メディアグランプリ

人材サービス業 心のお掃除、引き受けます


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:月之 まゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「何をもって会社は私と星さんが合うと思われたのですか!」
首藤さんは震える声でそういうと電話の向こうで泣きだした。
昨日は問題の星さんから職場で先輩からキツイ注意を受けた、その時の物の言い方が高圧的だったとWEB面談の向こう側で泣いていた。
 
そして今日、職場の責任者である首藤さんへ電話で確認したところ、経緯の最後に「今後、星さんと一緒に仕事をする自信がない」と本音をもらす。
二人の本音をヒアリングするのにそれぞれ2時間かかった。
 
私の仕事は人材サービス事業だ。人材派遣業を含む人材サービス業界は一般的に世の中からあまり好意的に思われていない。理由は非正規雇用者を雇い、企業との労働売買で生じるマージンで経営が成り立つ事業という印象が浸透しているからだ。
しかし求職者と企業のマッチングは何年やっても奥が深く、今だに学ぶことは多い。日本では業務スキルだけが採用の決め手に至らない。むしろその人柄や行動思考が職場のカルチャーにフィットするかどうかを重要視してトータルで合う企業を紹介しないと人が定着しないからだ。
 
また登録者本人の希望職種やキャリアプランと現実の乖離は本人が思う以上にハードルは高く、派遣登録後のスタッフの多くは、まずは収入を得て生計をたてなければならないので、希望条件をさげても最後は就業を望む。
 
今回のトラブルは製造部品を受発注する事務センターで起きた。
従業員の高齢化を危惧した顧客が、若い派遣社員を採用し、事務スキルの継承に乗り出した。一人目となる福島から上京したての20歳の女子はうまく職場に適合した。
問題は二人目で、他社で経験豊富なリーダー格の女子を続けて選考し自信をもって職場に投じた。
 
二人の研修を担当する40代半ばの首藤さんは当社から長年就業している契約社員の信頼のおけるスタッフだった。
入社して3日目、仕事の説明を聞くために前かがみになった星さんのシャツがめくれて背中が見えた。それを首藤さんが注意したところ「あっこれ、こんなシャツなんで……」と返す星さん。
その日の午後もファイリングした書類を高い位置にあったキャビネットに背伸びして戻そうとしたところ、またシャツがめくりあがり今度はお腹が見えた。もちろん地肌だ。
 
それをみてぎょっとする事務所の女性たち。今度は年配社員が「お腹みえてますよ」と注意すると星さん、慌てる風もなく「私って胴が長いんですよね~」とそのまま作業を続ける。
翌日も、その翌日も星さんのシャツの丈は改められず、同じやり取りが繰り返される。
周囲のハラハラはやがて緊張感に変わる。
とうとう我慢できなくなった姉御肌の高田さんが、倉庫で検品作業をしていた二人のもとにやってきて「あなた、お腹見えてるし……、男性社員もいるから気を付けて、ここ会社だよ……」と一発強めの注意喚起。
 
その日の夕方、星さんから聞いてほしいことがあるとヒアリング依頼。
星さんいわく「私も悪いんですけどね……。責任者でもない高田さんから、乱暴な言い方で注意されるのは意味不明。すごい勢いで怒られて怖かった。たまたま首藤さんがそばにいてくれたから証人になってもらえるけど……、首藤さんは味方だからあの人に聞いてください」と泣きながら訴える。
私はさんざん不満を吐き出させた後、最後に職場には規律があるからね~。複数の人に同じことを注意されたらまずはそれを直さないと職場になじめないよ~と本人に改善を促す。
 
しかし星さんが全幅の信頼を寄せる首藤さんに確認すると、意外な報告が入る。
仕事の進め方を教えても、星さんから「はい、わかりました」の一言がないという。
十中八九、「でもそれって、こうした方が効率的じゃないですか」「前の会社ではこうやった方が早かったんで」と常に否定から入るので、もう星さんに何も教えたくないという。 周りとの協調性も低く、そういう人を育てても、この先、皆と衝突するのを自分がとりなす姿を想像したらとてもやっていけそうにない。自分こそもう会社を辞めたいくらいだ。と噴出した感情がだんだんヒートアップする。
「会社は私と星さんが合うとおっしゃいましたが、実務の深さもしらない課長は何をもってそう考えられたのでしょうか!?」
星さんと組むことで社内の村八分を恐れる首藤さんに返す言葉もなく、実務を理解してあげられない事もすまなく思うが、人は言ったとおりに動いてくれない現実も理解してほしい。いろんな人とコミュニケーションが取れなければお互いに「成長」はないでしょうと伝えた
 
 
同じ場所で同じ状況を見ているのに、両者の受け取り方や見ている世界はまったく違った。
星さんは首藤さんを信頼しているが首藤さんは星さんが信頼できず離れたがっている。
問題のお腹の露出度は、星さんは2cm程度と申告するが、首藤さんは20cmは見えていたとこれも食い違う。
こうなると最後は、「……私だったらそんなことしない」とマイルールの一言で皆、話を締めくくる。
 
誤解、思い込み、疑心、不安の雲が心を覆うとどうしたって相手の行動が好きになれないのが人間関係の本質だと思う。
 
……でも人ってねぇ、自分の思うようにならないんだよ……。自分が思うようにならないのとおんなじでさ……。自分が変わるしかないんだよ……
そんなことを心でつぶやきながらバラバラになった組織パズルのピースをまた一から拾って、自戒をこめて組み立てていく。そして私も彼女たちと一緒に人間関係にもまれながら成長していく
 
転職回数4回。わが意に反し、1社を除きすべて人材サービス業に就いた。
主な業務は、雇用戦略立案、雇用の創出、人選、教育、そして一番大事にしているのは、スタッフの心にたまったモヤモヤをお掃除し、今、就いている仕事が少しでも本人の価値を高められるよう支援することだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-13 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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