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本当に「終わり良ければすべて良し」なのか

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*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:こまる(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「終わり良ければすべて良し」という言葉がある。
 
人はだれしも、「有終の美」を目指して進んでいく。
恋愛ドラマの最終回では主人公が好きな人と結ばれるし、ライブの最終公演には応募が殺到する。部活引退前の最終戦は普段よりも気合いが入るだろうし、この文章だって、最後まで読んでくれる(であろう)あなたに満足してもらうためにはまとめをうまく書ききらなければならない。
もちろん例外もあるが、やはり出だしが好調でも結末がつまらない小説の感想は「つまらなかった」だろう。私も、終わりが大事であることには同意する。
 
ただ、それは、最後「だけ」良ければ何事も良い、ということではない。
 
私はクラリネットという楽器を演奏している。学生時代から3か月に一回以上はオーケストラや吹奏楽の演奏会に出演し、もう舞台に立つことにはずいぶん慣れた。ただ本業の仕事も毎日忙しいし、他にやりたいこともある。恋人や友達とも遊びたいし、音楽を常に生活の一番手に持ってくることは難しかった。
 
演奏会に誘ってもらうことはとても嬉しいが、演奏会への出演を繰り返すたびに、演奏会に慣れていくのがわかった。自分にとって特別感がどんどん薄れていくのだ。仕事が、勉強が、と言い訳を考えては「今回の演奏会はあまり練習できなかったけどまた次頑張れば良いや」と、自分自身に言い聞かせていた。
そんな私も、部活引退前の最終公演だけは、何度も何度も練習を重ね死ぬ気で頑張った。それから、卒業後に上京する予定だった私は、地元で出演する最後の演奏会でもただならぬ思いで舞台に乗った。
 
それまでの演奏会は、私にとってあくまで通過地点で、
「引退前最後」「地元で最後」の演奏会こそが、私の目的地だったのだ。
 
しかも、通過地点ではトイレ休憩ができたら良いかな、ついでにお土産も見ていく?ってくらいの感覚。そこでいい買い物ができる可能性もあるけど、自分の中では重要度はさほど高くない。思い入れも少ないから思い出も残りづらかった。
 
そんな私を変えたのは、worldship orchestra、略してWSOでの演奏活動だった。WSOは東南アジアの子供たちに初めてのオーケストラ体験を届けているNPO法人で、全国からプロ・アマ問わず若い音楽家たちが奏者として参加している。コロナ禍の今でこそ海外での活動は行っていないが、これまでは毎年、大学生の長期休暇にあたる夏、春に2週間程現地に赴き演奏活動を行っていた。私は国際問題に興味があり、かつ演奏も大好きだったから、団体のことを知った直後、息をするように応募のボタンを押していた。
 
現地では2週間かけて毎日のように学校や施設を訪問し演奏会を行った。多い日には一日3公演以上。最初は私も、周りの参加者もみな、最終日の最終公演に向けて日々演奏を届けていた。そんな中、慣れないフィリピンの地で参加者がばたばたと体調を崩した。その後、結局舞台上にメンバー全員が揃うことはなかった。
 
最終公演だと思っていなかった一つの公演が、メンバー全員でできる最後の公演だったのだ。私は公演を重ねるたびに自然と気が抜け始めていたことに気が付いた。子供たちに演奏を届けたい、なんてことを思って参加したはずなのに。
 
そこで私は気づいた。自分にとって通過点でも、誰かにとっては最終目的地かもしれない。そして、通過点だと思っていたところが、もしかしたら自分にとっても最終地点になるかもしれない。
 
メンバーが最後まで全員揃うとは限らない。メンバーが全員揃っていたとしても全く同じ演奏なんて二度とできない。それに、観客が全く同じ演奏会など存在しない。さらに、観客として聞きに来てくれる子供たちにとっては、その一回の公演が、最初で最後、私たちの演奏を聴く機会なのである。
 
いや、もっと言えば、その子の「人生」で、最初で最後のオーケストラ体験かもしれない。
東南アジアのスラム街に住む子供たちは、命の危険と隣り合わせで毎日を生きている。日中は家計のために労働に出かけ、学校にも行けない。娯楽といえば町中にある共同のゲーム機。日本のようにいつでもどこでも安全に音楽を聴ける環境ではない。
 
明日死ぬかもしれない目の前の子供たちにとって、私たちの演奏がオーケストラを定義するのだ。
 
誰が気を抜けるか。なにが「最終公演」だ。
目の前を全力でこなさないで、最終公演だけ完璧にこなして、何が得られるのか。
もちろん、最終公演は大事。けど、それまでの公演での演奏だって、たった一回きり。
観客、メンバー、その場にいる誰にとっても、ある意味「最後」の演奏なのだ。
 
それからというもの、私は演奏会に参加するたびに
「もし今日の演奏が最後になっても、後悔はなかったか?」
といつも自分に問いかけるようになった。
だから、ある演奏会を聞きに来てくれた友人が、「演奏会の後、本当は映画見て帰る予定だったんだけど、満足しすぎてもう帰ろうってなっちゃった」と言ってくれた時は嬉しかった。
 
そして、これは日本でいたとしても同じ。音楽じゃなくても同じ。
未曾有の大地震。交通事故。今一秒後、何が起こるかなんて誰にも分からない。
 
だからこそ、最後だけにこだわるのはやめたほうがいいと、私は思う。
 
目的地はとても大事。けど、自分が通過地点だと思っているものの、そのひとつひとつに、自分が思っている以上の価値があるかもしれない、と一度立ち止まって見てほしい。それは誰かにとって価値のあるものかもしれないし、本当は自分にとって価値のあるものかもしれない。
 
どうか、後悔のないよう過ごしてほしい。そうすれば、最後だけにこだわらなくとも「有終の美」は飾れるだろう。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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