ビーフカレー事件を解決してくれたのは渋沢栄一でした
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:黒木里美(ライティング・ゼミ日曜コース)
「今日はビーフカレーが食べたい」
先日、職場の同僚と二人でビーフカレーを食べようと近くの喫茶店に行きました。
ところが、ビーフカレーは1つしか用意ができないと、中年の男性店員から言われてしまいます。
仕方がないので、私は、ビーフカレーは同僚に譲り、自分はポークカレーを注文しました。
店員が注文を書き留めたところで、同僚が
「なぜ、ビーフカレーは、1つか用意できないのですか?」と尋ねます。
いや、ルーがないからに決まっているでしょ。
ポークカレーが頼めるならライスはあるんだろうし。
そんな当然のことをわざわざ確認する必要があるのかと、驚きと共にため息をつきたくなりました。
しかし、店員から意外な答えが返ってきたのです。
「付け合わせの温野菜が1皿分しかなくて」
私たちは、一瞬顔を見合わせ、写真付きのメニュー表に同時に目をやりました。
確かに、ポークカレーにはない温野菜がビーフカレーにはのっています。
黒いルーを彩る野菜の付け合わせ、これまでも何度かビーフカレーを食べていましたが、正直気に留めたことはありませんでした。
なるほど、規定通りに出さないとクレームが来ると思っての判断だったのかな。
店員さんに迷惑をかけるのも何だし、注文はポークカレーのままでと、私は考えていました。
ところが同僚はさらに、
「その付け合わせは、半分ずつにできますか?」
と尋ねたのです。
すると、店員さんは
「できますが、それでよろしいですか?お1人分が少なくなってしまいますが」
と、動揺しているのが伝わってきます。こちらをクレーマーだと思っているに違いありません。
しかし、同僚は落ちついて様子で、優しく話かけます。
「僕たちは、ビーフカレーが食べたいので、なんらな付け合わせはなくても大丈夫ですよ」
ようやく、同僚の意図が店員さんにも、そして私にも伝わりました。
店員さんは、ほっとした表情で厨房に下がり、しばらくするとビーフカレーが2つ運ばれてきました。
彩の温野菜は少な目でしたが、その代わりにゆでたブロッコリーが多めにのっていました。
職場への帰路、私は同僚に尋ねてみました。
「なぜ、ビーフカレーが1つしか用意できない理由を聞いたんですか?」
同僚は、
「今日は二人でビーフカレーが食べたくて、あの店に行ったのに、諦めきれなかったからだよ。」
さらにこう続けます。
「もし、僕が店員で、付け合わせがなかったら、ルーを多めにするので、いかがですかって聞くと思う。」
なるほど、確かに私たちはビーフカレーが食べたくてお店に行ったのだから、もしもルーを少し多めにしてくれるといったら願ってもないことだ。
しかし、なぜそのような発想が生まれるのでしょう。
普段から周囲の機微を読むのがすこぶる上手な同僚は、穏やかな性格で、スマートに問題を解決していく達人です。
社内のだれもが、彼を尊敬し頼りにしています。
なんだか失礼な気もしましたが、普段から気になっていたので、思い切って聞いてみました。
すると、意外な答えが返ってきました。
「んー、渋沢栄一ならどうするかなって考えたかな」
「近代日本資本主義の父」「実業の父」とも呼ばれる渋沢栄一。今年のNHK大河ドラマ「青天を衝け」の主人公で、さらに2024年には新札の肖像となる人物。
たくさんの会社の創立や経営に携わったすごい人、それが、私が知っている渋沢栄一でした。
ただ、同僚の言わんとすることがピンと来ず、それでいて自分の無知が恥ずかしく、それ以上のことを聞くことはできませんでした。
その後、渋沢栄一について調べ、大河ドラマも見るようになりました。
渋沢栄一は「事業の私益と公益は高い次元で両立する」という信念常持ち、常に大局を見失わずに国家や社会のことを考えていた、そして、私心に走ることを厳しく戒めるという姿勢持っていたと、伝えられているようです。
これは、物事の本質を見抜く力のことではないか。
そして、同僚が普段から見せてくれていた力も、ビーフカレー事件を解決した力もまさにこれだったのではと気づきました。
さて、渋沢栄一や、同僚の持つ「本質を見抜く力」を発揮するにはどうすればいいでしょう?
数週間考えた末、
「なぜ、ビーフカレーが1つか用意できないのですか?」
この質問ができるか、できないかに大きなカギがあると気づきました。
実際、同じシチュエーションで、この質問をできる人は、なかなかいないのではないかと思います。
少なくも私はできませんでした。
それは、当然のことを聞くなんて「恥をかきたくない」という気持ちがあったからだと思います。
そして、皆さんも、恥をかきたくないという思いから、質問ができなかった経験があるのではないでしょうか。
今回、私も不安や恥の気持ちが、心も体も鈍らせ、視野や思考を狭めしまったのではないかと思います。
では、どうすれば自分の負の気持ちにとらわれず、本質を見抜く力を発揮することができるようになるのでしょうか。
渋沢栄一のことを調べるうちに、同僚との共通点を見つけることができました。
それは、思いやりの気持ちと、他者を信頼する心を持つことでした。
渋沢栄一は、著書で、家中や社内の人にも思いやりをもって接し、その能力を発揮できるようにすることがよりよい社会や国家を作ることにつながるのだと、繰り返し述べているそうです。
そして、同僚も社内の人々に優しく、仕事の配分も適材適所で思う存分働いてほしいと声をかけてくれます。
自らの感情を手放すには、まずは感情への視線を外し、他者への思いやの心に目を向けること。そして、必ず願いをかなえることができると相手を信じること。
これらはなかなかできることではありませんが、こんな人が職場や家庭にいてくれたらと思う憧れの人物であることは間違いありません。
そして、もう一つ、大切なことがあることに気づきました。
それは、「ビーフカレーを食べたかった」という自分の本当の願いを大切にすることです。
いつも、問題が起きた時に「我慢」という解決方法を取っていませんか?
自分の希望を叶えても人間関係にしこりを残してしまったことはありませんか?
相手も自分も、共に望みを叶えることができるようになりたいと思ったら、ぜひ渋沢栄一と、私たちのビーフカレー事件を思い出してください。
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