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今や、何故存在しているのか不明な出っ張り


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記事:山田THX将治(ライティング・ゼミ特講)
 
 
「これさぁ、クレジットカードの跡が付くんだよね」
週末で混み合い気味の池袋駅コンコースで、墨田区の革製品組合が店を開いていた。丁度、財布の傷みが目立ってきていた私は、手頃なものが有るか並べられた品を見ていた。革製品は、傷つき易いので断らずに触れると無礼だ。
大学生らしき男子2名が、スタッフから、
「この皮は柔らかいですよ」
と、説明を受けていた。大学生の一人が、ズボンの後ろもポケットから財布を出し、突起状になっているクレジットカードの番号や、アルファベットで表記された名前によって付けられ、でこぼことなった跡を指でなぞりながらつぶやいていた。
 
クレジットカードは、キャッシュレス時代の必需品だ。
現代では、多種多様な決済方法で支払いを済ますことが出来る。しかもそのすべてが、キャッシュレスだ。
しかし、スマホや交通系カードでは、大きい金額の支払いは出来ない。そうなると、昔から使われているクレジットカードの出番となる。必然的に、最低でも一枚はクレジットカードを財布に入れておく必要が生じるのだ。
 
言われてみれば、クレジットカードの素材は、私が持ち始めた昭和の時代からプラスチック樹脂だ。素材性能自体は上がっているものと思われ、割れにくくはなっているものの、見た目や触り心地は変わっていない。
変わったことといえば、カード上部の裏面に磁気テープが付いたことだ。その後、表面に金色のICチップが付いた。
 
もう一つ、クレジットカードで変わっていないことといえば、先の大学生が指摘していた様に、表面の名前やカードナンバーの突起はなぜ存在するのだろう。理由の一つとして、プラスチックにプリントされただけでは、使用頻度が高いクレジットカード等では、摩擦で消える恐れが有る為だと考えられる。
しかし現状は、磁気テープやICチップを使って通信でセンターに問い合わせている。今や名前もカードナンバーも、クレジットカード決済時には、殆ど必要の意味を失っているといえる。
では何故、今や必要としなくなった名前やカードナンバーは、現在も突起状のまま自己主張しているのだろうか。この突起さえ無ければ、大学生は躊躇なく財布を購入することが出来る。閉塞感が満ちたコンコースで、店を開いている業者さんだって、もっと楽に売り捌けたろうに。
 
御若い方、特に、クレジットカードに磁気テープが付く前を知らない方は、御存じ無いことと思う。
これは余談だが、カード類に磁気テープが付く様に為ったのは、銀行にATM(当初はCD〔cash dispenser〕と呼ばれていた)が設置されたことが始まりだ。ATMの設置が進むと、銀行口座に『キャッシュカード』が付属された。その『キャッシュカード』には、ATMを使用する際に必要な磁気テープが付けられていたのだ。
それ以前の現金引き出しは、銀行の窓口が閉まる15時前迄に、通帳と印鑑を持って足を運ばねばならなかった。現代から考えると、まるで石器時代みたいだ。
 
それと同じ様に、クレジットカードに磁気テープが付く前は、決済をする際に一回一回、伝票を作成していた。その伝票は丁度、現在でも使われている宅配便の伝票と同じ位の大きさだった。何枚も複写する使い方も一緒だ。
伝票へ入力は、当然マニュアルの手作業だ。しかし、当時から16桁あったカードナンバーは、手書きでは間違いが多かった。そもそも、店員さんたちの手間が大変だった。
そこに登場したのが、カードナンバーと氏名を、圧着によって伝票に写す機械だ。伝票は複写紙なので、この方法が便利だった。その機械の登場により、カードナンバーの誤入力が皆無となった。
圧着作業の際に必要だったのが、カードナンバーや名前の突起だった。この突起が有るからこそ、圧着で書き写す方法が可能となったからだ。
 
現代でも日本中を探すと、そのクレジットカードを伝票に圧着する機械を使っているショップが残っているかもしれない。
私が最後に確認したのは、横浜元町の帽子屋さんだった。残念なことに、その帽子屋さんは、建物の老朽化と経営者の高齢化で4年程前に閉店してしまった。
しかし、横浜や神戸の古い個人店では、今でも残っていると思われる。何故なら、古い個人店は、経営者も高齢化していてネットの環境が整っていないからだ。ネット環境が無ければ、クレジットのICチップを使った決済は出来ないからだ。
しかも、横浜や神戸といった昔から外国人相手の商売をしていた店が多い街では、早くからクレジットカードを使用することが出来たからだ。
 
クレジットカードの突起は、その複写紙伝票にクレジットカードを圧着する名残なのだ。
 
 
今では、存在する意味が無くなったクレジットカードの突起。
ここは一つ、日常に残る回顧と御考え頂きたい。
 
もしかしたら、“生活遺産”とかを狙っているのかもしれないから。
 
 
 
 
***
 
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2021-03-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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