fbpx
メディアグランプリ

高齢の父がスマホに初挑戦してわかったこと


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:岡 幸子 (ライティング・ゼミ 超通信コース)
 
 
二世帯住宅で同居している高齢の父は、コロナ禍で外出機会が減り、昨年から今年にかけて急に老けこんでしまった。
緊急事態宣言のせいで、図書館は閉館。近所の公園で週に一度は体を動かしていたグランドゴルフも中止。外出を控えているうちに足腰が弱ったのか、昨秋から散歩にもあまり行かなくなった。
 
「今日は天気もいいし、暖かいから少しだけでも歩いたら?」
「いや、寒くてだめだ」
「そんなに着込んでまだ寒いの? きっと、歩かないから筋肉が減って寒く感じるんだよ。何もしないと筋肉は減る一方で、来年の冬はもっと寒く感じちゃうよ」
 
家の中でダウンジャケットを羽織り、毛糸の帽子までかぶっている。それほど寒い日でもないのに。見ると背中も丸くなっている。父はあと2年で90歳だ。歩くのをやめたら車椅子生活まっしぐらではないか。
まだ健康で歩けるうちに足腰の筋力をキープしてもらいたい。
面倒なのか、150メートル先のパン屋へ行くにも自転車を使う。自転車で転んだら骨折間違いなしなので、できるだけ歩いてほしいといくら頼んでも聞いてくれない。それも心配の種だった。
 
何か、父が歩きたくなるようなきっかけはないか。
 
ふと、新しいスマホという発想が浮かんだ。
 
父は2年前まで、スマホはおろか携帯電話さえ持っていなかった。仕事もなく、たいして外出もしないので、通信機器をもつ必要がなかったのだ。
ずっと「いらない」で通してきた父を説得したのは母だった。散歩に行くにも何かあったら連絡できるからということで、母と一緒にドコモの「らくらくフォン」を契約してもらった。父にとってはメールも初体験で、しばらくは無料の教室に通って使い方を習っていた。
このとき、喜んだのは他県に住んでいる妹だった。
 
「これでLINEができるね。メールより楽だし、写真も簡単に送れるからいいね」
 
そう言って両親とのやりとりが頻繁にできることを期待していた。
ところが、上手くいかなかった。
よく調べもせず、母の友人から「らくらくフォンなら楽だよ」と言われた情報だけで選んだのだが、全然楽ではなかったのだ。LINEは使えるが、画面の文字が小さすぎた。拡大できないので、私が見ても読むのが辛いほどだった。要するに使い物にならなかった。メールなどの文字入力も独特で、覚えることを少なくするのと引き換えに、ものすごく使いづらかった。
うっかり、古い機種を選んでしまったのもよくなかった。
ドコモの教室に行っても、講師が操作を知らなかったこともあったらしい。
要するに、らくらくフォンはスマホとは別物だった。
数か月たつと、母はメールとSMS、父はメニュー画面に表示される万歩計くらいした使わなくなってしまった。
 
それから1年と数か月。
ますます年を取った両親には、新しくスマホを持つ必要性はなさそうだった。
でも、だからこそ新しいスマホが役に立つかもしれない。
特に、父には新しいことを始めるだけでも、呆け防止効果になるかもしれない、
そう思った。
 
らくらくフォンをやめて普通のスマホにすれば、LINEも使えるようになるだろう。好きな将棋や野球の検索や、YouTubeの動画を見ることだってできる。
老人に今さら、というより、今だからこそ新しいスマホを持つ意味があるのではないか。使い方を覚えるだけでも脳が活性化する。コロナ禍で出歩く機会が減ってしまったからこそ、家の中にいて脳に刺激を与えてくれるものとして価値があるような気がした。
 
4月の最初の日曜日、一緒にドコモショップへ機種変更に行った。
父と母、新旧ともに2台とも同じ機種なので、説明は同時だったのだが、10時半から午後2時までかかってしまった。
途中、お腹が空いてイライラしてきた私を、はっとさせる出来事があった。
 
「では、ここにネットワーク暗証番号を入れてください」
「すみません、父はIDや暗証番号、パスワードなどをメモした冊子を失くしてしまったので、わからないと思います」
「まあ、思い当たる番号を試しに入れてみてください」
「お父さん、覚えてないよね」
「いや、ちょっとやってみるよ」
 
そう言って、父が入力すると、それは正しかった。
 
「ええーっ、お父さんごめんなさい。まさか正しく入力できるとは思わなかった」
 
まだまだ父は呆けていない。嬉しいサプライズだった。
新しいスマホも、案外早く使いこなしてくれるのではないか。
そう期待したほど簡単にはいかなかった。
2日に一度はLINEの使い方を説明するのだが、昼に私が送ったメッセージに既読がつくのは、夜、説明している時になってしまう。
なかなかハードルは高いようだった。
 
けれど、嬉しい変化もあった。
 
「お父さん、今日は買い物に自転車を使わないで歩いて行ったのよ。それで4000歩を超えたって喜んでた」
 
母が嬉しそうに教えてくれた。
万歩計にグラフがついて、一週間の変化が目に見えるようになったのが面白くて、歩くモチベーションになるらしい。
父の手の中のスマホは、上へ行くエレベーターを呼ぶボタンのようだ。
動かず歩かずのまま過ごしていたら、下るばかりだった体力が、スマホを手に取ったおかげで上り調子に変わることができた。現状より上の階へ上がることができたのだ。
 
「コロナが落ち着いたら、今度、またスマホ教室に行ってみるよ」
 
そんなことまで言い出した。
人と会ったり話したり学んだり。そういうことを続けている限りエレベーターは上へ行ける。スマホという父のささやかな挑戦は始まったばかりだ。
時間はたっぷりある。
これからLINEやYouTubeも使いこなしていくだろう。
いや、やはり一番使ってほしいのは万歩計だ。
まずは90歳。
次は100歳目指して楽しく歩き続けてほしい。
スマホを使えば、手の中で新しい世界を知ることもできるのだから。
好奇心を失わず、新しい挑戦を続けてほしい。
 
 
 
 
***
 
この記事は、天狼院書店の大人気講座・人生を変えるライティング教室「ライティング・ゼミ」を受講した方が書いたものです。ライティング・ゼミにご参加いただくと記事を投稿いただき、編集部のフィードバックが得られます。チェックをし、Web天狼院書店に掲載レベルを満たしている場合は、Web天狼院書店にアップされます。
 


人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

 

お問い合わせ


■メールでのお問い合わせ:お問い合せフォーム

■各店舗へのお問い合わせ
*天狼院公式Facebookページでは様々な情報を配信しております。下のボックス内で「いいね!」をしていただくだけでイベント情報や記事更新の情報、Facebookページオリジナルコンテンツがご覧いただけるようになります。


■天狼院書店「東京天狼院」

〒171-0022 東京都豊島区南池袋3-24-16 2F
TEL:03-6914-3618/FAX:03-6914-0168
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
*定休日:木曜日(イベント時臨時営業)


■天狼院書店「福岡天狼院」

〒810-0021 福岡県福岡市中央区今泉1-9-12 ハイツ三笠2階
TEL:092-518-7435/FAX:092-518-4149
営業時間:
平日 12:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00


■天狼院書店「京都天狼院」

〒605-0805 京都府京都市東山区博多町112-5
TEL:075-708-3930/FAX:075-708-3931
営業時間:10:00〜22:00


■天狼院書店「Esola池袋店 STYLE for Biz」

〒171-0021 東京都豊島区西池袋1-12-1 Esola池袋2F
営業時間:10:30〜21:30
TEL:03-6914-0167/FAX:03-6914-0168


■天狼院書店「プレイアトレ土浦店」

〒300-0035 茨城県土浦市有明町1-30 プレイアトレ土浦2F
営業時間:9:00~22:00
TEL:029-897-3325


■天狼院書店「シアターカフェ天狼院」

〒170-0013 東京都豊島区東池袋1丁目8-1 WACCA池袋 4F
営業時間:
平日 11:00〜22:00/土日祝 10:00〜22:00
電話:03−6812−1984

 


2021-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

関連記事