涙のヒロインズ
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記事:服部花保里(ライティング・ゼミ日曜コース)
「ゴールの時の涙の理由をお聞かせください」
レース後のインタビューの場で、アナウンサーが本大会での優勝者である女性選手に質問した一幕でのことだ。マイクを向けられた彼女は、一瞬考えを巡らせて、こぼれそうな涙をこらえながら笑顔でこう応えた。
「……悔し涙です」
先日開催された名古屋ウィメンズマラソン2021は、オンラインと並行して、オフラインでも一般参加者を募って小規模開催された。そこには賛否両論あったものの、この夏の東京でのオリンピック開催も見据えた、コロナ禍における大規模スポーツイベントのあり方に一石を投じる形になった。
エリート選手はもちろん、一般参加者もそれぞれの背景を持ちながらの参加ではあった今回の大会。優勝したこの選手も、複雑な事情を抱えての出陣であった。オリンピックに出場するためのマラソン選手選考は、毎回物議を醸し続けてきた。というのも、42.195キロを走る長距離レースは気象条件やコースによってタイムだけでは、その選手の強さが計りづらい競技だといわれているからだ。そのため、オリンピックに出るための条件がとても複雑で、複数レースにまたがっての選考は必ず誰かが納得のいかない涙を流してきた。
このような状況を打破しようとしたのが、いわゆるマラソングランドチャンピオンシップという新たな1本勝負の選考レースだ。これは、ヨーイドンで走って早い人から順にオリンピック出場選手に選出するという新ルールのはずだった。しかし、あくまで2位までは確定だが、3位は内定、これ以降にほぼ日本新記録を塗り変えるようなタイムが主要大会で出た場合には、その選手が最後の3人目に選ばれるという内容だった。
これでまた選手たちにはチャンスとも悲劇ともいうべき余白が生まれることになった。笑うものがいれば、泣くものが生まれるのが、ルールというもの。優勝した彼女もこのルールに泣き、オリンピック内定の座を一度は手繰り寄せながらも、直前で補欠になってしまった選手だった。
なので、彼女にとっては、この大会は今回の東京オリンピックに通じる大会ではなく、あくまで自分の記録との戦いだった。あくまで狙いはタイムだったわけで、優勝は最低限の目標だった。それで、冒頭の涙である。優勝はそつなく飾ったものの、自己ベストには数十秒届かない記録だったがゆえの、ゴール直後の大泣きであった。
別の解説者はそれを見て、「めったにこういった姿を見せないタイプなので、よっぽどの思いがこみ上げてきたのでしょうね」と述べていた。
涙には、様々な感情が現れる。嬉しくて流れる涙もあれば、悲しみの涙、怒りの涙、そして今回のような悔し涙。いずれの涙も、それは見る人に大きな印象を残し、こちらも大きく感情を揺さぶられるような気持ちになる。まるで普段はコントロール下にある気持ちの波が制御されぬまま、打ち寄せてくるように。それが、スポーツの分野においては、特に大きな感動を呼ぶこともある。
なぜか、「人前で泣いてはいけない」、「すぐ泣くなんて幼いね」、「涙は女の武器だ」などと、未成熟の証のように言われる涙ではあるけれど、涙を流せるほど一心に心を注げることが、成長するにつれて失われていくだけなのかもしれない。そして、そんな体験を擬似的にでも取り戻したくて、「泣ける〇〇」なるものが商品として成立するのかもしれない。
そう思うと、スポーツと平和の祭典との謳い文句のオリンピックですら、巨大エンターテイメントのような仕立てである。始まる前から、あの輝かしい場に立った選手よりもはるかに多くの悔し涙があるわけで、始まったら始まったで、毎日人生をかけた大勝負が繰り広げられる。もちろん選手とそれを応援する人たちでは立場は違えど、その一戦がもつ意味なのか、背景なのかに共感することで、大きく心が動くのだろう。その共感の度合いが増せばそれだけ、感情も共鳴しそうである。
今回は、世界中が同じように何かしらの変化に伴う痛みを感じるオリンピックになりそうだ。1年延期になった上に、最終の開催判断は4~5月になるとのこと。今なお、不安な気持ちでその判断を待つ選手も多い中で、多くはやはり開催を望むのだろう。そして、もしも無事に開催されたならば、多くの選手と同様にほっとするような気持ちになるように思う。それはおそらく、この状況に対して、明るい未来の兆しを感じることになるだろうから。
いずれにしても、今年の夏は世界中で多くの涙が流れることになりそうだ。
その涙が願わくば、嬉し涙でありますように。
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