大好きな部活を辞めた理由
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:森嵜真由(チーム天狼院)
「辞めようと思います」
そういった私の声は、どう届いたのだろう?
物事は継続が難しいと言うけれど、どうにも私にはそう思えない。
終わらせることの方が、遙かに難しいと思うのだ。
大学の新入生歓迎会。数え切れない程の部活とサークルから、新入生は思い思いの団体を選ぶ。中高と続けていたスポーツや音楽をそのまま続けるも良し、全く新しいモノに挑戦するも良し。
入学早々、新入生の頭を占める悩みの一つは、サークルどうしよう? という悩みだと思う。
例に漏れず、私もその1人だった。ただ、私は全く新しいモノに挑戦しようと決めていた。
大学のテーマは「未知に飛び込む」と春休み中に考えた。かっこよく書いたけれど、詰まるところ、やりたいことには何でも挑戦してみよう! みたいな新しい環境に飛び込むには非常にありきたりなテーマだったが、大学生になるには意外と本質的な考えなんじゃないかと4年目が終わろうとしている今、思うのだ。
勿論、クラブ・サークル選択にもこのテーマは適用されている。大学でしかできない・なかなか体験しづらいことをやってやろうと思っていた。
「ヨットは風を読むスポーツだよ」
穏やかな海とそよそよと吹く柔らかな風の中、今まで考えていたことを何もかも忘れて、ココしかない、と強く思った。
気づけば、私はヨット部への入部を決めていた。
エンジンを搭載していないのに、海上をスイスイと進む白い帆を張ったヨット。乗った瞬間、それに魅了されてしまった。ヨットという単語は知っていても、実際ヨットって漕ぐんだっけ? とか船と何が違うの? とか詳しいことについて何も知らなかった。知らないことを知ることは、曇った窓ガラスを拭いていく作業みたいだなと思った。
入部してからは、個性的な同期、頼れる先輩や素直で可愛い後輩、アドバイスをして下さる指導者に恵まれて、充実した生活を送っていた。
だから、思ってもみなかったのだ。
こんなに楽しい部活を2年後に退部することになるなんて、私にとっても想定していたことではなかった。
2年目の夏のことだった。部活で忙しく過ごしている中で、気に掛かっていることが私には一つだけあった。それは、大学を入るよりもうんと前からずっと気になっていたことだ。
“私、将来何になるんだろう?”
中高の頃は良かった。次のステップに向けて準備するべきは、勉強して偏差値を上げることだから。受験というシステムは、単純明快でわかりやすい。勉強を愚直にしていれば、それなりの結果を出すことができる。
でも、社会はどうだろう? 社会人偏差値なんて存在しない。年収が良ければ幸せか? 家庭を持てば幸せか? 偏差値なんてアテにならない。自分の幸せは自分で探すしかない。
大学を出たら社会人になろうと思っていた私は、密かに悩み続けていた。一体私は、何をしたいんだろう? 何になれるの? 私にとっての幸せってどういう状態のことなの?
答えは一向に出なかった。同時に、答えの出ない原因も自覚していた。
簡単に言えば、価値観が凝り固まってしまっているのだ。無意識に狭めた考えの中から、自分の将来について何の答えも見いだせなかった。
早急に、この価値観をぶっ壊さなければ! という気持ちに駆られた。このままにしとくと、よくわからないけど、ヤバいと本能的に思った。
辿り着いたのは、留学という結論だった。大学生にありがちな決断。留学に行くなんて今更珍しいことでも何でも無い。けれど、私の目的を一番達成しやすい手段だった。価値観をぶっ壊すには、自分を未知の環境に放り込むのは合理的な選択だと思った。自分のこと、ひいては自分の住んでいる国のことを外から見ておくのも、良い機会だと思った。ついでに、言語も勉強すれば一石三鳥じゃないか、と思ったのだ。
現実的なことも考えて、期間は1年間。3年生の夏から4年生の夏。留年することにはなるけれど、1年間を犠牲にしても行くべきだと思ったのは自分の判断だ。
新たな問題が浮上する。部活を続行するか、退部するか決めなければならない。
ありがたいことに、同期には帰国したら戻ってくればいいと温かい言葉をもらった。
考え出した夏から、翌年の冬までずっと悩み続けた。何かを自発的に辞めたことのなかった私は、自ら退く決断がこんなにも苦しいだなんて思っていなかった。考えるのは、しんどかった。どことなく、辞めることは悪いことだと思ってきた。それは、逃げで甘えだとなんとなく思ってきた。
悩み抜いた結果、私は退部した。
該当する期間は自分の代が中心となり、部を盛り上げる時期だ。辞めずに、帰国したら練習に戻るという選択は、自分の中には存在しなかった。何もかも中途半端になってしまうと思っていたから。
では、部活を辞めて良かったと思うか?
即座に、肯定することができる。充実した留学に行くことができたのは、辞めてから出国するまでの間に色んな下準備をできたからだろう。
でも、部活に入ったことを後悔したことだって一度もない。
ヨットという競技の奥深さも楽しさも、知ることができて良かった。部活を通じて出会った人に、出会えて良かったと強く思う。
入部して良かった。でも、退部して良かった。
これは矛盾しているようで、全くそうではない。
「辞める」という選択は、決して逃げでも甘えでも悪いことでもない。
何かを継続することは、とても大切な能力で並大抵のことではない。でも、自分の意思で決断し、何かを「辞める」のは、それと同じくらい重要な能力だと思うのだ。
自分の意思で、自らその決断ができるなら。辞めた先の未来に、自分の理想があるのなら。
きっと、辞めることは人生を一歩前進させる前向きな選択肢の一つになると私は思う。
***
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