ママはゴーストライター
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:石川まみ(ライティングゼミ日曜コース)
どうにもうまくいかない思春期の娘と父。私にもそんな時期があった。
小学4年生の時のこと。「パパは汚い」「ウザイ」が口癖。思春期の初期に差し掛かり始めていた私は、その時期の女子にありがちな反抗的な態度で父に接したり、なるべく避けたりしていた。
そんなある日、父と大喧嘩をした。
これがその後、思わね展開を招いていくこととなった。
喧嘩の始まりはほんの些細なことだったが、次々と私が日頃の不満をぶつけて大喧嘩になった。
「パパなんて大嫌い! そんなことだから、いつまでたっても、うだつが上がらないんだよ!」
口だけは達者な私に、途中から父は黙ってしまっていたが、私のこの言葉が父の地雷を踏んでしまった。
「なにが、うだつが上がらないだ‼ 意味が分かって言ってるのか! 生意気なことを言うな!」
父は私の頬をバシッと平手打ちした。頬を叩かれたのは初めてだったので私はびっくりしてわんわん泣いたのを覚えている。
その日から私は、父=敵とみなして無視をし続けた。
その数日後、作文の宿題が出た。テーマは「お父さん」
これは神様の意地悪だ! そう思った。
「パパのことなんて書きたくない。宿題は出さない」私はふてくされて宿題を放り投げてしまった。
期限の前日になっても作文に手を付けない私に業を煮やした母は、なんと私の代わりに作文を下書きした。
「もう時間が無いから、これを清書して出しなさい」
しかも作文の題名が「すてきなお父さん」
「えーっ! 嫌だよ、そんなことできない。しかもこの題名、なに? よくこんなこと書けるね」私はびっくりしてそう言った。
「そんなことを言うなら、さっさと自分で書きなさい!」
結局、時間も無くなってしまい自分では書けなくて母の書いた作文を提出した。
今思えば、ひどい娘だ。我ながら情けない。
そして、なんと、その作文がクラスの中から選ばれて学校の文集に載ってしまった。どうにも後ろめたい。
私はその文集が絶対に父の目にふれないように箱に入れて机の奥の方にしまった。
ある日、今度は父と母の喧嘩が勃発した。
私はその喧嘩を仲裁しようと口を挟んだら、今度は母の怒りの矛先が私に向いてしまった。
「余計なことを言わないで! あんたのせいで家の中の空気が悪くなってるのよ、分かってるの!」
私と父とのピリピリする関係をとりなすように気を使って過ごしていた母のうっぷんが爆発したのだと思う。
母は「暫く○○さんのところでお世話になる」と言って、まだ幼かった妹二人を連れて親友の家にプチ家出をしてしまった。
その週は学校で三者面談が予定されていたが、その案内のプリントを父に押し付けて出て行った。
父は子供のことは母に任せっきりだったから学校になど来たことは無かった。
私は先生に「母の都合が悪くなり三者面談は来れなくなりました」と言った。
「お父さんは来れないのかしら?」
「たぶん来ないと思う」
スマホも携帯も無い時代だ。私の様子を気にした先生からその日の夜に自宅電話が有って、父が対応した。そして父が渋々、三者面談に来ることになった。
私の通っていた小学校では文集に載った作品の中から短い作文や詩が週替わりで一つ選ばれて、校庭に面した外壁に備え付けの大きな黒板に書き出される。
間が悪いことに三者面談の有る週に、私の(母の?)作文が書き出されてしまった。黒板は手洗い場のすぐ上の、目立つところに有ったから沢山の児童、先生、訪問した父兄の目に触れる。
「すてきなお父さん」なんていう作文を私が書いたとは絶対父に思われたくない。だからと言って、母に書いてもらったとは口が裂けても言えない。
「どうかパパの目に触れませんように」私は祈った。
三者面談が終わりに近づいた時、先生が耳を疑うようなことを言った。
「お父さんを書いた素敵な作文が、校庭の黒板に書き出されていますので帰りに見て行ってくださいね」
父は、とうとう作文を見てしまった。
作文は美しい字で縦書きに書かれていた。
<作文の原文>
『すてきなお父さん』
四年一組 ○○ ○○
「お父さんは、一見のんきそうに見えて
神経の細かい人です。それは妹たちの
ぐあいの悪いのをみつけるのは、
いつもお父さんだからです。
目上の人や年よりには言葉づかいから
たい度までふだんとは、ちがいます。
水泳がじょうずで、平泳ぎをすると、
とってもすてきです。
岩場で魚をとっているお父さんは、
子どものようにはしゃぎます。わたしは、
そういうお父さんが大好きです。
このごろ、お父さんは、頭の上が
うすくなってきたので、ようもうざいを
じゃぶじゃぶつけます。
とてもにおいがつよいので、お母さんは
それをきらいます。
わたしは、お父さんに長生きして
もらいたいと思います。」
父は何も言わず、じっと黒板の前に立ち、作文を読んでいた。
私にはそれがとても長い時間に感じられた。
無言で父と並んで歩く帰り道。
父がぽつりと言った。
「ママを迎えに行こうか」
「うん」私はいつになく素直にそう言った。
父は作文については、その後もずっと何一つ言わなかった。
母が、私のゴーストライターになったのは、これが最初で最後。
作文が書かれた黒板の写真は、今でも戒めのように私のアルバムに貼ってある。
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