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方向音痴はきっと一生治らない


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記事:青木 文子(ライティング・ゼミ超通信コース)
 
 
世の中には方向音痴の人とそうでない人がいる。
 
街を歩く。北に向かって右に曲がる。もう一度右に曲がってから左に曲がる。それだけで自分が東西南北どちらに向かっているかわからなくなるのが方向音痴だ。私はかなりの方向音痴だ。はじめての土地はもちろんのこと、いつも行っている場所でもよく迷う。
 
はじめての場所でも常に東西南北がわかって移動できている人。空間把握能力が優れているのだろう。と、友人にいったら「え? なんでわからないの?」と呆れられた。方向音痴の人とそうでない人との間にはわかりあえない深くてくらい溝があるというのが私の持論である。
 
方向音痴でも、自分の向かう方角がわかっていないかな、と自分を疑っている人はまだいい。はじめての場所であるのに「こっちの方向で間違いない」と自信をもって向かってしまう方向音痴の人がいる。自分が迷子になるだけならまだ良いけれど、人と一緒のときにも「その道を左折して」と根拠のない自信をもってナビをしたりする。まさに私である。方向音痴の人中には、するとみんなで一緒に迷子になる。迷惑きわまりない。私の方向音痴ナビに呆れた友人は、とうとう私をナビ役で助手席に乗せなくなった。
 
2歳の頃、私はいつもポケットの中に小さい財布を持たされていた。財布の中には住所と電話番号を書き留めた紙と電話がかけられるように10円玉が数枚。よちよち歩きからだんだんと歩けるようになってきた私はなにかが目につくとそのままそちらに行ってしまう子供だった。
 
犬の散歩に目が行けばそのままついていってしまうし、咲いているたんぽぽを摘みながら、目の前の新しいたんぽぽが気になってそのままどんどん先に行ってしまう。もちろん母はいつも私がどこかに行かないか注意をしていたらしい。が、それでも気がつくとどこかに行ってしまうという子どもだったという。
 
今で言う「多動」な子どもだったのだと思う。それで母が案じて、ポケットの中には小さい財布を持たされていたのだった。いわゆる迷子札である。10円玉は見つけた人が家に電話してもらうようにという気づかいだった。
 
個人情報にうるさい現代であれば、子どもに住所と名前をそのままもたせるなんてとんでもない! というだろうが、私はこの迷子札のおかげで何度か助けられている、らしい。らしい、というのは自分ではまったく記憶がないからだ。
 
あるときは自宅から2km近く離れた街から電話がかかってきたらしい。そのころ自宅では私が見当たらないということで大騒ぎになりかけていた。
 
「お宅の娘さんが道路を歩いていましたよ」
 
こんな小さい子がどうして一人でニコニコ歩いているのだろうか、と気にした大人がポケットの財布から電話番号を見つけて電話をしてくれたそうだ。迷子札の面目躍如だ。
 
どこかにトコトコ行ってしまうにしても、戻ってこられるなら問題はない。そう、つまり私は方向音痴だったのだ。家にむかって戻ろうとすればするほど遠ざかっていく。大人になった今も方向音痴のままである。
 
ある時、頼まれて知り合いの講演会の手伝いに行くことになった。講演会会場で、知り合いの著作を並べて書籍販売する手伝いだ。当時、私が住んでいたのは東京。講演会会場は長野の松本だった。講演会の朝、一緒に手伝いするOくんと待ち合わせて、朝一で書籍を車に積んで一路松本に向かった。
 
公演会場のロビーに会議机を並べて、持っていった白い布をかける。書籍を並べたら臨時の書籍売り場のできあがりだ。午後からの講演会は大入り満員だった。講車に山のように積んでいった書籍も、講演会を聞き終えた参加者の人達が次々に買ってくれて、Oくんと一緒にてんてこ舞い。車に積んでいった山のような書籍はおかげで全部売り切れたのだった。
 
午後から始まった講演会が終わったのは夕方。そこから書籍販売をして、売り切って後片付けが終わったのがもう19時頃だった。講演者の知り合いは、そのまま主催者の方がとってくれたホテルで宿泊という。私はOくんと細々とした備品を箱に詰めて車に積んで、帰路についた。
 
「やっぱ、売り方がうまいと本も売れるよね」
「書籍販売請け負いますとかいう仕事できるんじゃない、私達」
 
北国の秋は暮れるのが早い。もう真っ暗になった道を東京に車で向かう。持っていった書籍が全部売れたのもあって、Oくんとの車の中での会話は弾んでいた。
 
車は快調に夜の高速道路を走っていく。話に夢中だったので気が付かなかったのか、そもそも私もOくんも方向音痴だったのがいけなかったのか。
 
高速道路を走って1時間とすこし過ぎたところだろうか。私達の車は東京を目指して走っているはずだった。
 
「長野まであと5km」
 
目を疑った。夜遅くの高速道路。車のライトに照らされた、緑色の行き先標識をみてOくんと私の目が点になった。長野? なんで長野? 車の運転をしていたOくんが慌ててブレーキを踏みかけるが、高速道路上なので止まることはできない。ふたりとも頭が混乱しながら、とりあえず長野のインターで降りて車を路肩に寄せる。
 
結局、方向音痴の二人が最初のインターに乗る時に乗る方向を間違えたということらしい。そこからは講演をした知り合いに電話して、松本に戻り、結局彼女のホテルの部屋(ありがたいことにツインだった!)のベッドとソファーでその日は泊めてもらったのだった。
 
方向音痴が治ればいいなぁと思うことはあるけれど、方向音痴であってもそれはそれで楽しい人生だ。どこに居るかわからなくなるということはその場所は自分にとって目新しい場所になるということだ。2歳の頃の私は、迷子になった先の街がきっとキラキラ輝いて見えていたのではないのかと思う。
 
いつもすべてが把握できているよりも、わからない場所に身を置くドキドキ感ってある。だって人生も、一寸先はみえないのが醍醐味だったりする。これを聞いた方向音痴でない人たちからは呆れられるのかもしれないけれど。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-24 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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