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醤油がつくる故郷の味


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記事:小北采佳(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
「なんだこれ……私が知っている醤油の味と全然違う……」
 
大学進学と同時に、私は生まれ育った山形を出て、隣の宮城県に住み始めた。初めての一人暮らしだ。
その日私は食料品の買い出しに行き、近くのスーパーマーケットで適当なお醤油を買ってきていた。
 
食事の支度をしようとして、ふと買ってきた醤油を舐めてみたのだが。
それはただただとても濃く、塩辛かった。実家で使っていた醤油はもっと甘かったので、なんだか味に違いがありすぎて、あまり美味しいと感じられなかった。
やはりメーカーによって味が違うのだろうか?
 
そもそも自分の実家ではどこのメーカーの醤油を使っていたんだろう? そんなことはそれまで意識したことがなかったので、母親に電話した。
「ああ、うちで使っているのは『味マルジュウ』っていうお醤油よ」
ところが、いくら探しても「味マルジュウ」は宮城のスーパーには売っていないのだ。これは山形の蔵元で醸造しているもので、山形のスーパーでしか販売していないらしかった。
「味マルジュウ」は、山形県民しか使っていない「ご当地醤油」だったのである。
 
「味マルジュウ」は、出汁醤油だ。
「うま味がタップリ! だししょうゆ」とラベルに記載されている通り、かつお節・さば節・煮干しなどの出汁のうまみと、砂糖が入った甘めの味付けである。
山形の家庭で醤油といえばこの「味マルジュウ」といえるほど山形県では知名度が高い。
 
思い返してみれば、私が宮城で初めて買った醤油は、普通の「濃口醤油」だったのだろう。出汁成分が入っている「味マルジュウ」に比べると、うまみや甘みがなく、ただしょっぱいだけだったのもそりゃあ当然だ。
しかも私は約18年間、「味マルジュウ」で育ってきたから、他の醤油をおいしく感じられなかったのもそりゃあ仕方ない。
 
けっきょく宮城では「味マルジュウ」が手に入らなかったので、私は購入した濃口醤油で料理をしていたが、そこで改めて醤油の偉大さに気づくことになった。
 
例えば、母が実家から牛肉と里芋を送ってくれたので、芋煮を作ったことがあった。
芋煮は山形を中心とした東北地方の郷土料理で、牛肉・里芋・ネギ・ごぼう・こんにゃくなどを鍋で煮たものだ。地域によって、味付けを醤油ベースにするか味噌ベースにするか、牛肉を使うか豚肉を使うかといった違いがある。山形県では、醤油ベースの味付けで牛肉を使うのが主流なので、すき焼きをスープにしたような料理になる。
 
しかし、私が作った芋煮は山形でいつも食べていた芋煮とはどこか違っていた。山形から送ってもらった食材を使っているのに、これは一体どうしたことか。
ふと傍らに目をやると、そこには宮城のスーパーで買った濃口醤油があった。
 
そうか、醤油が全然違うからだ。
 
私が慣れ親しんだ山形の芋煮には、「味マルジュウ」が使われていたのだ。醤油は「ふるさとの味」をつくるのに重要な役割を果たしていたのである。
よく、東北の醤油は辛口で、九州の醤油は甘口、などと言われることがあるが、同じ東北でも山形と宮城では差があるし、ひとくくりにはできない。大手の醤油メーカーだけでなく、全国にはたくさんの醤油の蔵元があり、それぞれの地元の味を作っているのだろう。
 
大学進学する前は、正直、出身地の山形に対してあまり思い入れがなかった。むしろ都会に住みたかったので、田舎の山形からは早く出たいとすら思っていた。
でも醤油の味を通して実感したのは、私の中には確かに「故郷・山形の味」と呼べるものが作られていたのだ、ということ。そして、どこにいても、故郷の味は大事にしていきたいと思った。
 
私は、今は東京に住んでいるが、やはり「味マルジュウ」を求めて向かう場所がある。
山形県の特産品を販売するアンテナショップである「おいしい山形プラザ」だ。
 
「おいしい山形プラザ」はなんと銀座の一角にあり、いつもわりとお客さんが入っている。そこには遠国山形からはるばる輸入した新鮮な野菜、果物、漬物、お菓子、地酒などなど、山形県民の食卓ではおなじみの食材が所狭しと置かれている。
 
私の一番のお目当てはもちろん醤油だ。
ここにはちゃんと「味マルジュウ」が販売されており、私は時々それを買いに立ち寄っている。
コロナ禍で山形にはもう1年以上帰省できていないが、こんな時こそ地元の味が東京で手に入るのはありがたい。
 
みなさんの家ではどのような醤油を使っているだろうか?
普段何気なく使っていて、特にこだわりがないという人も多いかもしれない。
もしコロナ禍でなかなか帰省できず、地元の味が恋しくなったら「ご当地醤油」を手に入れて料理に使ってみてほしい。
きっと、醤油がどれだけ地元の味を作るのに大きな役割を担っているかを感じて驚くだろうし、故郷の味に癒しをもらえることだろう。
 
 
 
 
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2021-04-05 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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