メディアグランプリ

あたたかな波長が届けてくれるもの


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:永久保宏代(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
辺り一面、夕陽で赤く染まっています。
雲の隙間から放射状に伸びた日の光は、その角度を少しずつ変えていき、
最後に金色の光を強烈に放って、スーッと姿を消していきました。
太陽が沈んでしまった空は、茜色から橙色、檸檬色、
やがて少しずつ青みを帯びて、群青色、ビロードのような濃い紫色へ変わっていく。
色彩の変化で時間の流れを感じるひと時です。
 
自宅で仕事するようになって以来、空を眺めること、特に夕陽を眺める機会が増えました。
 
住んでいる地域では、夕方に防災無線からドボルザークの「家路」が流れるのですが、
それを合図にパソコン画面から顔を上げて窓の外に目をやると、
晴れた日の終わりには必ずと言っていいほど、美しい夕焼け空が広がっています。
空や雲の色に心を揺さぶられてしまうので、仕事の手を一旦止めて、防災無線をBGMに暫し空を楽しむことにしています。
 
広い空を眺められることが入居の決め手となった今の部屋。坂の上に建つマンションは西向きに視界が開けています。
オフィス勤務で殆ど家に居なかったこれまでも、出勤準備をしながら空を見て天気を確認したり、休日に雲を眺めたりしていましたが、それはいつも一瞬でした。
昨年から家で仕事をするようになり、急遽購入した仕事机を窓際に設置して初めて、我が家からの空がこんなにも表情豊かなことを知りました。
 
今日も美しい夕焼けでした。
太陽が沈んでいった向こう側と、少しずつ夜が広がるこちら側。
昼から夜へ切り替わる時間の狭間。
 
夕暮れの風景を見ていて、何だかしんみりとノスタルジックになる、誰しもそんな経験があるのではないでしょうか。
幼少の頃、故郷の風景、懐かしい人を思い出したり、今までの自分を振り返ったり。
過去の自分から今の自分へと繋がるような感覚。
そうしたノスタルジックな反応は古今東西、人類共通だそうです。
おそらく、刻々と変化していく色や光が、それを見る人の心理に影響を与えているのでしょう。
 
人類共通の反応であることは、夕暮れをモチーフにした歌や曲が多いことからも分かります。
皆さんもすぐに思い出せる曲、口ずさめる歌が幾つかあるのではないでしょうか。
また音楽だけでなく、映画やドラマにも夕焼けや黄昏時を象徴的に扱っているものがあります。
別れや再会の場面として使われていたり、時空を超えたタイムポイントとして夕暮れ時を使っている作品もあります。
やはり夕焼け空や黄昏時は、人の思いをかき立て、琴線にふれるものなのでしょう。
 
空を眺めているうちに、時々母が夕焼け空を眺めて涙していたことを思い出しました。
母は私が14歳の時に他界しているので、今となっては涙の訳を知る由もありませんが、
もしも、今の私があの頃の母に会えたなら、母の心に寄り添って、話をじっくり聴いてあげられるのに……と、
かなり非現実的な事を思って、思わず空に向かって苦笑いしてしまいました。
 
大切な人と見た夕陽もありました。
自己卑下的、自嘲的な私の表現を優しく諭してくれました。そして私の色々な面を褒めてくれて、
こんな私でも価値があること、自分を大切にすることを教えてくれました。
色々な事情で会うことは叶わないだろうけれど、今でもその人の幸せを祈らずにはいられません。
 
夕焼けを見ているうちに、次から次に懐かしい人の顔が浮かんできます。
 
留学先で予期せぬ病を患った時は、友人達が支えてくれました。
歩けない私を背中におぶって地下鉄を乗り継ぎ通院をサポートしてくれた仲間たち。
もう少し治療が遅れていたら危険だった可能性があった、と医者に言われました。
それぞれの人生を歩んでいる彼らには、今でもとても感謝していす。
 
当然ですが、嫌な思いをさせられた人たちもいました。
でも、今振り返って思うのは、その方達は私を強くしてくれた存在だったということ。
人間がまだまだ未熟なので、だいぶ時が経ってようやく感謝の気持ちが湧いている私です。
 
出会った多くの人々から優しさや厳しさをいただいて、今日まで生きてこれました。
 
空のマジックアワー。
心の底に眠っていた記憶が、光や色に誘われて次から次に引き出されていく。まさにマジックアワーです。
 
引き出された記憶は、反省、気づき、希望、感謝と形を変え、
今ここにある現在の自分と繋がって、最終的に祈りへと変化していきました。
その祈りは時空を超えて相手に届くような気がします。
不思議なことに、それぞれ相手の幸せを祈ることで、私の心もあたたかな思いで満たされていきました。
 
同じ時、同じ時代を生きたこと、出会えたことはご縁だと思っています。
実際、そういう世界があるのか私には解りませんが、
前世からの、または来世に続くご縁も、もしかするとあるのかも知れません。
 
一つ明らかに言える事は、過去に存在していた先祖、育ててくれた人たち、
出会った人々のお陰で今の私はここに居ます。そうした事実は、
1日の終わりに沈んで、翌日必ず昇る太陽と同じくらいに、
当たり前と捉えることもできれば、有り難いと捉えることもできます。
 
今あるこの命をどう使うのか。私の命はどう生きたがっているのか。
そんなことを少しでも意識していけば、この命に報いることができるかも知れない。
夕焼け空を見ながら様々な記憶を思い出し、そっと祈りを捧げるうちに、明日への意欲が静かに湧き起こっていました。
 
夕暮れ。黄昏時。昼と夜の狭間。
もしかすると、その時間の長い波長の光は、心の底まであたたかく差し込んで、
人の想いを繋ぎ、大切なものをもたらす力があるのかもしれません。
 
 
 
 
****

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 



人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-03-20 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事