである。
 
共有(シェア)は現代の侍にとっての刀である。
 
SNSはそんな侍たちが戦う戦場だが、このSNSの流行でもいかに共有が重要視されてきたのかが見ることができる。
 
20年ほど前、SNSがでだした頃に流行ったのは友人からの招待でしか入れない会員制のSNS、mixiだ。部活のように自分の好きなコミュニティに帰属したり、自分のページの来訪者がわかる足跡機能などが特徴の内輪でつながるのが主流のSNSだ。
 
次に定番化したFacebookでは自分の出身高校などの自分の経歴を登録することで、同じ経歴を持つ人と繋がれるのが魅力であり、コミュニティに登録することでより楽しめるツールになっている。
 
そして現在の定番、InstagramやTikTokではコミュニティという輪ではなく、ハッシュタグを利用し、友人ではないより多くの人に向けて情報を発信、共有することがメジャーになっている。
 
その共有されたコンテンツの評価「いいね!」は共感のバロメーターだ。発信されたコンテンツに対して共感ができれば「いいね!」をする。「いいね!」が欲しいというのは共感が欲しいのである。
 
今ではSNSを通じ、趣味、思考、病気など様々なことを共有することで、人を勇気づけている人もいる。それはまるで薬物依存者のミーティングのように、自分の経験を共有することで、自分もその弱さを認め、どこかにいる相手にも同じ思いをしているのは一人ではないと気づかせ勇気づけているのだ。私もその救われた一人である。
 
そう人は自分の弱さを共有し、共感しあうことで相手の心を響かせることができるのだ。
 
例えば、ものすごく優秀な人が上司になったとする。今までの経歴、成功体験などを自分たちにも共有してくれた。「あぁなんてすごい人の部下になったんだろう」と最初のうちは感激し、頑張ろうと思えるかもしれない。しかし、時が経つにつれ自分が壁にぶつかった時、その人に相談できるだろうか。この人に相談してもわかってくれないのではないかと思うだろう。
 
逆に自分はこういったところが弱くて、失敗したし悩んだが、こう乗り越えたと自分の失敗談も話してくれる上司の方が信頼し、頼ることができるのではないだろうか。
 
絶対エースの愚痴を言わない彼女は格好良く、憧れの存在であるが、周りの同僚としては頼ってくれない、弱さを見せてくれないと、逆にこちらも信頼し、本音をぶつけることができないのだ。それは、チーム作りの上ではネガティブなポイントである。
 
そう、今の時代に求められているのは絶対的な成功能力ではなく、いかに自分の弱さを共有し、人の心を動かすことができるかなのだ。かつては愚痴を言うのは格好悪い、弱さを見せるのは負けなどと思われていたが、自分の弱さを認め、共有できる力こそ、今求められているのだ。
 
以前の「美徳」はボーダーレスの社会の中で形を変えた。自分の弱さと内で対自するだけではなく、それをコミュニケーションツールの一つとして共有できてこそ意味のあるものになっている。弱さとの対自は難しい。弱さを人に見せることは格好悪く見えるかもしれない。しかし共有することで自分の中での落とし所を見つけることができる。周りからの共感をもらうこともできるかもしれない。共感をもらうことで、救われる部分が絶対に出てくる。
 
まずは、格好をつけずに素直に自分の気持ちを共有しよう。格好悪くても、負け犬だと笑う人がいても、共有することでその気持ちが届く人が必ずいる。あなたの弱さはなんですか。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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