2011年3月11日の茨城県
*この記事は、「リーディング・ライティング講座」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
記事:村人F(リーディング・ライティング講座)
東日本大震災が起きてから10年経つ。
あの地震が起きたとき、あなたは何をしていただろうか。
当時の私は大学生で、茨城県の日立市に住んでいた。
地震発生の瞬間は外に出ていたが、震度6強の揺れに思わずしゃがみ込んでしまったことを覚えている。
近くの高校から聞こえる悲鳴なども含め、生涯忘れることのない光景の1つだと思う。
その後3日間、停電が続いたのも印象的だ。
久方ぶりに電気がついたあの時ほど、ライフラインの重要性を実感したことはない。
ガスと水道はまだ止まっていた。しかし、電気が復旧しただけでも大きく前に進んだ気持ちになったのである。
このように地震発生時の体験は記憶している。
しかし、これまで考えていなかったこともあった。
住んでいた茨城県の被害である。
岩手、宮城、福島はニュースで何度も見ているから当然理解している。
津波、原発、多くの犠牲に風評被害と、軽々しく言えない被害が出たことはわかっていた。
だが、それらと同じくらい揺れた茨城県については、全くわかっていなかったのである。
テレビなどの報道機関で全く触れられていなかったせいもあるが、それにしても知らなすぎたのだ。
震災から10年経ってそのことに気付いた私は、茨城新聞社が出した「東日本大震災 茨城全記録」という報道写真集を購入したのである。
そこに記されていたのは、全国的に報道された3県と同じくらい悲惨な光景だった。
津波により多くの廃材に塗れた大洗港。
地震に耐えられず崩れた鹿島神宮の大鳥居。
余震に怯える避難所の人たち。
「自分は何も知らなかったのだ」と思わされる資料が、ページをめくるごとに出てくる。
そんな写真集だった。
そして同時に、ある感情がこみ上げてくる。
「あの震災のとき、私は何もしていなかった」と。
地震発生直後から、同じサークルの人が避難所でボランティアをしていたという話を聞いた。その人は福島出身だったが、不安に思いながらも社会のために頑張っていたのである。
その間、秋田出身の私はずっと寝ていた。
「停電でやることがない」と思いながら、無為に時を過ごしていた。
そんな自分が恥ずかしいなと、その話を聞きながら思ったことを覚えている。
こういった思いが、写真集から呼び起こされたのである。
本書を読んでいて、報道写真集の意義は起こった事実のみではなく、その裏に込められた思いも含めて記録することにあるのだと感じた。
本の前半は、被害の大きい箇所の写真がずっと続いている。しかし、それ以外にも地震発生から2ヶ月分の新聞記事のダイジェストや、震災当時を被災者に聞いたインタビュー記事も書かれていた。
このように写真で理解できる表面的な被害だけでなく、当事者たちの思いもまとめていることが、本書のような写真集の優れた点なのだろう。
また、全国的に報道されている被害はほんの一部に過ぎないことも再認識させられた。地震発生から今まで、茨城県の被害に触れたテレビ番組を見たことは一度もない。より多くの被害を受けた地区から比べると軽微に見えることから、コンテンツにしにくい事情もあるのだろう。
しかし、本書は茨城県も相当の被害があったことを記録している。
この事実は、同じような扱いを受けた地区が他にあることを示す。
そのため東日本大震災について考えるときは、ニュースに書かれなかったことまで思いを巡らせる必要があるのだろう。
10年前の茨城県の姿を見て、改めて現在の自分について考えてみる。
いつの間にか大学卒業から数年経ち、今や名古屋市民である。
茨城に住んでいたことが遠い昔のように思えてくる。
しかし、10年の区切りで振り返ってみると、震災をきっかけに自分がどう変わったか、ある程度把握できることに気付いた。
たとえば震災が起こってから、プロ野球観戦をするようになった。
震災の影響で人はいつ死ぬか本当にわからないことを実感したからである。
そのため何でもいいから遊ぼうと思い、目を付けたのがプロ野球だった。
あの時から10年間、名古屋に越してきても巨人ファンのままである。
それ以外にも、震災をターニングポイントに変わったことが多く存在している。
考えれば考えるほど自分の中で重大な出来事だったと実感させられる。
こういった思いを巡らせるのも、10年の区切りで考えるべきことなのだろう。
東日本大震災は日本だけでなく、世界的に見ても大きな被害を残した災害である。
そして10年経った今も、その爪痕に苦しむ人が大勢いるのだ。
だからこそ、このタイミングで振り返ることは大きな意義を持つ。
その時はぜひ、当時住んでいた地域についての報道写真集を調べてほしい。
もしかしたら、あなたの想像を超える被害が、そこに記されているかもしれない。
こういった歴史に埋もれてしまう情報に思いを馳せるのに、10年はよい区切りである。
皆さまもこの機会に、2011年3月11日について考えてみてはいかがでしょうか。
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