メディアグランプリ

カカオ75%チョコの時代


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 
 
澤村 貴子(ライティングゼミ 日曜コース)
 
あの頃を思い出すと、カカオ濃度の高い、とても苦いチョコレートを食べた時のような気分になる。苦いけどおいしい。いや、本当においしいのかな? 本当においしいと思っているの?
 
私は京都で生まれ育ち、学び、働いた。
京都に固執してきたわけでもなかったが、成り行きで、37歳まで京都から一切出ない人生だった。
 
22歳からスタートした社会人生活の最初の15年、地域密着、京都の百貨店で働いていた。同僚や先輩たちとは、離れて随分経つが、今でも仲良くさせてもらっている。たまに行くと懐かしくて楽しくて仕方ない。本音で話せて、何時間話しても面白い、大好きな人たちだ。そんな先輩たちに、「早く京都戻っておいてよ〜」と言われると、確かにちょっと戻りたくなる。あの懐かしい日々もよかったなと思う。
 
だが、3秒後には、いや、やっぱり嫌だなと思う。
苦手なのだ。京都が。
正確に言うと、京都で働いていたあの頃が。思い出すとなんとも言えない苦い気持ちが蘇る。
 
私は、入社してから、希望ではない職種を7年ほどしていた。
ちょうど、入社した頃に始まった、営業改革の実験台として第一線に放り込まれた。外部コンサルティング主導の研修や、取引先への出向など、自ら望んだものは一つもなかったが、様々なものに巻き込まれていった。
 
失われた10年と言われる、あの頃だ。
バブル崩壊後、また戻ると思っていた景気が一向に戻らず、どうやら景気の波の一つで今沈んでいるわけでもないと気付き始めた頃。
日本経済が、アジアの他の国にどんどん抜かされていくのだとみんなが気づき始めた頃。
社会の授業で、日本の技術は、世界一だと習ってきたのに、そうでもないらしいと感じ始めた頃。
そして、安泰だと思っていた百貨店が、他の小売業態に抜かされ始めていった頃。
 
会社も必死で、みんなもがいていたような気がする。今のコロナも大変だが、あの頃はまた別の意味で、また大変だった。
大企業でも倒産し、吸収合併がいくつも起こっていた。私の会社も存続の危機だったのだと思う。
 
だが、私の一度しかない20代、あの過ごし方でよかったのだろうかと今でも思う。
転職すればよかったのか、社内で異動願いを訴えればよかったのか、色々道はあったと思うが、私はそのどれもしなかった。と言うか出来なかった。ただ、流されていた。必死に流されていた。流されるのですら、全く楽ではなかった。そういったことを考える余裕も、視野の広さもなかったのだ。私には今の仕事が一番向いている道なのだと思っていた。というより、思い込ませていた。
 
このままずっとここで過ごしていくのだろうなと信じて疑っていたなかった37歳の時、大阪に転勤になった。
人事異動の理由は、色々あるだろうが、いい歳になってうだつの上がらない私は放出されたのだと思う。役職はスライドであったが、左遷的な意味合いで見ている人がいることもわかっていた。しかし、辞令を受けた時、何か、ホッとしたような気持ちになったことも覚えている。これでもう頑張らなくて済む、と。
 
勤務地が変わると、人間関係が一新された。
心の広い上司と優しい同僚に囲まれた。うまく言えないが、変なプレッシャーを感じずに働けるようになった。なぜだろう、とても生きやすくなったと感じている自分がいた。息がしやすくなった。
そうすると、なぜか、仕事も自分の意志で考えるようになった。心の余裕ができたからか、今までは、考えたこともなかった自己啓発を受講、スキルアップしたいと外の世界にも働きかけるようになった。遅ればせながら自ら、学ぶようになった。
 
その後、40歳の時、東京に転勤になり、それからの仕事はとても楽しかった。18年目にして、そうだ、この会社に入ってやりたかった仕事はこういうことだったなと思った。やっと気づいた。長くかかった。
 
京都で働いていた15年間、私は、ずっと閉じ込められているような息苦しさを感じていた。だが、その世界しか知らないので、働くと言うのは、そう言うものだと思っていた。こんな大変な時代に、正社員で働けるだけ恵まれていると思っていた。
 
責任感を持ち、私なりに頑張って働いているつもりだったが、ずっと昇格にも縁がなかった。能力が足りなかったことが一番の理由だと思うが、義務感、責任感だけで働いている私に、そんな考え方でいいのか、今のままでいいのかと言ってくれる上司にも出会わなかった。
 
その後、昇格したのは、大阪勤務時代の上司達のおかげだった。
転勤の時、お礼を言うと、違うよ、たまたまそのタイミングだったのだよ、と言ってくれたが、間違いなくきっかけを作ってくれた人たちだ。ずっと、京都で働き続けていたら、私は職種も変わらず、昇格すらしていなかったような気がする。そして、仕事でもプライベートでも認められないことだらけの自分の人生に、やる気をなくしていたような気がする。
 
京都で働いていたあの頃が、今の私のベースになったのは間違いない。あの時の上司も先輩も同僚も、大好きだし、感謝している。辛いこともあったけれど楽しかったこともたくさんあった。恋愛も今から思えばたくさんした。20代から30代、とても濃厚な時を過ごした。
 
美味しいような、美味しくないような、苦いチョコ、私は好きだ。身体にもいいらしい。でも、今はまだいらない。
 
あなたにも、思い出すと、そんな気持ちになる時代、ありませんか?
 
 
 
 
****

この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 



人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984


2021-03-26 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事