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メディアグランプリ

奇跡のピアニストを目指して


*この記事は、「ライティング・ゼミ」にご参加のお客様に書いていただいたものです。

人生を変えるライティング教室「天狼院ライティング・ゼミ」〜なぜ受講生が書いた記事が次々にバズを起こせるのか?賞を取れるのか?プロも通うのか?〜

記事:安光伸江 (ライティング・ゼミ 超通信コース)
 
 
12年間、ピアノを弾かなかった。
 
東京で音大の非常勤講師をしていたのだけど、持病のうつ病が悪化して仕事をやめ、実家に帰ることになったのが2008年9月。後期の授業が始まる1週間前に休職を決め、迎えに来た父の判断で東京の住まいを引き払うことになった。ピアノはもう弾けないものだと思っていたので処分する話も出たけど、どうにも踏み切れずにとりあえず持って帰った。
 
それから12年あまり、途中ちょろちょろと弾いたことはあった気もするけど、調律もせず、ほとんどピアノの蓋を開けなかった。
 
傷ついていた。
 
音大の講師になる前は母校の非常勤助手をしながら演奏活動をしていた。現代曲だって弾いたし、一流の演奏家の伴奏もしたし、プロのオーケストラの中でピアノパートを弾いたこともあった。
 
そんなにバリバリと弾ける技術があったわけでもない。だけど「やめるほど下手じゃない、売れるほどうまくない」という状況で、やめるにやめられなかった。
 
音大で教えるようになってからしばらくして、演奏より教育にシフトした。担当がソルフェージュとキーボードハーモニーという基礎教育の分野だったので、自分の演奏よりも人に教えることに重きを置くようになった。それから家ではあまり弾かなくなった。
 
だから演奏活動としては、東京から帰ってからの12年+数年のブランクがあったことになる。
 
ピアノを弾くの、いやだ
つらいことを思い出すのがいやだ
調律するのに、何年もたってるからお金がたくさんかかるのもいやだ
もう音楽には戻れない
 
そう思って、別の仕事を探した。ライティングゼミに入ったのも、書くことがわりと好きだから、それなら今からでも仕事に出来るんじゃないかと思ったこともあった。プロフェッショナルゼミ、ライターズ倶楽部という上級コースにも進み、企画が通って「素人投資家いちねんせい」という連載も書くようになった。
 
でも、ライターとして生きていく覚悟ができないまま、ずるずると日にちばかりが過ぎていった。
 
あるとき、連載を書くために経済の勉強をしていて、日経MJだか産業新聞だかの記事が目にとまった。
 
ヤマハのC3X espressivo という、新しいピアノが発売されるという記事だった。家庭に置けて、上級者やレスナーにちょうどいいという触れ込みだった。
 
うちにあるピアノは学生時代に買ったC3Aという機種で、買ってからもう30年以上たっている。今度のC3X espressivoは大きさが同じだから、うちの洋間にもちゃんと入る。そして、espressivo(音楽用語で「表情豊かに」という意味)という名の通り、表現力が豊からしい。
 
欲しいかも
 
ちらっとこころが動いた。証券会社においてある投資信託を担保にローンを組めば買えるお値段。スタインウェイとかベーゼンドルファーとか外国製の高級ピアノは買えなくても、C3X espressivo ならなんとか買える。
 
だけど、私は何年もピアノを弾いてなくて手が言うことをきかない。
 
そこで、今あるピアノをついに調律する決心がついた。まずはリハビリからだ。12年調律してなかったから10万円はかかるだろうと思っていたら、3万円税別でやってもらえた。これでピアノが生き返った!
 
そこからは毎日ピアノを弾くようになった。といっても昔みたいに弾けるわけはなくて、ちょこっと弾くのをいちにち何回かするだけだったけど。
 
最初はツェルニーの左手のための練習曲というのをやってみた。
 
どれみふぁそらしどそみそど。
 
左手で音階と分散和音を弾く。右手は和音で伴奏をする。そういう曲だった。
 
なかなか手が動かなかったけど、子どもの頃やっていたようにゆっくり弾いたり、リズムをつけて弾いたりしていたら、少しずつ弾けるようになってきた。
 
そうしたらそのリハビリの様子をみんなに見てもらいたくなったので、YouTubeチャンネルを作って公開してみた。
 
ピアノを再開した、というのを喜んでくれる人が聞いてくれて、「いい曲ですね!」「元気が出ました」などのコメントをいただいた。
 
それからツェルニーの練習曲やらブルグミュラーの練習曲やら、子どもの頃に弾いていた曲をアップするようになった。
 
もちろん、そんなに上手いわけじゃない。ありゃ。という事故もある。だけど、練習していくうちに、だんだん上手になってきた……ような気がする。
 
そして2ヶ月たったあたりで、ソナチネとかソナタとかを弾くようになった。子どもの頃はブルグミュラー25番練習曲を小学校1年の1年間でやり、それから3年生の3月の発表会で初めてソナタを弾いたから、ソナチネはその間にやった。それくらいのスパンでやっていたものを、2ヶ月ほどで巻き戻した。
 
うん、いいかも
 
ソルフェージュとキーボードハーモニーを教えていたことも、リハビリに役立った。和音をよく聞いて弾く。そうすると曲としてちゃんとしてくるんだ。ソナチネなどの、曲の形式みたいなものも、オトナになって弾き直すとよくわかる。
 
そんなこんなでピアノがどんどん好きになってきた。
 
折しも乳がんの転移が見つかって、1ヶ月あまり放射線治療をした。その最終日、先生に「生きられますか? ピアノ買ってもいいですか?」と聞いたら、「生きられますよ、ピアノ、弾きましょう!」と言ってもらえた。新しいピアノ、思い切って買っちゃおうかな。そしていいピアノでいっぱい弾いて、たくさんYouTubeにアップしようかな。
 
12年+αのブランクがあったから、技術的にバリバリ弾くのは無理にしても、癒しのピアノが弾けるようになりたい。いろんな人に聞いてもらいたい。こんなに長いブランクからプロのピアニストに戻るのは奇跡だと思うけど、音楽の喜びを届けられるようになりたい。
 
がんばるぞ。
 
 
 
 
***
 
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2021-04-17 | Posted in メディアグランプリ, 記事

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