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食べた人が幸せになるアイスクリーム屋さん


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記事:北林美沙子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
「食べた人がしあわせになるアイスクリームやさんになりたいです」
 
2月26日、10歳の娘の小学校で二分の一成人式が開催された。
そこで発表した自分の夢や決意が表題の一文だった。
「食べた人が幸せになる」
帰宅して見せてもらったこの一文を見て、私は脳天をガツンと殴られた気分になった。
私は私のサービスを買ってくれる人の幸せをこんなにも堂々と見つめているだろうか。
仕事の本質をついつい忘れてやしないだろうか。
また大切なことを娘に教えられた。娘はいつもその天真爛漫な行動で私に色んな事を指導してくれる。
 
10年前の2010年10月10日。10が3つも並ぶプレミアムな日。
「プレミアムベビーを生むぞ~!」と分娩室のテンションは爆上がりだったその日。夜中の10時52分に生まれたプレミアムベビーは一瞬にしてその場を凍り付かせた。
産婦人科医に取り上げられた赤ちゃんの腰には、破裂した大きなコブがあったのだ。48時間以内に手術をしないと助からない、そして完治はしない一生付き合っていく病気、二分脊椎だった。
本来は妊娠中に発見して帝王切開をしなくてはいけない病気なのだ。取り上げた主治医や看護師が凍り付くのは無理もない。一気にお葬式のような空気になり、娘は救急車で県内一の病院に連れていかれた。
 
多くの二分脊椎の赤ちゃんが通常1か月半で退院していくのに対して、出産時に産道を通ってしまったがために細菌に感染していた娘は、ほどなく髄膜炎を発症し、NICUの退院までに8か月を要した。
ネット検索しては「不治の病」というインパクトに気持ちが押され、もはや手術が失敗して命を落とすほうが幸せなんじゃなかろうかとまで考えた生後1週間。
首が座るのか、寝返りはできるのか、ハイハイはできるのか、言葉は発達するのか、どうなるかは全くわかりません、と言われた生後2か月。
2週間に一度脳室内に直接抗生剤を入れて細菌を洗い流すという聞くだけで恐ろしい手術を続けても、すぐに細菌が増えて発熱する娘を見てもう一生このままなのではないかと主治医に泣き崩れた生後5か月。
 
そんな親のしっちゃかめっちゃかなんてまったく興味ありません、とでも言いたそうなぐらい、娘は娘のペースで健やかに成長していった。
首が座ったのは5か月。腰が据わったのは8か月。ハイハイをしだしたのは1歳半。赤青緑黄色を覚えたのは6歳。ゆっくりだけれども着実に前を見て進んでいった。
 
娘がアイスクリームやさんになりたいと言い出したのは5歳ぐらいだ。
理由はアイスクリームが好きだから。辛いリハビリの練習の後のご褒美は決まってセブンイレブンのストロベリーアイスクリームだった。
それからサーティーワンにハマったり、最近ではあまりみなくなったコールドストーンにハマったり。とにかくいつだって何かのご褒美はアイスクリームが定番だった。アイスクリームで釣れば大概の事は頑張れた。
 
大人の私から見ると、アイスクリームショップというものは、車椅子の娘にはかなり厳しいと感じてしまう。あのカウンターは高すぎるし店内は狭すぎる。しかし彼女にとってはそんなことはカケラも問題にならず「アイスクリームをよそってあげる人もいいけれど、レジで渡す人もいいなあ。でも作る人もいいなあ。迷っちゃう!」と平和に悩んでいた。
 
7歳になってもアイスクリームやさんを連呼し続けるので、ある夏の日、親戚の集まりの際にアイスクリームやさんを企画してあげた。事前にタッパーに3種類のアイスクリームを私が作っておき、親戚の子供や大人が順番に並んでお店やさんごっこ形式でアイスクリームを提供するという単純なものだ。
歩けない娘のために床に並べたアイスクリームのケースの前に、娘はエプロン姿で座り込み、この上ない幸せそうな顔で、喜びのあまりカラダを左右にルンルンと揺らしながら、全力投球で店員役をやっていた。
「どれがいいですか? 全部いいですよ! 大盛もいいですよ!」
「お金は10円ですよ~!」(生クリーム100%の高級品質なのに大盤振る舞い!)
アイスクリームやさんをする前にうっかり庭で水遊びをしてしまったため、オムツ姿に生エプロンというセクシー系定員になってしまったが、それでも娘は誇りと自信に満ち溢れていた。
 
そしてまた3年の時が立ち、相変わらず娘はアイスクリームやさんになることを夢見ている。なんなら自分の楽しみだけではなく「お客様の幸せ」を考える素晴らしいアイスクリームやさんに成長している。
私はこの日、2つの事を誓った。
ひとつは、娘に恥ずかしくないように、私もお客様が幸せになる仕事をしようと。
もうひとつは、娘の夢を叶えようと。
今ひそかに、キッチンカーについて調べだしている。もし実現したら、我が家の庭で娘がアイスクリームやさんをする日もそう遠くないかもしれない。
夢は諦めなければ、車椅子でも発達障害でも叶っちゃうのだ!
 
 
 
 
***
 
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2021-03-07 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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