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福寿草が見ごろを迎えるころ、わたしは山への畏怖を感じる


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記事:藤岡恵子(ライティング・ゼミ平日コース)
 
 
3月の中ごろから4月のはじめにかけて、藤原岳は福寿草が見ごろをむかえる。
 
そして、わたしは山への畏怖を感じる。
 
わたしは、女性の厄年の期間を、どっぷりと心の病をかかえて過ごしていた。
 
厄年ってほんとだな~。
 
なんて、なかば諦め気味だったけど、さすがに後厄の年になったとき、早くこんな状況から抜け出たい、と思うようになっていた。
 
それが、ひさしぶりに会った友人との会話がきっかけで生まれて初めての富士登山に行くことになり、そして、山登りにハマった。
 
山に登ったときの非日常感と素晴らしい景色が、モヤっとしていたわたしの心を洗い流してくれるような感じがしたからだ。
 
それからは、年に2~3回、岐阜や長野の山へ出かけ、1~2か月に1回は地元の山へ登りに行っていた。
 
その地元の山のひとつが藤原岳だ。
 
藤原岳は三重県から滋賀県にかけて連なる鈴鹿山脈の北部にあり、「花の百名山」にも選定されている。
 
そして、藤原岳といえば、福寿草が有名だ。
 
3月の中ごろから4月のはじめごろ、まだ雪の残る斜面から、おわん型のまっ黄色の花がぴょこんと顔を出して咲いている姿はとても愛らしい。
 
黄色い花が大好きなわたしは、福寿草を見るだけで元気が出てくる。
 
福寿草を見たくて、一時期、毎年のように藤原岳に登りに行っていた。
 
山へ行くと、ひとりで歩いている人をよく見かける。
 
老若男女関係なく。
 
そういう人たちを見て、わたしもいつかはひとりで登ってみたいな、と思っていた。
 
けど、なんかあったら……と思うと怖くてできなかった。
 
山登りを始めてから何年かたったあるとき、ひとりで登ってみようと思った。
 
そのときに選んだ山が藤原岳だった。
 
藤原岳は何回も登っていたし、福寿草が咲く時期なら人も多いから、ひとりでも大丈夫だろうと思ったのだ。
 
ある年の4月のはじめ。
 
わたしはいつものように電車を乗り継ぎ、最寄りの駅から登山口まで歩いて、いつものように登山口の駐車場にある小屋で身支度を整えようと、中へ入った。
 
ところが、その日の小屋の中の様子は、いつもと違っていた。
 
木製のテーブルの上に、電気ポットと紙コップとお茶菓子が置かれていた。
 
壁には、A1くらいのサイズの白地の山の地図が貼ってあって、地図は赤いマジックの線で10個くらいの区画に分けられている。
そして、その区画の大半は、すでに赤い斜線が引かれていた。
 
小屋に入った瞬間に、だれかが山で事故に遭ったんだとわかった。
そしてまだ見つかっていないだろうことも。
 
わたしは急に心細くなったけど、せっかくここまできたんだし、と気を取り直して登りはじめた。
 
緊張感は持ちつつも、ひとりでのんびりと、木々の香りや、登山道を歩くときの独特の足の裏の感覚なんかを味わいながら順調に歩いていた。
 
そして、8合目付近。
 
ついに、福寿草が咲くエリアまでたどり着いた。
 
周囲には、そこかしこに咲いている福寿草を、一眼レフやスマホを使って撮影しているひとたちがたくさんいた。
 
わたしも同じように、より愛らしく咲いている花はないか探し、見つけた花を、角度を変えたり、背景をちょっとぼかしてみたり、と夢中になって何枚も写真を撮っていた。
 
ふと、空全体に薄い雲がかかっていることに気づき、上まで行くか、ここで下山するか迷いはじめた。
 
まわりを見ると、これからまだ頂上へ向かって登っていくひとたちがけっこういたけれど、自分の歩くペースを考えると、これで下山したほうがいいと判断した。
 
後ろ髪をひかれながら、登山道を下りはじめた。
 
なだらかな道まで降りてくると、さっきまであんなにたくさんのひとたちがいたのがウソみたいに周囲に人がいなくなった。
 
すると、小屋に貼られていた赤い斜線が引かれていた地図のことがふと頭に浮かんできて、急に怖くなってきた。
 
はやく登山口まで降りたい!
 
そんな焦る気持ちが、ついさっき歩いて登ってきた道をわからなくさせた。
 
幸い、ほんの数メートルの分かれ道だったから、すぐにもとの登山道に戻ることができた。
 
でも、その分かれ道は、登るときに、
 
ここは、降りるときには気をつけなくっちゃ。
 
と、きちんと確認したところだったから、かなりショックだった。
 
そのあとは、ショックを引きづったまま、
 
きっとさっきの焦りみたいなのが積み重なって、遭難事故が起こるんだろうな……。
 
と、ひとり歩きながら考えていた。
 
それまでのわたしは、山の遭難事故というのは、3,000メートル級の山とか、雪山登山とかで起こるものだと思っていた。
 
それが、ほんの一瞬の心のあり様で、地元の山だろうが、標高が低かろうが、いつどんなところでも起こりうるんだと実感した。
 
このとき以降、わたしはひとりで山に登りたいと思うことはなくなった。
 
山はほんとうに素晴らしい。
 
きつい坂道を登り切ったときに味わせてくれる達成感。
 
頂上からの雄大な景色は、がんばった自分へのご褒美。
 
そして、普段のちっぽけな悩みなんかも吹き飛ばしてくれる。
 
わたしは、いつまでも山の素晴らしさを感じていたいから、藤原岳での経験は絶対に忘れない。
 
 
 
 
***

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2021-04-16 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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