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娘の涙のワケ


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記事:北村夏紀(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
「ママー! ママー!!」
号泣しながら私に抱きつこうとする娘の手をどけて、笑顔で手を振る。
「いってきます!」
 
家で仕事をするために一時保育を利用し始めた。今までは娘が寝てから細々と仕事をしていたが、睡眠時間を削り体調を崩すことが増え、このままではいけないと考えたからだ。
 
初めて一時保育を利用する日、知らない場所に連れてこられ、きょとんとする娘。特に泣きもしなかったので大丈夫かと思っていた。
しかし、その日迎えに行くと、先生に連れてこられた娘は大号泣だった。ずっと泣いていたのか声が枯れ、目も腫れていた。娘は人見知りも場所見知りもしない、人懐っこい性格だったので、まさかこんなに泣くとは思わず、困惑した。
 
2日目、保育園の入り口から大号泣。こんなに泣いたことはない。この世の終わりかというくらい泣いている。私を呼んで、抱きついてくる。
頭ではわかっていた。ここで私が不安な顔をしたら、娘はもっと不安になる。頭ではわかっているのに、動けなかった。泣き叫ぶ娘に背中を向けることができなかった。見かねた先生が、「〇〇ちゃん、行こうか~」と娘を連れて部屋に入っていった。
 
次の日も、その次の日も、娘は泣いた。私は徐々に笑顔で手を振れるようになってきたが、心の中では迷っていた。
絶対にやらなきゃいけない仕事じゃない。これをやらなければ生活が回らないというわけでもない。私自身がやりたくてやっていること。私のわがままで、娘にこんなにつらい思いをさせていいのだろうか。
 
この迷いが、娘にも通じるのだろう。「明日は保育園だよ」というと「行かない!」
1歳の娘がこんなにもはっきり意思を示すことに驚くと同時に、それほどまでに嫌なのかと、また自分を責めるという日々が続いた。
 
そんなある日、私が所属している乳幼児教育のインストラクター仲間でおしゃべりをしていて、今の一時保育に対する悩みを相談する機会があった。その乳幼児教育ではコーチングを取り入れていることもあり、みんながコーチングを学んでいた。そのため、公開コーチングの場となった。
 
コーチングとは、質問をすることで、その人自身がもつ答えを見つけていくというコミュニケーション術である。
 
「何が不安にさせるの?」「娘ちゃんがどう反応してくれたら理想?」「私はどうしたいの?」「私にとって仕事は?」
 
次々と飛んでくる質問に答えていくうちに、今まで抱いていた不安がスーッと消えていくのを感じた。
私はやっぱり、仕事をしたい。自分の身体を犠牲にはせず、家族との時間も大切にしながら、自分の夢も叶えていきたい。そのために、一時保育は絶対に必要なんだということを改めて認識した。
 
迷いは消えた。「ママは仕事がたくさんできて、すっごく助かる! 明日もよろしくね!」と娘に伝えた。
 
翌日。保育園の入り口で、娘の歩みは遅くなる。また泣くか、と思ったが、ぎゅっと手を握りしめ、歩みを止めない。先生に抱き上げられるとき、一瞬泣きそうになったが、「うっ……」と声を漏らしただけで、涙は流れなかった。
私は笑顔で手を振り、背を向ける。
 
驚いた。私の気持ちが変わるだけで、娘は泣かなくなったのだ。あぁそうか、娘を泣かせていたのは、私だったんだなと気づいた。
 
小さな子どもは、言葉でのコミュニケーションがまだうまく取れない分、言葉以外の、表情や口調、息遣いなどから情報を得ることに長けているという。まさに娘は、私の不安や迷いを感じ取り、同調し、泣くという表現で訴えてきていたのだ。
 
その日以来、娘が泣くことはなくなった。先生の話では、たまに思い出したように「抱っこ」と言ってくるが、それ以外はお友達と楽しく遊び、給食もおかわりして、お昼寝もできるようになったという。
家でも、アンパンマンのおもちゃで遊んだ話、他のお友達が泣いていた話、給食に大好きなお芋が出た話、先生と呼んだ絵本の話など、保育園であったことを楽しそうに話してくれるようになった。
「明日も保育園に行きたい」というまでに。あの玄関で大泣きしていた時からは考えられない言葉だ。
 
4月から保育園に預けるというママも多いことと思う。きっとみんな不安。
「そのうち慣れる」とは言われても、大泣きする我が子をみて、心を痛めない親はいないのではないだろうか。
 
でも大丈夫。子は、親が思っているよりも強い。でも、親が思っている以上に、親の感情をくみ取る能力も高いということを知っていてほしい。もし、なかなか保育園に慣れない場合には、ママ自身の不安が伝わっていないかを思い返してみるといいかもしれない。
 
娘も4月から正式に保育園に入園する。今の様子を見ていると、きっと娘は大丈夫だと思う。
今日も保育園での出来事を聞きながら、娘の成長をたくましく感じると同時に、少し寂しくなる。これから私の知らない場所で、私の知らない経験をたくさんしていく。こうして親離れしていくんだな、と。子離れが次の私の課題となりそうだ。
 
 
 
 
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2021-04-03 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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