ふたりになること
*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。
人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:こまる(ライティング・ゼミ 平日コース)
「私は、この指輪が良い」
こだわりの強い田舎者二人は、銀座のジュエリーショップで頭を抱えていた。
有名なジュエリーショップを選んだ割に、「他人と被るのはいやだ」という謎のこだわりだけを一致させていたが、指輪の好みはすこぶる合わなかった。
この時、もうすでに入店してから二時間が経過していた。
「私は、この指輪が良い。けどあなたには似合わないよ」
「じゃあふたりおそろいじゃなくて別のにする?」
「けどなあ……」
「似合わなくてもいいよ、こまるちゃんがこれが良いならこれにしよ」
「え~」
この堂々巡り。完全に担当のお姉さんを困らせていた。
このブランドの指輪にはお祝い事にぴったりなテーマがひとつひとつ定められていて、私たちはそこに惹かれてこのショップを選んだ。もちろん結婚指輪は二つ揃って一つのテーマ。だからこそ同じテーマの指輪を付けたかったのだ。
だが、好みも似合う指輪も全く違う。二人とも、もうどうしたらいいか分からなかった。
結婚を決めたものの何から始めたら良いかわからず、とりあえず結婚指輪を決めようと試みた矢先、さっそく壁にぶつかっていたのだ。
結婚している人みんなすごい。こんなの一つ一つ決めきれない、結婚式とか決めること多すぎでしょ、ほんと大尊敬!
私の頭の中はもはや指輪のことではなく、結婚という面倒なステップを踏んだ人たちへの尊敬の念でいっぱいだった。
すると、ずっと私たちの会話を聴き続けていたお姉さんが口を開いた。
「確かに新婦様にお似合いなのはこちらですし、新郎様にお似合いなのはそちらですが、もう一度考え直してみてください。二人で選ぶものなので、どちらかが好きな方ではなく、お二人にとって良いものを選ばれると良いかと思います」
「なるほど……」
口ではなるほどといったものの、私は納得していなかった。
どちらかが妥協しろ、ということか?
一生に一回(かもしれない)の結婚指輪を妥協するなんて私はいやだし、妥協してもらうのも癪に障った。そして、とても不安だった。希望に満ち溢れているはずの結婚準備の出だしがこんな状態で良いのか。しかも妥協しなきゃいけないなんて。結婚するって、“ふたり”になるって、諦めることなのか?
二人はなんだかもやもやしたまま、ショップをあとにした。
疲れて電車に乗る気にならなかったので、喫茶店に入り、このブランドはナシかなあ~と貰ったカタログを無造作にぺらぺらめくりながらコーヒーを啜った。
ふと目をやると、カタログに開いていなかったページがいくつかあるのを発見した。これまでに試した指輪は自然の情景をテーマにしたものが多かったが、動物の名前の指輪がいくつかあることに気がついた。
「動物の名前のがある。結婚指輪らしくないね~」
「どれどれ~?」
「鯨だって! なんで鯨が結婚指輪なんだろ」
「形が波みたいだね~」
「ね、かわいいね。そういやさ、再会した日、海行ったよね」
二人には海にまつわるエピソードがたくさんあった。思い出話に花が咲き、また今度決めようとその日はまっすぐ家に帰ったが、私は心のどこかでずっと「鯨」のことを考えていた。
そして、私たちが最終的に選んだのは、その「鯨」だった。
ぱっと見は普段使いのファッションリングの様な、派手な指輪。それぞれに一番似合う指輪ではなかったが、つけてみるとその派手な見た目も何故か馴染んで見えた。鯨は家族をとても大事にする生き物だそう。自分たちの思い出の海。そこに泳ぐ二匹の鯨になろうと小さく誓った。
散々私たちに付き合ってくれたお姉さんは、「きっとこうやって悩んで笑って、カタログでたまたま見つけた指輪を選んだという思い出で、何十年後も笑えますよ」と言ってくれた。
恋人は、「僕ららしいね」と笑った。
わたしははっとした。
その時やっと、“ふたり”で選ぶってこういうことなのかと知った。
それまで、たくさんおそろいのものを持ってきたけど、正真正銘ふたりで選んだのはこれが初めてだった。こうやってひとつひとつ、積み重ねていけば良いんだ。
結婚すると、一人では選べたものが選べなくなる。
不自由に感じるかもしれない。結婚は人生の墓場だと言う人もいるくらいだし。自分の好きなこと、自分のやりたいことだけできるわけじゃない。
でもそれって当たり前だったりする。だって“ふたり”になったんだから。
他人と他人が一緒になるのだから、意見の相違もすれ違いもあるにきまってる。
そのかわり、ふたりでしか選べないものに出会えるようになる。
誰かと寄り添うことを決めたとき、本当の意味でふたりとして歩むために、なにかひとつふたりで選んでみると良い。私たちも、次はふたりで式場を決めていこうと思う。
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