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反抗期真っ只中の息子と向き合う、反抗期を経験していない私の苦悩


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記事:垣尾成利(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「お母さんが死んじゃうかもしれない」
 
小学生の子どもが、これ以上に不安を感じることは他にはないと思う。
 
私は、神様にも仏様にも、誰だっていからお母さんを助けてください。何でもします。言うことも聞きます。良い子にします。お手伝いも犬の散歩も買い物も、僕が全部やるから、どうかお母さんを助けてくださいと、一人の時間があるとどこにいてもそう祈り続けた。
 
小学校3年生から4年生の頃だった。
 
母が病気を患い、長く寝たきりで安静にしていないと死んでしまうかもしれない状態となってしまった。
当時、父は仕事が忙しく帰るのが遅くなることが多かったので必然的に私が頑張るしか無かった。
 
学校が終わると一目散に帰ってきてはお母さんが生きているかを確認するために玄関先から大きな声で「ただいま!!」と叫んで居間で寝ている母のもとに向かうのが日課だった。
 
朝夕の犬の散歩、買い物、夕飯の準備、洗い物、風呂の準備、布団の上げ下ろしなど、母がやってくれていたことはほとんど私がやらなければならない。
 
辛くなんてなかった。
嫌だなんて一度たりとも思わなかった。
 
これでお母さんが死なないなら、なんだってやるさ。
 
でも、食事の準備は大変だった。
米を研ぎ炊飯器にセットし、味噌汁を作る。
おかずは毎日届く宅配の食材だ。月間メニューの注文票には毎日二種類の献立が掲載され、好きな方を選ぶことができたが、食べたいものではなく作りやすいものを母が選んでくれる。それを母の説明を聞きながら料理を作る。
 
美味しく作らないと一生懸命に説明してくれる母に申し訳が立たないと必死に作っていた。
父が早く帰ってきてくれた日は父も手伝ってくれた。
 
友達とも遊べない。
のんびりする時間もない。
時間があればお母さん死なないでと願っていた。
 
母はいつも謝ってばかりだった。
「ごめんね、お母さんのせいで友達と遊ぶ時間も減らして家のことをさせて」
「ごめんね、お母さんが元気だったら、あなたにこんなことしてもらわなくていいのに」
 
ごめんね、ごめんね、ごめんね
 
いつも母は自分を責めてばかりいた。
私が嫌な顔や不安な顔を見せたらお母さんがまた謝るから、絶対に弱い所は見せないと固く誓った。
 
お母さんは何も悪くないのになぜ謝るの?
僕は自分でやると決めて一生懸命やっているから心配しないで。
それなのに僕はお母さんを苦しめてしまっているの?
 
お母さんが謝る度に命が削られてしまうのではないか、ごめんねを聞くたびに怖かった。
 
生きていてくれたらそれでいい。本当にそれでよかった。
友達と遊べなくたって、テレビをゆっくり見ることができなくたって、文句なんてなかった。
 
そんな日々が半年は続いただろうか。
母は安静にした甲斐あって病状は回復し元気を取り戻した。
毎日死を感じながら過ごした日々は終わりを告げ、何も失ったものは無かったはずだった。
 
ところが、ずっと後になって、大事なことを失っていたことに気付いた。
 
私は反抗期を逃したのだった。
 
私は第二反抗期と言われる、小学生高学年から中学生の頃に訪れる思春期に反抗期特有の行動を経験していない。
この経験の欠落が、父親となり思春期の息子と向き合う中で大きなハンデとなってしまった。
 
母の病気は心労が原因だったと気付いていたので、余計な心配はかけられない。
小学生だった私にできることは、良い子でいることしかなかった。
母を悲しませたり不安にさせることは絶対にしてはいけないと、揺れる心に蓋をして鍵をかけ、そのまま大人になってしまった。
そのことに気付いたのは、30年以上も経ち、私の息子が反抗期と思われる行動や言動をするようになってからだった。
 
小学5年生頃から息子は私と距離を取るようになった。
週末は一緒に遊ぶ機会も多かったが、突然の拒絶を受けた。
夏休み、毎年当たり前のように土日で通っていた市民プールにもう行かないと言ってきたのだった。
それ以降、親の言うことにいちいち嫌だと言うようになった。
中学生になってからは感情を剝き出しにして反発するようになった。
 
どれも私が経験したことのないものばかり。
息子の態度や何を思っているのかが理解できない。
 
それはそうだ、私は経験していないのだから。
 
今、春から高校三年生になる息子とはほとんど会話もない。
先日食事に誘ったら着いてきたくらいだから何もかもを拒絶しているわけではなさそうだが、その態度にはいちいち腹が立つことが多い。
 
母に「俺もあんなだったか?」と尋ねたら、「あんたは反抗的な態度は全然しなかったわねぇ」と、やはり反抗期は無かったと言った。
 
私は自己肯定感が低いと感じているのだが、どうやらその理由はここにあったのではないかと考えるようになった。
 
自分の考えや行動を大切にしたいと主張するためには、それを抑えようとする相手と闘って自由を手にしなければならない。闘って勝利する経験が、自分は正しい、自分の考えは間違っていないと自己を肯定する礎となるのだろうか。
息子は自分を育てるために必死に闘っているのだろうか。
 
私には自分の経験と比較する物差しが無い。経験値がゼロなのだから、どうしようもない。
どうしようもないのだけれど、経験値を持っていないことを申し訳ないなぁ、と思ってしまう。
言わないけれど、心の中で息子に対してごめんね、と謝っている自分がいることに気付いた。
 
この感情は、あの頃の母と同じ気持ちなのかもしれない。
母が謝ってばかりいたのは、いつも自分を責める気持ちからだった。
 
でも、幼い私が望んでいたのは、「ごめんね」じゃなくて「ありがとう」の言葉だった。
 
自分を責めて謝られても、認められたとは思えなかったけれど、ありがとうと言ってもらえていたら、きっと嬉しかったと思う。
 
息子に対しても、態度が悪いと責めるのではなく、これも成長の証し、健全に大人になっているということだ、闘って勝利して自己を肯定する経験を積んでいるんだ、と喜ばなくてはいけないのだろうと思う。
 
息子の反抗的な態度は、腹を立てることじゃなく、とても喜ばしいことだと心からそう思えたら、私の感じ方もきっと変えられるのだろう。
 
反抗期の経験がない。今更どうしようもないけれど、これはなかなか辛いなぁと思う。
でも、息子が見せる態度のひとつひとつ全てに対して経験値を持っているなんてあり得ないことだから、感じ方を上手に切り替えながら彼が健全に成長していけるように、見守っていきたいと思う。
 
反抗期を経験していない私の苦悩はまだまだ続くだろう。
けれど、息子の成長を通じて、私も反抗期の疑似体験をして足りない経験値を補っていこう。
そんなふうに思いながら向き合っていれば、息子の心の声も聞こえてくるようになると思うのだ。
 
 
 
 
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2021-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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