モラトリアム時代に学んだ無駄ではない事
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記事:光﨑 智美(ライティング・ゼミ平日コース)
「自分はなんてダメな人間なんだ」
目標を達成できなかったり、期待に応えられなかった時等、そう思うときはないだろうか。
私は大学卒業後の就職先が決まっていたが、必要だった資格試験に落ちたため就職できなくなり、一年資格浪人することになった。その事を伝えた際「モラトリアムな時間も大事」と友人に言われた。”モラトリアム”の響きが気に入った私は、この一年を”モラトリアム時代”と呼ぶことにした。ちなみに調べると、モラトリアムは”しばらくの間やめること”や”大人になるための準備期間”と出てくる。
モラトリアム時代、私は試験勉強をしつつ、携帯ショップでバイトしていた。そこの携帯ショップで出会った方達が三者三様でとても記憶に残っている。
私がバイトしていた携帯ショップには私以外に、店長(当時の私にとっては年上のお姉さんだったが、20代の方だった)、店長より年下の川瀬さん、パートの黒木さんの3名がいた。
今から10年以上も前の話ではあるが、そこのショップでは携帯の販売目標台数が会社から各々に与えられていた。土日こそ人が途切れず携帯は売れたが、平日は携帯ショップのあるショッピングモール自体、人がまばらで売り上げは伸びず、私もショップの他の方達もなかなか目標台数に到達できなかった。
「見て〜。また10円はげが出来ちゃったよ〜。全部で10個くらいある」平日の暇な朝にサラサラな髪の下に何個もできている円形脱毛症を見せ、川瀬さんが悲しそうに言った。
川瀬さんはいつも物腰が柔らかく、色々と親切に私に教えてくれた。そして真面目な一面があり目標台数にいかないことをとても気にしているようだった。
「早く辞めたいな〜。でもやりたい事もないしなぁ」
疲れた表情で口癖のようによく言っていた。
一方でパートの黒木さんは店長がいなければ、店先にも立たず、裏で雑誌を読んだり、携帯をいじっては頻繁にタバコ休憩に行っていた。黒木さんは、パートさんだからなのか理由はよくわからなかったが、目標台数が決められていなかった。
お客さんが来ると「私は目標台数もないし、あなたたちが頑張って売ってくれれば良いのよ〜」とあっけらかんと言って、私の背中をお客さんに向けて押した。私は働こうとしない黒木さんに苛立ちを感じながら、お客さんの携帯の契約を行った。
そんなある日、仕事を終えるタイミングがたまたま店長と重なり、私は店長の愛車で家まで送ってもらえることになった。
「黒木さんはどうしようもないよね。私がいないところでサボってバレてないと思っているみたいだけど、わかってるっての。やる気ない人って他の人にいい影響ないから困るわ。
川瀬さんは頑張ってるけど、真面目すぎて心配。売れなかったことを気に病みすぎ。
会社から給料もらってるから、私達は求められて当たり前。会社も売上げがなきゃ潰れちゃうしね。私達はやれることは全力でやって、それでもダメだったらしょうがない。これだけ頑張りましたって言えれば良いのよ」
と店長は愛車を運転しながら、進行方向を見たまま自分自身に話しているかのように私に言った。
さっきまで助手席に私が乗っている事も気にせず、マイクつきのイヤホンを使い携帯で彼氏とラブラブトークをしていた人と同一人物とは思えなかったが、私はその時「本当にそうだなぁ」と心の奥底から思い、何度も頷いたのを覚えている。
今も仕事中、求められた事ができなかったり、お客さんからクレームをもらって、なんて私はダメなんだと落ち込んだ時、この言葉が私の心を軽くしてくれる事がある。
働いていく上で、会社から目標を提示されることはよくある。店長の言っていた通り、売上がなければ会社は存続していけないのだから当たり前である。しかし、無理な事もある。会社には結果を求められるが、それをできなかったと落ち込みすぎたり、全くやる気を出さずに何もしないのではなく、やれるだけのことを精一杯やって、ダメだった時はしょうがなかった。と自分で思えばいい。と私は思う。
これは仕事だけに限らず、目標が達成できなかった時、人間関係でうまくいかなかった時等もそうだと思う。自分の心の持ちようとして「私は本当にダメな人間だ」と自分自身を責めすぎたり、向いてないと落ち込みすぎる必要はなく、「今回はダメだった。しかし次回は頑張ろう」と思えば良いのではないだろうか。一つの事がうまくいかなかっただけで自分自信を否定することはないのだ。
私は資格試験に落ちた時「とても恥ずかしい。なんてダメな人間なんだ。親にも迷惑をかけ、一年無駄にしてしまう」と思った。確かに親にはお金の面等で迷惑をかけてしまったが、結果としてこのモラトリアムな一年は私にとって無駄ではなかったと感じている。アルバイトをして仕事への様々な考え方をしている方達に出会えた事も、もう試験に落ちることはできないと今までで一番勉強した事も、今となっては少し大げさかもしれないが、自分の糧となっている。
失敗したり、うまく行かないことなんて山ほどある。一生懸命やってダメならしょうがないし、自分自身を責めすぎる必要はない。
うまくいかなかった結果、様々な出会いや経験に恵まれることだってある。
モラトリアム時代が今の私の糧となっているように。
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