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正月早々、手術しましょうと言われた


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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:やすだともこ(ライティング・ゼミ 2/24スピード・ライティング特講)
 
 
「完治には手術しかないです。いつにしましょう。開腹と腹腔鏡どちらにしますか?」
 
はぁぁぁ? 文字通り目が点になった。
 
1月6日。ある大学病院の小児外科。2日前まで楽しく家族でお正月を過ごしていたのに。
 
年始、学童が始まるのを心待ちにしていた、小学校1年生の次女。5日の朝になって脚の付け根が痛いと両手両足をついて移動し始めた。昨日お友達と遊びすぎたかな? なんて考えていたのだが、次の日になってもまだ痛いという。
 
仕事も忙しいのにと思いつついつもの小児科を軽い気持ちで受診したところ、医師から告げられたのは、
 
「紹介状を持って大学病院の小児外科に行ってください」
 
当日そのままタクシーで大学病院に向かい、初診受付で1時間半待ち、4時間待って腹部超音波検査を受けてついた診断が「鼠径ヘルニア」だった。
 
子どもの鼠径ヘルニアは、本来胎内で閉じる、おなかの中にある左右一対のあなが塞がらず、そこから腸管や卵巣など腹部の臓器がはみ出すことによって起こるという。症状は主に鼠径部の痛み。はみ出した臓器の一部が締め付けられると強く痛み、その先が壊死することもあるという。症状の訴えもなかったから気づかなかっただけで、要するに生まれたときからその原因を持っていたわけだ。
 
もちろん6歳は「手術」がどんなことかは理解できていない。親としては子どもの体を傷つけたくはないし、そもそも心の準備ができていない。しかも受診したときには立って歩けるくらいになっていた。
 
「経過観察にできませんか」
 
その言葉を絞り出すだけで精一杯だった。次の日には、再び東京都に緊急事態宣言が発出されることになっていた。そんなときに入院するなんて。昨年春、世界中の総合病院での混乱が頭を駆け巡った。
 
「春休みにまた会おうね」と、その小児外科の教授は言い、3月29日の予約を入れた。ただし、「痛みが引かなければ、即受診すること」との条件付きである。
 
とにかく手術は回避できないらしい。まずは病気と治療法、受診した大学病院の小児外科の手術件数や教授の実績を調べようと、次の日から医学系出版社に勤める友人やインターネットで情報収集を開始した。
 
よくある病気は、その診断基準や治療法等について推奨度もあわせて掲載された各学会発行のガイドラインが発行されている。鼠径ヘルニアにも「鼠径部ヘルニア診療ガイドライン」が存在する。
 
根治には手術が必要、手術は開腹手術と腹腔鏡手術。担当した医師は、術中リスクを考えたら昔から行われている開腹手術がよいという。とはいえ、腹腔鏡手術も20年の歴史がある。それぞれの手術への推奨度は同等。傷は開腹ならば1箇所(次女は左右とも症状があったので2箇所)2〜3cm、腹腔鏡ならば手術器具を入れるための3箇所、1cm程度。インターネットを調べると腹腔鏡が当たり前になっているらしい。その病院では開腹ならば1泊2日の入院、腹腔鏡なら2泊3日。
 
傷は小さいほうがよいが、安全性には変えられない。かかった医師の得意分野で勝負してもらうのがいちばん安心だ。しかも担当医師はどうみてもベテランの教授。開腹かなあなんて考えている間に、1月末、また痛みが始まった。学校の担任に聞くと、痛みが怖くて、体育もずっと休んでいたらしい。即受診し、今回は迷うことなく2月末に手術が決まった。
 
さて、子どもに手術を理解させるにはどうすればいいのか。と思っていたら、小児外科の廊下である親子が看護師から入院と保護者付き添い可の説明を受けていた。それを聞いていた次女。
 
「あーちゃんもおとまりするの? おかあさんもいっしょ? おとまりしたら、あしなおる?」
 
そうか! その場で即、付き添うことを決めた。
 
「そうだよ。おかあさんがおとなりにいてあげるから、おとまりもこわくないよ」
 
安堵した次女と私のもとに、同じように看護師が手術のことを説明しにきた。渡されたのは大人用の細かい書類と、1冊の手作りの絵本。「プレパレーション」用の絵本である。
 
子どもにも自分が受ける治療について知る権利はあり、発達段階にあわせて理解できるように伝えるのがプレパレーション、と言うらしい。次女は、「しゅじゅつ」について、看護師と私が話す間にさっそく読み始めた。
 
「えびになれるかな?」
 
手術1時間ほど前に、筋弛緩作用などがある坐薬を使用する。そのときのポーズが「えびになってね」。子どもの目線で書かれているから、手術室に行ってからのことも、「マスクからでるいいにおいのくうきをすうと、ねむくなって、めがさめたらしゅじゅつはおしまいだよ、痛くないよ」といったことがやさしく書いてある。術後の痛みについても、「がまんしないでおくすりをのむよ」と書かれている。
 
親からすると、全身麻酔での副作用や、術後の麻酔からの覚醒、術後の痛みなど不安がいっぱいである。手術2週間前にあった麻酔科での説明では、全身麻酔では気管挿管して呼吸を保つと説明され、ますます心配が募った。ちゃんと息を吹き返すだろうか。翌日には歩いて退院できますよと医師は言うが本当だろうか。
 
手術当日。親の不安をよそに、当の本人は「おかあさんとおとまりだ」と都内ホテルに泊まりに行くくらいのノリである。
 
とはいえ、朝から14時の手術までの絶飲食、坐薬ではなく内服薬になったのでえびになる機会を逃したうえ、薬が大嫌いなバナナ味だったのは辛かったようだ。
 
想定外のことはあったものの、麻酔からもすっきり冷めて、待望の夕食をぺろりとたいらげ、翌日にはゆっくりながらも自分の脚で歩いて退院できた。ご褒美に院内のスタバックスでキャラメルフラペチーノも飲めた。1週間後の受診までは学校を休まなければいけないことも楽しみだったようで、少し傷が痛む以外はニコニコと1週間を過ごし、晴れて登校も再開した。
 
そして最後の傷の確認のための受診が、当初の受診予定だった3月29日に決まった。正月早々始まった突然の手術騒動は無事終了できそうだ。
 
と……こんな体験記が「同じ病気で急に手術」と言われた方の参考になれば幸いである。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-15 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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