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マジで奇跡の映画「ミッドナイトスワン」


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記事:國井江美子(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
『……マジか……!!』
 
3月20日、春分点の早朝。
寝起きにスマホでニュースを流し読みしていたわたしは、大きな独り言を漏らした。
 
それから直ぐ、興奮冷めやらぬ指で日本アカデミー賞公式サイトを開いた。
 
《おぉぉぉ! マジか――――!!》
今度は声に出さず心のなかでガッツポーズをしたように記憶する。
 
第44回・日本アカデミー賞「最優秀作品賞」に輝いた映画は「ミッドナイトスワン」で間違いなかった。
 
そして「最優秀主演男優賞」に、主役を演じた「草なぎ剛」。
 
《夢みたいだなぁ……》
と、感じずにはいられなかった。
 
わたしが「こうなってほしい」いや、もっと言ってしまうと「こうなるべき」と思っていたことが現実となったのだから。
 
初めて「ミッドナイトスワン」を観た日から、ずっとそう思っていた。
 
《なんて素敵な春分点♪》
語尾に「♪」をつけることなど、そうそう安易にしないわたしが踊り出したいほどに嬉しかった。
 
よい映画は、心に「余韻」という「響き」を必ず残す。
観終わっても「終わりじゃない」のだ。
スクリーンが暗転してからも、簡単に「終わらない」「終わらせてくれない」のだ。
むしろ映画館を後にしてからが「はじまり」のような気さえする。
 
【追いスワン】という言葉を聞いたことがあるだろうか?
 
「ミッドナイトスワン」を観終わったあと一度では飽き足らず、何度もリピートして観に行ってしまう現象のことだ。
そんな言葉を生んでしまったほどに、つまりひとつの社会現象を生んでしまったほどに、この映画を愛する人が多いということだろう。
 
この映画の主役は、草なぎ剛が演じる“凪沙”(なぎさ)だ。
凪沙はいわゆる「トランスジェンダー」と呼ばれるカテゴリーに属する。
身体は「男性」だが、心は「女性」なのだ。
広島の田舎から上京し、歌舞伎町のショーパブで働いて生計を立てている。
そんな凪沙のもとにある日、田舎の母“和子”から連絡があった。
 
『親戚の“一果”(いちか)の面倒を見てほしい』
 
一果の母親、“早織”はシングルマザーだ。
生活の、他人の、自分の、いろいろなことに疲れ果て、荒れ果て、育児放棄をしたのだった。
凪沙に白羽の矢が立つとは、早織にも予測不可能だっただろう。
凪沙は、広島の地元では“健二”なのだから。
 
トランスジェンダーの凪沙と、虐待され育児放棄に遭った少女、一果との出会い。
 
「ミッドナイトスワン」という奇跡の物語は、この【出会い】から始まった。
 
一果には類い稀なるバレエの才能があった。
その才能に気づく一番初めのキッカケとなったのは、凪沙の部屋で目にした「チュチュ」だ。
ショーパブの舞台で凪沙がバレエを踊るための衣装だった。
 
凪沙に出会ったこと、なぜかチュチュに惹かれたこと。
学校帰り、路地の裏側でバレエ教室を見つけたこと。
そこで出会ったバレエ講師の“実花”、同級生の“りん”。
 
一見して偶然のような出会いの連続が、一果の才能を開花させ、目覚めさせてゆく。
 
その一果を、守り、育て「母親」にまでなりたいと思った凪沙。
一果の存在は、凪沙の「母性」を刺激し、目覚めさせていった―――。
 
凪沙が一果と出会って変わったように、一果もまた凪沙と出会って変わったように、人生を根底から変えるものは【出会い】しかないと、わたしは思う。
 
この映画が提示する大切なひとつのテーマとして「トランスジェンダー」の問題も勿論、挙げられる。
凪沙や凪沙を取り巻く「トランスジェンダー」の人たちが、ひとり残らず“人間的な魅力に溢れている”のを否定できる人はいないだろう。
いわゆる「性的な壁を超えた」人たちは、なぜこんなに魅力的なのか。
やはり当人たちがよく言われるように、男女の性質を併せ持っているため『ひとりで2倍“おいしい”』からなのだろうか。
しかし実のところ『ひとりで2倍の苦悩を“味わっている”』ことと同義だと思うのだ。
“おいしい”とは何と切なくユーモアのある響きなのだろう。
 
わたしは本来、《性別というものは“ない”んじゃないか》と思っていた。
 
「男女の差」とは「肉体的特徴」の他に、あるのだろうか? と。
もともと、ひとりの人間のなかに「男らしさ」も「女らしさ」も「父性」も「母性」も内在しているのではないか?  ただその“割合”や“比率”が違うだけなのではないか? と。
だから「男らしい男」も「女らしい女」も「女っぽい男」も「男っぽい女」もそれぞれ微妙に違った“割合”で“比率”でバリエーション豊かに存在するのではないか? と。
 
本当の個性とは、きっと性別に寄与しない。
各々「自分らしさ」「その人らしさ」があるのみだろう。
 
そう「トランスジェンダー」云々……よりも「ひとりの人間として」凪沙の一果に対する【献身】が心を震わすのだ。
 
そんな凪沙の期待に応えようと、初ステージにも関わらず難易度の高い「白鳥の湖」のオデットに“あえて”挑んだ、一果の【一途な想い】が心を打つのだ。
 
自分ではない「誰かのため」に懸命に成される行為の、何と尊く美しいことか。
 
本当の意味で人を輝かせるものは【人のため】という【覚悟】のなかにあると、強く思ったのだ。
普段、気がつけば「自分ごと」ばかり考えている、このわたしが。
 
《なぜそこまで人を想えるのか》……損得勘定のない純粋なまでの【人が人を想う心】に触れたとき、わたしは涙を堪えきれなかった。
 
「ミッドナイト・スワン」は日本の映画史上(世界史上?)でも稀に見る「傑作」なのではないだろうか。
 
こんなにも深く、長く、人々の心の襞(ひだ)に棲み続ける映画が「傑作」でないわけがない。
 
「ミッドナイトスワン」のように激しく心を揺さぶられ、動かされる映画に、一生のうち何度出会えるのかもわからない。
 
何の因果か(もう何の因果でも構わないのだが)この時代に生を受け、生かされたことに感謝したい。
「ミッドナイトスワン」の誕生に立ち会い、凪沙や一果と時を共にすることができた奇跡。
 
わたしはこの映画と【出会えた】ことに、底知れぬ歓びを感じている。
 
後日、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を受賞したときの草なぎ剛の動画をYouTubeで確認した。
 
『……マジっすか……ごめんなさい、なんか頭、真っ白になっちゃって……』
 
込み上げてくる様々な感情を抑えるように発せられた、リアルな声。
 
春分点の早朝、わたしが起き抜けに発した大きな独り言とは、何から何まで次元が違う。
 
これが“本当の”『マジ』なのか……。
 
またひとつ、名優から教わった気がした。
 
 
 
 
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2021-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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