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ダム反対運動と「アナと雪の女王2」


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記事:細田 茜(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「彼らは騙されていたんだよ」
 
そう。初めからノルウェーの労働党政権はサーミの言うことなんか聞く気はなかった。あの政権は無理矢理にでもダムを建てるつもりでいた。
 
事の始まりは雪と氷で刻まれた北欧の地域。そこにサーミという民族が暮らしている。
 
彼らは遊牧民として、古くから北極圏の厳しい環境に適応して暮らしてきた。サーミと共に旅するトナカイは、植生が乏しい時期には食料を分け与えられ、オオカミなどの天敵から守られている。代わりに、サーミの人々は時にトナカイを糧とし、その毛皮は家や服の材料として、寒さを和らげるのに役立てている。
 
長らく世界から存在すら知られていなかったサーミの人々は、独自の文化を築き上げ、何世代にも渡って伝統的な暮らしを続けてきた。しかし、近年に入ってその暮らしぶりは脅かされた。
 
1970年代後半。ノルウェーの労働党政権は、水力発電を積極的に行う政策を打ち出した。高低差が多く、水資源が豊富な北方のフィヨルド(峡谷)は、まさに水力発電に最適な場所であった。
 
早速政権は、北方でアルタダムというダム建設に取り掛かった。だが、そこで問題が現れた。ダムを建設していたその地域は、サーミ民族の住処であった。
 
もしアルタダムが完成したら、ダムの上流ではサーミの村が跡形もなく水没し、下流ではトナカイの水場としていた川がなくなる羽目になる。サーミは黙って見ているわけにはいかない。
 
建設が始まって間もなく、彼らはデモをし始めた。
 
アルタダムに工事用の機械が入れないよう、道路には石の山を作ってそこに留まった。そこの石には、政権に対する強い言葉や、自分たちの人権を主張した言葉を塗りつけた。
 
また、サーミや彼らを応援する人々の極一部は、ノルウェー国会の前に居座り、サーミの人権を認めるようにと、ハンガーストライキ(断食)を始めた。
 
これらの活動は早いうちからメディアに取り上げられ、この出来事は山火事のようにノルウェー国民に広まっていった。
 
政権はこのままではまずいと、国会前でデモをしている人たちを威嚇し、特にハンガーストライキをした人々を一時的に逮捕した。しかし、これは実態を悪化させるだけであった。
 
無力で必死に抵抗するサーミの姿や政権の理不尽な対応を見知った多くのノルウェー国民は、アルタダム建設に疑問を抱き、政権を非難してデモに加わる人も少なからず現れた。
 
そしてついに、ハンガーストライキが始まった5日後、政権はアルタダムの建設を中断し、加えてサーミ人権委員会を立ち上げて、ダム建設をする前にサーミの人権を見直すことを約束した。
 
やっとのことで意思が通ったサーミと、援助に来たノルウェー国民は解散し、それぞれの地へと帰ったのだ。
 
平和に解決した。みんなそう思った。でも政権は約束を守るような団体ではなかった。
 
サーミの人権を見直すこともなく、政権はすぐにアルタダム建設を再開したのだ。そして、今度はサーミや他の抵抗者に妨げられないよう、国の警官隊の約10%を工事現場に集中させた。
 
言うまでもなく、サーミはこれに気づいてまた反発した。彼らは石の山に代わって、今度はダムの周辺に雪の壁を作り、抵抗者の一部は自らを壁に拘束し、工事を困難にさせようとした。
 
それでも、警察隊はこの雪の壁に集まった抵抗者らをすぐに捕獲し、逮捕をした。
 
残されたサーミの人は最後の抵抗として、またもやハンガーストライキをした。この最後の反抗によって隣国の注目までを集めたことから、サーミの土地の強奪と人権侵害問題はついにノルウェー最高裁まで持ってこられた。
 
その結果、サーミの人権は認められないと判断され、アルタダムの建設は完了された。
 
最悪の結果だ。
 
今の時代から見て、サーミの人に対する行為は明らかな人権侵害であり、国際的にも大きな問題として扱われるに違いない。
 
でも、この話は悲しいままでは終わらない。
 
この一連の出来事は忘れられることはなく、連綿と語り継がれてきた。そして、後にはかの有名なディズニー映画、「アナと雪の女王2」として再び蘇った。
 
ネタバレにならない程度で話すと、「アナと雪の女王2」で紹介される民族ノーサンドラはサーミと同じように、トナカイを飼い慣らして暮らす北極圏の人々として描かれ、映画の中で現れるダムは実際にアルタダムを反映している。
 
ノーサンドラの住処の近くに建設されるダムは王権が建てたものである。はじめはノーサンドラを利するものだと伝えられるが、実は王権の勝手な思いで建設されたことが明らかになってくる。このダムは両者の争いの火種となり、最終的にはダムをどうするかがこの映画の行方を定める。
 
結果から言えば、主人公のエルサたちはそれぞれが正しいと思うことを胸に刻んで戦い、ディズニー映画あるあるだが、どちら側にとっても円満な対策がとられて平和に解決する。
 
意外にも現実世界のサーミ民族の物語もこのディズニー映画のようにいい結末で終わっている。
 
多くの時間を要したが、サーミが直面してきた問題は解消されてきている。ノルウェーのサーミ人権委員会をはじめとし、北欧ではサーミ民族の人権や先住権は研究され、認められるようになった。そのおかげで、サーミは他の国民と同じ権利を得て、彼らが代々暮らしてきた土地もサーミの所有地として認められた。
 
また、先程のディズニー映画のように、世界中のあらゆるメディアや団体を通じて、サーミの体験してきた苦労や伝統的な文化が知られるようになってきた。
 
長い間サーミは声を奪われていたが、彼らは諦めずに戦い続けてきた。そしてようやく世界は彼らに耳を傾けられるようになり、古より築かれてきた独自の文化や尊厳を守り抜くことができた。
 
このように、諦め図に自分の大切だと思うことを守り抜くサーミ姿勢は、まさしくディズニー映画で発信する強いメッセージに最適だと思う。
 
次の大ヒット映画にはどんな人々の体験や思いが反映されているのか、ちょっと調べてみるのも面白いかもしれませんよ。
 
 
 
 

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2021-03-19 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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