「大丈夫」の呪縛
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人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜
記事:りお(ライティング・ゼミ日曜コース)
リラクゼーションという名の我慢大会が始まった。
年末年始に、母親と駅近のリラクゼーションに行ったときのこと。普段、お仕事で凝り固まった身体を解きほぐしたい! という一心で、1時間のボディコースを予約した。
暗めの照明に、リラックスするような香り。肌触りの良い服に着替えて、担当者を待つ。ベッドに腰掛けて、早く来ないかな〜と足をブラブラさせていた。身も心も癒されるような環境が整っているこの空間で、自分の身体が軽くなる未来が楽しみになる。
遂に、リラクゼーションの時間が始まった。簡単な挨拶のあと「まずは、うつ伏せになってください」という指示で全身をベッドに預ける。
「苦しくないですか?」
うつ伏せになったときの顔の部分に、穴があいていた。呼吸しやすいように空いているベッドの穴に、私の鼻と口がすっぽりおさまる。ちょっと苦しいけど、まぁ許容範囲だろう。
「それでは、よろしくお願いします」
と、背中を押し始めた途端、身体に激痛がはしる。強い……! 強すぎるよ……!
「力加減はこのくらいでいいですか?」
良くない。良くないけど、私はいつもの癖で「大丈夫です」と言ってしまった。そんな私にもう一度チャンスがやってくる。
「強くも弱くもできますけど、大丈夫ですか?」
弱くしてほしい、けど……「大丈夫です」と2回目のチャンスを無駄にしてしまった。
ここから、私の我慢大会が始まる。
背中を押す強さに耐えながら、担当者と他愛の無い会話をした。時々、肺までが押し潰されそうで、呼吸をするのさえ辛くなる。もし、ベッドの穴におさまっている私の顔を下から覗いたら、必死で滑稽な表情だっただろう。
我慢大会に耐え抜いたあと、母親の気持ちよかった〜〜とホクホクした表情を見て、私の1時間はなんだったんだろう、と悲しい気持ちになった。
私には、こういうことがよくある。
美容院で仕上がりはいかがですか?と言われる時。もう少し短くして欲しくても「大丈夫です」と言ってしまう。
歯医者で、歯のクリーニングをしてもらう時。痛くないですか?と聞かれても「大丈夫です」と言ってしまう。本当は死ぬほど痛い。
そうやってNOと言えない性格によって、些細な場面で損をしまくっている。なんで、NOと言えないのか。自分の意見が言えないのか。恐らく、相手の立場や気持ちを無駄に考え過ぎてしまっているのだろう。
リラクゼーションで力加減を弱くしてくださいと言ったら、今やってくれている方の力加減を否定してしまうことになるのでは……。と考えてしまう。歯医者で本当は痛いと言ったら、この後の治療に気を遣わせてしまうのでは……。と考えてしまう。
要は、自分の気持ちより、本当はどう思っているかわからない他人の気持ちを優先してしまっているのだ。
しかし、私の性格に変化の兆しが訪れる。
平日の仕事帰りに通っているヨガ。前半は動いて後半は動かない陰と陽の2種類のヨガに参加をしており、特に、陰ヨガは一つのポーズで3〜5分間じっと止まることで、静寂な時間を感じられる。
陰ヨガでは、毎週違うポーズを紹介されるが、心地よい伸びを感じられるときがある一方、身体の硬さや不調によって辛い時もある。
「心地の良い体勢で止まってください」
ヨガの先生がいつものように優しく声をかけてくれた。どんなに辛いポーズでも我慢してきた。力を抜くのが陰ヨガであるのに、必死になって顔のパーツがギュッと真ん中に集まるほど。
「寒かったら毛布を持っていくので、手を挙げてくださいね」
寒いけど、手を挙げられない。先生の持ってきてもらう手間を考えてしまう。ひたすら耐えて、寒くない寒くないと自分に言い聞かせていた。
そんなある日のこと。今回は股関節が悲鳴を上げるほど、キツイポーズだった。
「もし、このポーズ辛いなと思ったら、休憩のポーズに戻っていいですからね」
私は、このポーズが辛いなと思っている。休憩のポーズに戻りたいと思っている。このまま、このポーズを続けるべきなのか? そもそも、誰のために我慢をし続けているのだろう。と思った途端、スッとポーズから離れられた。
人生で初めてだった。
「大丈夫です」ではなく、自分の気持ちを優先して動けたこと。休憩のポーズをしている間、自分は大きな一歩を踏み出したのではないか、と笑みが溢れた。相手の様子を伺って、自分の心地よさを後回しにしていた私。一体誰の人生を私は歩んでいるのか。そんな問いに向き合えた瞬間だった。
また、駅前のリラクゼーションに行った。やっぱり力加減が強かった。
「力加減はいかがですか?」
「……もう少し、弱くしてもらってもいいですか?」
「もちろんです」
言えた。言えた……!なんだ、簡単じゃないか!!
前回とは打って変わって、リラックスして過ごせた1時間であった。
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