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メディアグランプリ

子ども達からの贈り物


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:内藤睦(ライティング・ゼミ日曜コース)
 
 
小さく切って折りたたまれた黄緑色の折り紙と紫色の折り紙を開けて読んだ時、私は「ああ、子どもがいてよかった」と思った。
 
年度替わりには掃除が必要だ。特に子どもの物の整理が必須である。でも子どもに中断させられることが多くてなかなか進まない。ありがたいことに、週末に旦那が泊りがけで子ども達を義実家に連れて行ってくれたので、その間、掃除の時間を作ることができた。
毎年、保育園や学校で学年が変わると持ち物が一式変わるし、新しい手提げカバンや文房具など細々したものを用意しなければならない。また、その年に作ってきた図画工作作品や、教科書、プリント類なども整理しないといけない。
学校関係のものだけでなく、家のものも同様だ。気づけば、服やおもちゃや本など、どんどん増えている。1年経てばサイズアウトした服や小物の整理が必要になるし、お気に入りのおもちゃや本も変わる。
そして子ども達が毛糸や紙コップやセロテープやなんやかんやを無尽蔵に使って作る工作。折り紙や紙の切れ端にかいた字や絵など。これらも気がつくと溜まっている。
 
「これはまた使うからあの引き出しに入れる」「これは捨てる」「これは子供部屋の思い出箱に入れる」など、判断しながら片付けていく。
ふと、テレビ台に折りたたまれた折り紙の破片が幾つか、置いてあることに気づいた。子どもが置いたんだろう。なんだろう。ちょっと休憩がてら、それぞれを開けてみた。
 
黄緑色の折り紙には、
「5九きょ車
9五かくぎょう
4九ひ車
6九ひ車」
と書かれていた。おそらく、将棋を覚えたての小1の息子が、マンガ将棋入門に書かれていた囲いを実行するために、手順をカンニングペーパーとして書いたのだろう。実戦でこの通りに駒が進められるわけでもないのに。ちょっと可笑しい。
もう1枚の紫色の折り紙は、4歳の娘がおばあちゃん宛に書いて失敗した手紙と思われた。「おばあちやん よかよまさりいごと よまごうませりドりしじうま」
「ド」はカタカナで、「ち」と「し」は鏡文字になっている。まるで呪文だ。
しかし、お気に入りの紫色の色鉛筆で、可愛らしいハートまで一生懸命書いている。いじらしくて、愛おしくて仕方なくなる。
 
そして私は「ああ、子どもがいてよかった」と思った。
 
かつて、私は自分が大嫌いだった。自分は他人とずれているということに気づいたのは中学生の時だった。そして自分の育った家庭環境も、ちょっと変わっていた。それまで自信家だった私は極端に針が触れてぺっちゃんこになった。自信がガラガラと崩れ去り、自分を否定するようになった。
一度身に着けた自己否定はなかなか治らなかった。進学したり就職が決まったり、と環境が変わると人生が楽しくなった気がして「自分は変われた」と、少し自分を肯定的に見られるのだが、ちょっとしたことからまた少しずついたたまれなくなり、自分が嫌いになった。そしてそんなことになってしまった自分の育った環境も嫌いになり、家族を恨んだ。
ついには「私は絶対に子どもなんか持たない。持てない」と思った。子どもを持っても、多分自分が親にされたのと同じようにしか育てられない。そしたら、自分の子どもはイヤな思いをするだろう。負の連鎖だ。だからその連鎖を断ち切らないといけない。私の代で。そう思うと涙が出た。
今思うと、結婚をすっ飛ばして子どものことを考えて深刻になっていてバカみたいなのだが、それくらい世代を超えて家族に連綿と続くものの怖さを感じていたとも言える。
 
そんな私がいろんなことを経験し、本当に少しずつ少しずつ、一年が何十年にもなって季節が移り替わるように、自己否定が軽くなっていった。
そして結婚し、新しい家族ができた。実家と程よい距離ができた。
子どもが生まれた。
 
子どもを持って思ったのは、「この子達は私とは別の生き物だ」ということだ。
別の生き物だから、自分とは違うことで笑い、泣く。自分には思いつかないことを話す。
 
私はけっこう自分の親や祖父母に抑圧されてきた。けっこう厳しく「こうしなさい。ああしてはいけない」と言われてきた。だから私もそういうふうに自分の子どもを抑圧して嫌われてしまうのではないか、と恐れていた。でも、まだ小さい子ども達は、怒られても自分の思うままに天真爛漫に動き、話し、笑う。「早くして!」などと感情的に大きな声を出してしまった時、子ども達は嫌な顔をして涙ぐむことはあっても、一生懸命早くしたり、許してくれたり、後になってからけっこうケロッと忘れたりする。
 
そんな時、「あ、子どもは別の人間なんだな」と思う。そして「私は私だ」ということを思い出す。昔のように自己否定にはならない。子どもに一個の人格があるように、私にも一個の人間として存在する権利があると思える。
そして昔恨んだ家族のことも、気持ちが分かるとは言わないが「それぞれがいろいろ大変だったんだろうな」と思えるようになった。自分と同じではなく、それぞれがそれぞれの人格を持ち、考えを持って懸命にやっていた、と思えるようになった。
 
自己否定で苦しんでいたあの頃、「子どもなんて欲しくない。持っちゃいけない」と思っていたが、そのまま子どもを持たずにいたら、今でも一人の世界の中で、自分を傷つけて苦しんでいたかもしれない。そして周りの人も同じように自分の考えの中で傷つけていたかもしれない。
子どもという他者が私に優しい気持ちをくれるのだ。他者から見た視点をくれるのだ。とてもありがたいことだと思う。
 
これからもちろん、大変な思いもするだろう。
子ども達が成長していく中で、私が困るようなことを言ったりやったりすることもあるだろう。自分が親にやったように、辛辣な言葉を投げつけてくることもあるだろう。
でもそれは子ども達が一個の独立した人間だから、やることなのだろう。
その時に、私は子どもに感謝する今の気持ちを思い出せるようにしたい。
だから、折り紙の手紙は捨てないことにした。今の「子どもがいてよかった」という気持ちを思い出すための大事な手掛かりになる。
そして来たところを思い返すことで、これから行く道を、より良く照らしてくれるだろう。
それは、子ども達からの、今の自分への、そして未来の自分への贈り物なのだ。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-10 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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