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「お誕生日会」が結婚成否のバロメーター


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記事:青山二郎(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
「あのさ、さっきから、俺の話きいてる?」
「うーん。ごめん。はっきり言うと、青ちゃんの鼻毛が気になって、話がはいってこない……」
 
今から約20年前、私は今の妻と翌日の結婚式を控え、会社の近くのレストランでお互い独身最後の日の夕食をともにした。その席での会話である。
 
妻と私は社内結婚だったため、結婚式の前日まで普通に会社で働き、残業もしていた。
明日は結婚式というのに、普段と変わらない1日を過ごしたので、夕食くらい、少しスペシャル感を出そうとして、近くのレストランに飛び込み、普段は頼まないシャンパンやワインをすきっ腹に入れたのが悪かった。私は普段より饒舌になっていた。
 
気分が高揚して私は、二人が結婚してからの理想の生活について、つい話し出してしまった。子どもは何人くらいほしいとか、将来的には庭付きの家に住んで、週末、バーベキューが出来たらいいな、とか、年に1度は海外に家族旅行も行けたらいいねなどの他愛ない、少し気障で恥ずかしい話を延々としてしまったのだ。
 
一方で、私自身は話に盛り上がっているのに、途中から、妻が全く話に乗ってこないことに気が付いた。そこで冒頭の会話である。
 
「鼻毛……?」
「うん。出てるよ、ずっと。長いのが。切ったほうがいいよ」と妻。
 
「じゃなに? 俺の鼻毛が気になって、今まで俺が熱く語っていたこと、まるで聞いてなかったの?」
私は少し憤慨して、自分の言葉に怒りの熱がこもっていることを自覚した。
 
「だって、気になるじゃん! 鼻毛はマナーだよ! 話するなら鼻毛を切ってからにしなよ」
 
「鼻毛、鼻毛って! 俺がこれまで話してきたことの重要性に比べたら、鼻毛なんて全然たいした話じゃないじゃん! 君の中では、俺の話は俺の鼻毛以下ってことか! そんなんだったら、俺は逆に今後、ずっと鼻毛を切らない!」と、自分でも恥ずかしいくらい大きな声を出してしまった。
 
妻も負けていなかった。
「じゃあ、鼻毛を伸ばし続ければいいでしょ! 私は一緒に歩かないから!」とこれも結構な大声で返してきた。
 
店の人が飛んできて、「お客様。 他のお客様に聞こえますから、少しお話のボリュームを下げていただけますか?」といった。
 
それを聞いて、二人ともようやく静かになった。しかし、声のボリュームは下がったが、最後までこの鼻毛論争はつづき、最後は妻が折れて「はい、はい。わかりました。鼻毛については見解の相違ということでいいよ。もう、めんどくさい!」と答えて終わりにした。
 
二人はレストランを出て、会社最寄りの駅で別れ、お互いの家に帰った。翌日は、お互い、昨日のことは何もなかったように結婚式会場で顔を合わせ、たんたんと、式場の係りの人の指示に従って式から披露宴を済ませた。
 
私たちが結婚する頃より少し前に、「成田離婚」という現象がちょっとしたブームになった。結婚式を経て新婚旅行をするまで、お互いに見えていなかった相手の嫌な部分や価値観の違いが、初めての海外旅行で露見してしまい、日本に帰国した途端、つまり成田空港に到着した途端、「離婚しましょう」となる夫婦が増えた、という現象だった。
 
私たち夫婦にとっては、初めての海外旅行以前に「鼻毛」が大きな価値観の違いとして現れた形だった。しかしながら、「鼻毛離婚」にまでは至らなかった。
 
結婚後も、たとえば、週末はどんな短い時間であっても外に出てなんらかの活動をしたがる妻と、週末はなるべく家でのんびり映画鑑賞や読書をしたがる私は「出かける・出かけない」でぶつかった。お互いの残業時間が全く違っても家事は完全に半々のボリュームにしないと気が済まない妻と、酔って帰って家事をさぼる口実にしたがる私はぶつかった。毎日、ぴしーっと同じものが同じ場所にあることを理想とする妻と、毎日、メガネや携帯をなくして探し回る私はぶつかった。
 
そもそも生まれも育ちも違う二人の人間が、たまたま同じ職場で、同じ仕事をしているうちに、あたかも価値観まで一緒だと勘違いをしてしまうことはよくあることだろう。
当たり前のことだが、会社の同僚としての私と夫としての私が同じなわけがない。妻とて同じことだ。
 
それでも、曲りなりにも20年も結婚生活を続けてこれたのは何故か? と改めて考えた時に、私が気が付き、これが答えだ、とたどり着いたのが、「お互いの両親・兄弟つまり家族との距離感」である。
もっと詳しく、わかりやすいバロメーターをいうと「家で両親や兄弟の誕生日を祝う習慣があったかなかったか?」である。
 
結婚は結局、当人同士だけの「惚れたはれた」だけでは成立しづらい。何度も言うようにお互いが育ってきた環境がお互いの「価値観の基礎」のような部分を形成している。だから、結婚し、ひとつの家に暮らすようになれば、当然、その「価値観の基礎」部分をさらけ出し合わないと一緒には生きていけない。
 
そのとき、最もあらわになる部分のひとつが、「家族との距離」である。
私は、結婚してから、妻が自分の両親や姉、姉や兄の子どもたち(甥っ子)の誕生日を祝う席に同席してきた。そして、それは、私自身が大学に入って上京するまで実家で毎年続けてきた習慣と全く同じであったことに気が付いた。私の両親も、自分自身の両親(私の祖父母)や兄弟(私の叔父・おば)や甥っ子、姪っ子の誕生日をまめに祝った。私たち親族は、ことあるごとに、誰かの誕生日を祝い、それを通じて「自分には何がなくても家族(親族)がいる」ということを再確認した。
 
私と妻にとっての「共感する価値観の根っこ」の部分は、この家族との距離感だった。
 
鼻毛問題が勃発したその晩、私は、翌日の結婚式のために田舎から上京してきていた両親にその話をし、翌日の式場のロビーに来ていた妹夫婦に同じ話をした。妻は妻で、私の鼻毛への怒りを両親に伝え、ロビーで姉夫婦に、「あの男の鼻毛をなんとかしてほしい」と訴えたそうだ。
 
それでお互いに気が済んだのだ。私のほうは、気の利く妹のだんなが式場近くの家電ショップで鼻毛カッターを買ってきてくれ、披露宴までに私は妹夫婦の前でニコニコしながら鼻毛を切り、両親も一緒にみんなで大爆笑した。
 
それで、私たち夫婦は、お互い、昨日の鼻毛問題をまったく忘れることができたのだ。
嬉しいことも悲しいことも、楽しいことも辛いことも共有し、吸収し合い、消化してくれる家族の存在。お互いがその家族の大切さを根っこにもっていたことが、それ以外の価値観では衝突しまくった私たち夫婦がなんとかやってこれた理由だと思う。
これは、一つの事例でしかないから、あまり参考にはならないかもしれないけれど、それでもなんとか20年やってきた実績はある。
「お互いの家族との距離感が一緒かどうか?」
もし、あなたが結婚しようかどうしようか迷ったときは、これを一つのバロメーターとしてみることをおすすめしたい。
 
 
 
 
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2021-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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