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善光寺にひかれて宿坊体験


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記事:珠弥(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
“牛にひかれて善光寺参り”
恥ずかしながらその言葉の由来を知ったのは、宿坊体験の最中だった。
 
“善光寺のお戒壇巡りは、人生で一度は行った方がいい”
 
なんでも、善光寺で体験できる戒壇巡りがすごいらしい。
本堂で祀られた御本尊の真下に、錠前がある。暗闇の道を進んで、仏様の分身とも呼ばれる錠前を触れることができたら、極楽浄土の約束をすることができるとか。
職場の人や友人から同じ内容で勧められたことと、もともと寺社巡りが好きであったこともあり、とても興味深く思わされたのがきっかけだった。
 
2019年某月。
長野に立ち寄る機会があった私は、善光寺でお参りをすることにした。
 
右手は壁に添えたまま、ひたすら進むだけ。頭で理解していても、実際に光の無い道を進むことは、とても勇気がいることだった。偶然ではあるが、前後に参拝客はいないタイミングだった。お化け屋敷は好きな私でも、この静寂と暗闇は初めての体験だった。
角を一つ曲がって早々、階段から注がれていた地上の光は遮断される。早々に私の足は進まなくなってしまう。
 
「やっぱり無理でした!」
 
そう言って、引き返してしまおうか本気で悩んだ。
 
それでも、拝観料五百円を払った手前、引き返すことも悔しい。私は勇気の出し方を唸りながら考えた結果、変な話かもしれないが、目を瞑って歩いて行くことにした。
瞼を閉じていても、開けていても状況は変わらない。それでも、この方法はかなり有効的だった。
無事に錠らしきものを手で触れることができた私は、何だか誇らしい気持ちと達成感を得た。ご機嫌なまま、その日は善光寺を後にした。
 
それから一年後、ふと宿坊をしてみたいと思い立った時があった。寺社巡りは好きとは言いつつも、特定の宗派や建造物や仏像や作者にこだわる程の、熱量や信心深さはない。ただ、ペットロスを拗らせていたので、少しだけ自分を見つめ、何かしら活路を見出したいと感じていた時期ではあった。
 
お遍路さんや断食道場のようなガッツリとしたものではなく、できれば宗派のカラーも特段強く無いもの……
そんな風に考えている時点で、目的はズレちゃいないか、自問自答をすることもあった。しっくりこないまま情報収集を続けていると、不思議なことに善光寺が候補に上がってきた。
心境的にも、移動距離としても納得ができたところで、私は宿坊に申し込んだ。
 
早朝五時に向かえた善光寺周辺の空気はひんやりとしていて、薄暗くて、とても美味しい空気を纏っていた。前夜に常智院で宿坊した自身の身体は、至れり尽くせりな精進料理とカイロで心身ともに温まっていた。それでも、氷点下間近に迫る気温は、身を引き締めさせる勢いがあった。
 
「彼処の善光寺の文字の中には動物が隠れているのですよ」
 
別のお寺に宿坊していた方々と挨拶を交わしながら、善光寺に向かっている時だった。
門の前で振り返って、目下の参道まで景色を眺める。朝日を堪能してから門を通り過ぎた時に、案内人のKさんが、金色に縁取られた”善光寺”の文字を指差し、教えてくれた。文字の中に鳩に見立てた濁点と牛に見立てた文字が隠れていると言う。
“善”の文字上部から両方を見つけられて歓声を上げていると、Kさんはぐるりと境内を見渡してから、私にゆったりと解説を続けてくれた。
 
「ことわざの通り、昔から善光寺は女性や動物まで、分け隔てなく受け入れています。宗派や性別、種別に捉われることなく、皆が極楽往来できると考えているんです。朝のお経ですが、二人の住職様が詠みます。うち一人は、女性のお坊さんなのですよ」
 
私達の横を雑種の犬と黒髪のお姉さんが通り過ぎていく。お姉さんの一つ結びにされた黒髪がなびく様子と、雑種の犬のしっぽがなびく様子が、とても仲睦ましく目に入る。
もしかしたら、じっとり見てしまっていたのかもしれない。Kさんが声を立てて、明るく朗らかに笑った。
 
「ですから、今通り過ぎたワンちゃんも、極楽浄土できます」
 
少し茶目っ気混じりであるが、Kさんの言葉に私は大きく頷いた。
宿坊に申し込んだ理由も、愛犬の話も、私は一切していなかった。けれど、偶然にも開設と共に時代や考え方の背景を聞くことができたのは、とても嬉しかった。なんだか善光寺という空間に、私自身の気持ちを含めて受け入れて貰えたように感じた。以前の戒壇巡りだけでは、恐らく得られなかった体験だ。私は少し声が震えてしまい、口数こそ減ってしまったが、本心をKさんに伝えた。
 
「そうでしたか。宿坊先に善光寺を選んでよかったです」
 
Kさんの予告通り、男女のお坊さんがお経を唱える姿はとても見応えがあった。三十人以上で唱える様子はまるで音楽のようにも感じられた。私は特段あの世を信じたり、極楽浄土を祈願したりしているわけではない。さらに申し訳ないことに、お経の意味も深くは知らない。けれど、毎朝善光寺で唱えられるお経は、地球上の生命が同じ場所に向かえるよう、地球上の生命に向けられた温かい言葉なのかと思うと、懐の深さに感謝に似た気持ちを抱いた。
 
参拝の締めくくりに、再び戒壇巡りを体験した。
ご時世もあり、距離を保つために小さな明かりが配置されていた。この様子は、現代の今しか見られないものなのかもしれないと思うと、新鮮みを感じる。床にそっと置かれた明かりたちは、何だかお祈りの灯火のようにも見えた。初回の恐怖心とは違い、とても穏やかな気持ちで足を進めることができたのも、貴重な体験だった。
 
もし誰かにお勧めの寺社仏閣を尋ねられたら、私も善光寺を挙げようと思う。
お戒壇巡り、そして宿坊の体験は一度してみてはいかがだろうか。
 
 
 
 
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2021-03-21 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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