メディアグランプリ

少女漫画が売れない今こそ本当におもしろい少女漫画を伝えたい。


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせ

記事:芽野あゆみ(ライティング・ゼミ平日コース)

 
 

なかよし、りぼん、ちゃお、マーガレット…。

“元”少女の私達の青春時代を彩った少女漫画。

そんな少女漫画の売行きが、減少しているらしい。

電子版の発行部数は反映されていないものの、約10年間で各誌の発行部数が半分以下に落ち込んだというデータもある。

その理由としてよく挙げられているのは、少女漫画には恋愛要素しかないというものだ。

実際、近年は恋愛ドラマの視聴率も下がっていると聞いた。

ここ十数年、日本ではリーマンショックによる経済打撃に始まり、3.11、毎年のように起こる地震、洪水などの自然災害、世界規模の感染症など、様々な出来事が起こっている。

そんな時代に『壁ドン』とか言われても、「そういうのいいっす」と思ってしまうのがリアルな心情だろう。

今や少女漫画の展開は、現実味が全くないファンタジーでしかないのかもしれない。

だけど、本当にそうだろうか?

少女漫画って、本当にただ惚れた腫れたを伝えるだけだったろうか?

少女漫画の中にも、今の私達に大切な何かを伝えてくれる作品があるのではないか?

そう考えた時、私の心に1つの作品が思い浮かんだ。

その作品の名は、『こどものおもちゃ』だ。

1994~1998年まで集英社『りぼん』で連載され、1996年にはアニメ化もされた人気作だ。

『こどちゃ』の相性で親しまれ、1998年には講談社漫画賞少女部門という賞も受賞したらしい。

まだ小学1年生で、後にりぼんっ子になる私が初めて買ったりぼんにも、こどちゃが掲載されていた。

だけど、当時の私がこどちゃをきちんと読むことはなかった。

その理由は、今考えるとこどちゃの扱うテーマにあったのだと思う。

こどちゃの主人公は、小学6年生の『倉田紗南』。

劇団こまわりという劇団に所属している有名子役で、女の子が憧れそうな『芸能人』だ。

しかも母親は超有名小説家。

いかにもお金落ちが住みそうな豪邸で、何不自由のない生活をしている。

これだけ聞くと、「なんだ、よくあるハイスぺ女子のキラキラストーリーか」と思うかもしれない。

だけど、それは違う。

これはあくまで紗南の『表の顔』でしかないのだ。

ここからは少しネタバレになってしまうので、嫌な人は飛ばして欲しい。

実は紗南は、生まれたばかりの赤ん坊の時、道端に捨てられた『捨て子』だったのだ。

そこをたまたま通りかかった母・実紗子が紗南を“拾い”、自らが母親となった。

紗南を芸能人にしたのは、いずれ有名になった時に本人の生い立ちを世間に知らせて、本当の母親を見つけるためだったのである。

つまり紗南は、『育児放棄』されたのだ。

だけど紗南は実紗子のたゆまぬ愛情を受け、とても真っ直ぐに育つ。

そんな紗南が6年生に出会うのが、この物語のヒーローであるクラスメイト『羽山秋人』。

クラスの“ボス猿”として君臨していた羽山は、教師イビリにイジメに万引きに、やりたい放題だった。

当初は羽山の横暴にうんざりしていた紗南だったが、ある時紗南は羽山の家庭が崩壊状態にあることを知る。

しかもその原因は、羽山を生んだことがきっかけで母親が亡くなったことだった。

母親に捨てられたけど、育ての母親に『愛』を教わった自分。

一方で、母親がおらず、家庭の誰からも『愛』を感じずに育った羽山。

紗南は、荒れる羽山を無理やり丸め込み、おままごとで母親役になって羽山にこう言った。

「あーちゃん、ママはね、あーちゃんを愛しているから、頑張って生んだのよ」

愛しているから。

羽山に初めて愛していると言ってくれたのは、紗南だったのだ。

その後の展開は本書を読んでのお楽しみだが、全体を通して私が感じるこの漫画のテーマは『愛』だ。

羽山と紗南の間だけではない。

紗南と母・実紗子。

羽山と父親や、羽山と姉。

そして羽山と亡き母。

恋愛だけではなく、家族愛や友情といった様々な形の愛を、育児放棄や家庭崩壊、いじめ、暴力、教師からの差別など様々な社会問題を通して生々しく伝えているのが、この作品だ。

本来の少女漫画なら恋愛しか語られないのに、こどちゃのテーマは重く、複雑だ。

だからこそ、小学1年生の私には理解できなかった部分が多かった。

だけど、年齢を経てから読んでみると、どんどん違う面が見えてくるようになった。

小学6年生で読んだ時は、クラスのいじめに立ち向かい、羽山を救い出す紗南がかっこよく見えた。

中学生の時に読んでみると、紗南を捨てた実母に対する怒りが湧いた。

高校生の時に読んでみると、羽山にうまく愛を伝えられなかった父の態度にもどかしさを感じた。

大学生になってから読んでみると、紗南をここまで真っすぐ育て上げた実紗子の懐の深さに感心した。

そして今読んでみると、自分の犯したいじめや暴力といった罪に向き合い苦しむ羽山と、それを丸ごと一緒に苦しんで生きていこうとする紗南との間の『愛』に、また立ち返るのだ。

愛とは何か、多くの人が一度は自問するだろう。

私が尊敬するある人は、「愛のある人は、待てる人だ」と言った。

待てるということは、不完全なことを許せることなのだと思う。

いつか相手が変われると信じられるし、そのために自分自身も何かしてあげられる人なのだろう。

そんな『愛』ある人間が、主人公・倉田紗南なのだ。

決して、何もかもを持って生まれた人間ではない。

だからこそ、与えられることのありがたさと、与えることの尊さを知っている。

少女漫画は、惚れた腫れただけではない。

「愛って何だろう」

そんな物思いにふけってしまう夜は、小花美穂先生の『こどものおもちゃ』を読んでみてはいかがだろうか。

 
 
 
 

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2021-03-28 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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